※著作権を放棄した“新人魔王の奮闘記”が出てきますが、著作権譲渡先の作家さんの許可を頂いております。
[魔界時間6月18日13:00.アルカディア王国 魔王城 ルーシー・ブラッドプール1世&ポーリン・ルシフェ・エルミラ]
「あなたを宮廷魔導師にしろ、と……?」
「ええ。少なくとも私は、イリーナみたいに途中で投げ出して逃げるようなことはしませんわ」
玉座に座る魔界の女王ルーシー・ブラッドプール1世は困惑した表情で、眼下に畏まる女魔道師を見下ろした。
雪女のように病的なほどに青白い肌。
美しくウェーブの掛かった金髪に碧眼。
これだけ見ると、まるで“雪の女王”だが、あいにくと彼女は吸血鬼……ヴァンパイアが出自である。
人間界で生まれ育った者で、そこでも先祖を辿れば、辺境領主に仕えていた貴族の家系に行き着くという。
「確かに昔……まだこの魔界がバァル大帝の政治だった頃には、そのような役職がありました。それに一時期、あなたの妹弟子であるイリーナ師が就いていたというのは事実です。そして、どのような経緯でその役職を退いたのかは、私も知りません。ですが今はバァル大帝による絶対王制ではなく、政党や議会が国政を運営する立憲君主制です。宮廷魔導師なる役職に、必要性を感じ得ません」
「ふふふ……」
すると、ポーリンは笑みをこぼした。
彼女もまた金髪碧眼の白人であるが、ルーシーの髪が銀色に近い金だとすれば、こちらは黄色に近い。
「恐れながら、陛下は宮廷魔導師の業務内容について、全てをご存知ではないようですね」
「と、言いますと?」
「イリーナが逃げ出した理由について、陛下はどうお考えでしょうか?」
「……バァル帝政が変わって、私が王政を引き継ぎました。その際、政治体制について混乱があったのは事実です。恐らくそれで王国を見限ったのではないでしょうか。あの政変では、仕方の無いことです」
「それは表向きの理由です。どんなに政変が起ころうと、そこに国が存在する限りは居続けるのが魔道師というものです。このお城の地下に、“大水晶”がございますね?」
「それが何か?」
「あれを暴走させた責任を取らされるのが嫌で逃げ出したのですよ」
ポーリンは妹弟子の不祥事を嘲笑った。
「大水晶の操作を魔道師が?」
「はい」
「バァル大帝は私に王政を引き継がせる際、大水晶は全て私が管理するように強く言っていた……」
「魔道師に管理させて失敗したので、懲りたのでしょうね。場合によっては、国が1つ無くなる代物ですから。私ならイリーナと違い、大水晶を正当な使用法で管理することができますわ」
「あなたの言いたいことは分かりました。いずれにせよ大水晶は、国宝級のものです。それに関わる役職の復活とあれば、議会に掛けなくてはなりません。あいにくと今、議会は閉会中で首相も不在です。回答はしばらくお待ちください」
「ふふふふ……」
「さっきから無礼だぞ、貴様!」
ポーリンの笑みに、侍従長のセバスチャンが突っ込んだ。
「申し訳ありません。陛下が事情もご存知無く、悠長でおられるのに驚きまして……」
「何が言いたいのですか?」
ルーシーは髪の色と同じ眉を潜めて、魔道師を見据えた。
「既に大水晶は、欲求不満が溜まった7人の悪魔達の気を吸い取って暴走しかかっています」
「分かっています。しかしそれは私が責任を持って、抑えていますので、余計な心配は御無用」
「本来それは魔王様のお仕事ではなく、側近たる宮廷魔導師の仕事なのです。まあ、バァル大帝は人選に失敗されたようですが……。既に、人間界に影響が出始めているようですよ」
「多少の影響はご容赦です。ハル……うちの安倍首相も、それは承知の上です」
[同日同時間帯 東京都江東区森下 ワン・スター・ホテル エレーナ・マーロン]
エレーナは師匠ポーリンの元から日本に出張してきた。
幻想郷の入口を探しに長期滞在するにも、その滞在先の確保は必要不可欠である。
ポーリンのつてで、彼女は東京23区内のビジネスホテルに滞在が決まった。
とはいっても、江東区の森下地区は山谷ほど有名ではないにせよ、いわゆるドヤ街が形成されていた町でもある。
今あるビジネスホテルなどは、ドヤだった物がバージョンアップしたものだという。
エレーナが滞在している場所も、シングル一泊数千円程度の部屋で、建物もこぢんまりとしているものだった。
夫婦経営で、エレーナにはこの経営者夫婦が師匠とどういった繋がりがあるのか分からなかった。
最上階の部屋(といっても、6階だが)を確保してくれたのは、ホウキで離発着するのに都合が良いからとのことだが、さすがにこんな街中過ぎる場所をホウキで離発着していたら、あっという間に騒ぎになるだろう。
夜中であっても、人の目があるのが都会というものだ。
飛ぶ練習なんかもしないといけないのだが、なかなかいい案が浮かばない。
また、ワープの魔法なんて、そうそう使えるものでもない。
それに、エレーナにはここでの仕事もあった。
上記の理由から宅急便ではない。
現実は厳しいのだ。
それは、フロントの仕事。
といっても、基本的にはその補助である。
どういうことかというと、今、ドヤ街の客層に劇的な変化が訪れているのだ。
それまでの日雇い労働者などから、若い外国人旅行客である。
安い宿泊料金で且つ安全に泊まれるホテルということで、特にバックパッカー達からの注目度が俄かに増しているという。
だがあいにくと、彼らのほぼ全員が日本語を喋ることができない。
バックパッカーも英語圏の人間だったり、ヒスパニックだったり、中華圏の人間だったりと様々だ。
そんな時、どんな言語にも対応できる魔道師は貴重だった。
エレーナを含め、流暢な日本語でユタ達と会話する彼女達だが、彼女らは知ってて日本語を喋ってるのではない。
自分の母国語を魔力に乗せて喋っているだけである。
逆に、外国人が話す外国語を魔力で変換して翻訳することも可能。
つまり、彼女の仕事は通訳である。
(※宮崎アニメ版“魔女の宅急便”では、キキは外国に行ったわけではないので、そういった描写は無い)
ここでホテルのフロントの仕事をしてみて、あることに気づいた。
確かに、客層はバックパッカーが多かった。
彼らはその名の通り、バックパック1つで世界中どこへでも旅をする。
しかもパッケージツアーで行くような有名観光地ではなく、その国の内情を映し出す小さな町や村へ足を運ぶのを良しとする者もいる。
その彼らがもたらす情報が、意外と大きいことに気づいたのだ。
中には日本国中を旅した後、母国へ帰るというアメリカ人旅行客がいて、彼が体験した不思議な現象の話も聞いた。
が、魔道師的には既に正体の分かるものだったので、エレーナは相槌を打つだけだったが。
(それにしても、飛ぶ練習もしないとなぁ……)
確かに情報は溢れていたが、どれもこれも幻想郷の入口を連想させるものは無かった。
やはり、自分で探さないとダメなのか。
しかし、意外と日本も広い。
1人で探していると、やはり時間と労力が無駄に消費されるだけだと思う。
宿泊代どころか、アルバイト代が出るくらいだから、それでお金を貯めて、何日も掛けて探しに行こうか……。
そんなことも考えていた。
そんなある日のこと……。
「いらっしゃいませー」
たまたま1人で店番していた時、1人の宿泊客がやってきた。
「こんにちは。予約してないんだけど、シングル1つ空いてるかしら?」
1人の女性客が飛び込みでやってきた。
その姿を見たエレーナは、
「ああーっ!?」
物凄く驚いた。
その相手とは……。
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何かまたユタ達が登場してこないので、外伝みたいになってしまいました。
いや、一応出る予定なんで、本編扱いなんだけど……もしかしたら……。
本編に“外伝”という文字が後で追加されたら【お察しください】。
それにしても“ドヤ”ってのも、差別用語なのかなぁ……???
正式名称は『簡易宿所』って言うみたいだけど、これだとイメージ湧かないんだよなぁ……。
[魔界時間6月18日13:00.アルカディア王国 魔王城 ルーシー・ブラッドプール1世&ポーリン・ルシフェ・エルミラ]
「あなたを宮廷魔導師にしろ、と……?」
「ええ。少なくとも私は、イリーナみたいに途中で投げ出して逃げるようなことはしませんわ」
玉座に座る魔界の女王ルーシー・ブラッドプール1世は困惑した表情で、眼下に畏まる女魔道師を見下ろした。
雪女のように病的なほどに青白い肌。
美しくウェーブの掛かった金髪に碧眼。
これだけ見ると、まるで“雪の女王”だが、あいにくと彼女は吸血鬼……ヴァンパイアが出自である。
人間界で生まれ育った者で、そこでも先祖を辿れば、辺境領主に仕えていた貴族の家系に行き着くという。
「確かに昔……まだこの魔界がバァル大帝の政治だった頃には、そのような役職がありました。それに一時期、あなたの妹弟子であるイリーナ師が就いていたというのは事実です。そして、どのような経緯でその役職を退いたのかは、私も知りません。ですが今はバァル大帝による絶対王制ではなく、政党や議会が国政を運営する立憲君主制です。宮廷魔導師なる役職に、必要性を感じ得ません」
「ふふふ……」
すると、ポーリンは笑みをこぼした。
彼女もまた金髪碧眼の白人であるが、ルーシーの髪が銀色に近い金だとすれば、こちらは黄色に近い。
「恐れながら、陛下は宮廷魔導師の業務内容について、全てをご存知ではないようですね」
「と、言いますと?」
「イリーナが逃げ出した理由について、陛下はどうお考えでしょうか?」
「……バァル帝政が変わって、私が王政を引き継ぎました。その際、政治体制について混乱があったのは事実です。恐らくそれで王国を見限ったのではないでしょうか。あの政変では、仕方の無いことです」
「それは表向きの理由です。どんなに政変が起ころうと、そこに国が存在する限りは居続けるのが魔道師というものです。このお城の地下に、“大水晶”がございますね?」
「それが何か?」
「あれを暴走させた責任を取らされるのが嫌で逃げ出したのですよ」
ポーリンは妹弟子の不祥事を嘲笑った。
「大水晶の操作を魔道師が?」
「はい」
「バァル大帝は私に王政を引き継がせる際、大水晶は全て私が管理するように強く言っていた……」
「魔道師に管理させて失敗したので、懲りたのでしょうね。場合によっては、国が1つ無くなる代物ですから。私ならイリーナと違い、大水晶を正当な使用法で管理することができますわ」
「あなたの言いたいことは分かりました。いずれにせよ大水晶は、国宝級のものです。それに関わる役職の復活とあれば、議会に掛けなくてはなりません。あいにくと今、議会は閉会中で首相も不在です。回答はしばらくお待ちください」
「ふふふふ……」
「さっきから無礼だぞ、貴様!」
ポーリンの笑みに、侍従長のセバスチャンが突っ込んだ。
「申し訳ありません。陛下が事情もご存知無く、悠長でおられるのに驚きまして……」
「何が言いたいのですか?」
ルーシーは髪の色と同じ眉を潜めて、魔道師を見据えた。
「既に大水晶は、欲求不満が溜まった7人の悪魔達の気を吸い取って暴走しかかっています」
「分かっています。しかしそれは私が責任を持って、抑えていますので、余計な心配は御無用」
「本来それは魔王様のお仕事ではなく、側近たる宮廷魔導師の仕事なのです。まあ、バァル大帝は人選に失敗されたようですが……。既に、人間界に影響が出始めているようですよ」
「多少の影響はご容赦です。ハル……うちの安倍首相も、それは承知の上です」
[同日同時間帯 東京都江東区森下 ワン・スター・ホテル エレーナ・マーロン]
エレーナは師匠ポーリンの元から日本に出張してきた。
幻想郷の入口を探しに長期滞在するにも、その滞在先の確保は必要不可欠である。
ポーリンのつてで、彼女は東京23区内のビジネスホテルに滞在が決まった。
とはいっても、江東区の森下地区は山谷ほど有名ではないにせよ、いわゆるドヤ街が形成されていた町でもある。
今あるビジネスホテルなどは、ドヤだった物がバージョンアップしたものだという。
エレーナが滞在している場所も、シングル一泊数千円程度の部屋で、建物もこぢんまりとしているものだった。
夫婦経営で、エレーナにはこの経営者夫婦が師匠とどういった繋がりがあるのか分からなかった。
最上階の部屋(といっても、6階だが)を確保してくれたのは、ホウキで離発着するのに都合が良いからとのことだが、さすがにこんな街中過ぎる場所をホウキで離発着していたら、あっという間に騒ぎになるだろう。
夜中であっても、人の目があるのが都会というものだ。
飛ぶ練習なんかもしないといけないのだが、なかなかいい案が浮かばない。
また、ワープの魔法なんて、そうそう使えるものでもない。
それに、エレーナにはここでの仕事もあった。
上記の理由から宅急便ではない。
現実は厳しいのだ。
それは、フロントの仕事。
といっても、基本的にはその補助である。
どういうことかというと、今、ドヤ街の客層に劇的な変化が訪れているのだ。
それまでの日雇い労働者などから、若い外国人旅行客である。
安い宿泊料金で且つ安全に泊まれるホテルということで、特にバックパッカー達からの注目度が俄かに増しているという。
だがあいにくと、彼らのほぼ全員が日本語を喋ることができない。
バックパッカーも英語圏の人間だったり、ヒスパニックだったり、中華圏の人間だったりと様々だ。
そんな時、どんな言語にも対応できる魔道師は貴重だった。
エレーナを含め、流暢な日本語でユタ達と会話する彼女達だが、彼女らは知ってて日本語を喋ってるのではない。
自分の母国語を魔力に乗せて喋っているだけである。
逆に、外国人が話す外国語を魔力で変換して翻訳することも可能。
つまり、彼女の仕事は通訳である。
(※宮崎アニメ版“魔女の宅急便”では、キキは外国に行ったわけではないので、そういった描写は無い)
ここでホテルのフロントの仕事をしてみて、あることに気づいた。
確かに、客層はバックパッカーが多かった。
彼らはその名の通り、バックパック1つで世界中どこへでも旅をする。
しかもパッケージツアーで行くような有名観光地ではなく、その国の内情を映し出す小さな町や村へ足を運ぶのを良しとする者もいる。
その彼らがもたらす情報が、意外と大きいことに気づいたのだ。
中には日本国中を旅した後、母国へ帰るというアメリカ人旅行客がいて、彼が体験した不思議な現象の話も聞いた。
が、魔道師的には既に正体の分かるものだったので、エレーナは相槌を打つだけだったが。
(それにしても、飛ぶ練習もしないとなぁ……)
確かに情報は溢れていたが、どれもこれも幻想郷の入口を連想させるものは無かった。
やはり、自分で探さないとダメなのか。
しかし、意外と日本も広い。
1人で探していると、やはり時間と労力が無駄に消費されるだけだと思う。
宿泊代どころか、アルバイト代が出るくらいだから、それでお金を貯めて、何日も掛けて探しに行こうか……。
そんなことも考えていた。
そんなある日のこと……。
「いらっしゃいませー」
たまたま1人で店番していた時、1人の宿泊客がやってきた。
「こんにちは。予約してないんだけど、シングル1つ空いてるかしら?」
1人の女性客が飛び込みでやってきた。
その姿を見たエレーナは、
「ああーっ!?」
物凄く驚いた。
その相手とは……。
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何かまたユタ達が登場してこないので、外伝みたいになってしまいました。
いや、一応出る予定なんで、本編扱いなんだけど……もしかしたら……。
本編に“外伝”という文字が後で追加されたら【お察しください】。
それにしても“ドヤ”ってのも、差別用語なのかなぁ……???
正式名称は『簡易宿所』って言うみたいだけど、これだとイメージ湧かないんだよなぁ……。