[6月22日15:00.大石寺第二ターミナル 稲生ユウタ&威吹邪甲]
(富士急静岡バスによる新富士駅行き、下山バス。高速バスタイプが使用されれば当たり)
「終わった終わった、帰りましょ〜♪」
「大人2枚」
「はい、ありがとうございます」
夏期講習会が終わり、ユタと威吹は新富士駅に向かうバスを待っていた。
こういう行事がある日は、バス会社から係員が出張って来て乗車券を売り歩いていた。
やってきたバスは一般路線用ではなく、高速バスに使用されるタイプ。
これは当たりである。
共通運用らしく、同じ便でも日によって一般路線用が来ることもある。
「さっき出て行った東京行きに乗れれば良かったのにねぇ……」
バスに乗り込みながら威吹が言った。
「満席で予約が取れなかったんだ。何しろ急な話だったからねぇ……」
2号車以降の続行便が出ることはなかったもよう。
「てか藤谷班長、家まで乗せてけよってね」
「いいからいいから」
ユタは威吹を宥めた。
バスは定刻通りに大石寺第二ターミナルを発車した。
富士駅→新富士駅の順に止まる。
「あのエセ妖怪退治屋、また襲って来たりはしないだろうか?」
「威吹がボコしてくれたから大丈夫だよ」
「全く。懲りない連中だ」
「ハハハ……おっと!また来月来ます」
ユタはパンッと三門に向かって手を合わせた。
「来月も行くの……」
「もち!」
「本当に熱心だなぁ……」
威吹は呆れ顔だった。
「何かホトケに願掛けをするわけでもあるまいに……」
「いや、するよ」
「何て?」
「お察しください」
「ははは……」
この時、威吹はユタが早くマリアに会いたいことを願ったと見破った。
[同日15:50.JR新富士駅 ユタ&威吹]
「何だか空模様が怪しいね」
「ゲリラ豪雨の時期でもあるまいに……」
バスを降りる頃、空がどんより曇って来た。
威吹は耳を澄ましてみる。
「うん。雷の音が……」
「マジ!?」
駅の中に入った。
「埼玉の方は大丈夫かねぇ……」
「多分ね」
雲のせいで、富士山を見ることができなくなっていた。
「16時9分発、名古屋始発の“こだま”660号。これにしよう。……あれ?これ、前にも乗ったなぁ……」
「大豪雪とやらで、電車やバスが軒並み運休した時じゃない?」
と、威吹。
「おー、そうだそうだ」
ユタは納得した。
確か2月の支部総登山の時、運悪く大豪雪に当たってしまい、動いているのがJR線は一部の路線と新幹線だけという有り様だった。
下山は高速バスにしていたユタ達も、そのバスが運休してしまい、タクシーで新富士駅まで行き、そこから動いている新幹線を利用せざるを得なかった。
「そんなこともあったねぇ……」
ユタはしみじみと語りながら、券売機で東京までのキップを買った。
新幹線特急券は東京までだが、乗車券は大宮である。
「名古屋始発だったら空いてるだろう。また、1号車にしよう」
「うんうん」
(※この駅に大石寺の広告看板があるらしいが、いつ頃設置されたものなのか、どこに設置してあるのか現認していないのでスルーさせて頂く)
[同日16:00.新富士駅上りホーム ユタ&威吹]
超高速で“のぞみ”が通過線を颯爽と通過していく。
これでも威吹には、コマ送りのように見えるという。
「あ……雨」
そこで雨が降って来た。
ゲリラ豪雨である。
「まあ……運休は無いと思うが、徐行とか食らったら嫌だな……」
上空では雷も鳴っている。
〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、16時9分発、“こだま”660号、東京行きが入線致します。白線の内側まで、お下がりください。この電車は終点まで、各駅に止まります。自由席は1号車から7号車までと、13号車から15号車です。……〕
「来た……」
雷雨の中、脇坂京子氏による構内放送がホームに響いた。
威吹は2.0以上もある視力で、列車が来る方向を見据えた。
ポイントを渡る関係上、それなりに速度を落として入線してくる。
それでも時速70キロはあるのではないだろうか。
〔「1番線に到着の電車は“こだま”660号、東京行きです。当駅で、通過列車の待ち合わせを致します。……」〕
「指定席が客が多くて、自由席が空いている……」
という皮肉な現象。
1号車はガラガラだった。
〔新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました。……〕
往路と同じN700系に乗り込んだ。
空いている2人席に座る。
同時に、通過列車が轟音と水しぶきを上げて通過していった。
それで列車が揺れる。
きっと、次の三島駅でも通過待ち合わせがあるのだろう。
「ほんと、“こだま”はのんびりしている」
「いやいや……」
ユタの言葉に江戸時代生まれの威吹は苦笑した。
「全然速いから」
「そうかなぁ……?あと何十年もすれば、リニア・モーターカーも開通するのに……」
「ええっ?りにあ……何だって?」
「リニア・モーターカー。東京から大阪まで1時間で行けるという……」
「何それ?魔境とか魔界を通って行くの?」
「違う違う。それだけ速いんだよ。もっとも、計画の段階ではまだ名古屋までしか作らないみたいだけど……」
「ふーん……」
[同日16:09.“こだま”660号、1号車内 ユタ&威吹]
列車が走り出す頃、雨が弱まり始めた。
「ただの通り雨だったみたいだな」
「帰り際、何とか富士山見えるようになるかなぁ……」
本線に出る時のポイントで、列車がガクンと揺れる。
その後は、通過列車を追い掛けるようにグングン速度を上げていった。
実際は追い掛けるというより、三島駅で待避する、後続の速達列車から逃げる為であろうが。
「そうそう。架空の話ではね、地下にリニア・モーターカーを作るというのがあるんだよ」
と、ユタ。
「“卯酉東海道”。近未来に作られた全線地下線のリニアだよ。この東海道の地下をずっと走り続けるんだって」
「冥界鉄道よりも怖そうな感じだな」
「東海道新幹線は東京〜新大阪間だけど、何故かこのリニア、京都までしか開通していない」
「京まで?」
「卯京都駅から酉東京駅まで、たったの2駅しか無いんだってさ。それを53分で結ぶ。東海道五十三次に掛けてね」
「東海道か……。ボクはこの富士辺りまでしか歩いたこと無いな。それに、途中に駅が無いということはユタ、大石寺参詣に使えないということじゃないか」
「まあ、そうなんだけどね」
ユタは苦笑いした。
どっちにしろ、リニアが開通しても、ユタには無縁のようである。
“こだま”とJRバス(たまに富士急も)しか登山に供していないようでは……。
再び車窓に大粒の雨が叩きつける。
この程度では何でも無いのか、最遅の列車は一定の速度を保ったまま、東へ走り続けた。
(富士急静岡バスによる新富士駅行き、下山バス。高速バスタイプが使用されれば当たり)
「終わった終わった、帰りましょ〜♪」
「大人2枚」
「はい、ありがとうございます」
夏期講習会が終わり、ユタと威吹は新富士駅に向かうバスを待っていた。
こういう行事がある日は、バス会社から係員が出張って来て乗車券を売り歩いていた。
やってきたバスは一般路線用ではなく、高速バスに使用されるタイプ。
これは当たりである。
共通運用らしく、同じ便でも日によって一般路線用が来ることもある。
「さっき出て行った東京行きに乗れれば良かったのにねぇ……」
バスに乗り込みながら威吹が言った。
「満席で予約が取れなかったんだ。何しろ急な話だったからねぇ……」
2号車以降の続行便が出ることはなかったもよう。
「てか藤谷班長、家まで乗せてけよってね」
「いいからいいから」
ユタは威吹を宥めた。
バスは定刻通りに大石寺第二ターミナルを発車した。
富士駅→新富士駅の順に止まる。
「あのエセ妖怪退治屋、また襲って来たりはしないだろうか?」
「威吹がボコしてくれたから大丈夫だよ」
「全く。懲りない連中だ」
「ハハハ……おっと!また来月来ます」
ユタはパンッと三門に向かって手を合わせた。
「来月も行くの……」
「もち!」
「本当に熱心だなぁ……」
威吹は呆れ顔だった。
「何かホトケに願掛けをするわけでもあるまいに……」
「いや、するよ」
「何て?」
「お察しください」
「ははは……」
この時、威吹はユタが早くマリアに会いたいことを願ったと見破った。
[同日15:50.JR新富士駅 ユタ&威吹]
「何だか空模様が怪しいね」
「ゲリラ豪雨の時期でもあるまいに……」
バスを降りる頃、空がどんより曇って来た。
威吹は耳を澄ましてみる。
「うん。雷の音が……」
「マジ!?」
駅の中に入った。
「埼玉の方は大丈夫かねぇ……」
「多分ね」
雲のせいで、富士山を見ることができなくなっていた。
「16時9分発、名古屋始発の“こだま”660号。これにしよう。……あれ?これ、前にも乗ったなぁ……」
「大豪雪とやらで、電車やバスが軒並み運休した時じゃない?」
と、威吹。
「おー、そうだそうだ」
ユタは納得した。
確か2月の支部総登山の時、運悪く大豪雪に当たってしまい、動いているのがJR線は一部の路線と新幹線だけという有り様だった。
下山は高速バスにしていたユタ達も、そのバスが運休してしまい、タクシーで新富士駅まで行き、そこから動いている新幹線を利用せざるを得なかった。
「そんなこともあったねぇ……」
ユタはしみじみと語りながら、券売機で東京までのキップを買った。
新幹線特急券は東京までだが、乗車券は大宮である。
「名古屋始発だったら空いてるだろう。また、1号車にしよう」
「うんうん」
(※この駅に大石寺の広告看板があるらしいが、いつ頃設置されたものなのか、どこに設置してあるのか現認していないのでスルーさせて頂く)
[同日16:00.新富士駅上りホーム ユタ&威吹]
超高速で“のぞみ”が通過線を颯爽と通過していく。
これでも威吹には、コマ送りのように見えるという。
「あ……雨」
そこで雨が降って来た。
ゲリラ豪雨である。
「まあ……運休は無いと思うが、徐行とか食らったら嫌だな……」
上空では雷も鳴っている。
〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、16時9分発、“こだま”660号、東京行きが入線致します。白線の内側まで、お下がりください。この電車は終点まで、各駅に止まります。自由席は1号車から7号車までと、13号車から15号車です。……〕
「来た……」
雷雨の中、脇坂京子氏による構内放送がホームに響いた。
威吹は2.0以上もある視力で、列車が来る方向を見据えた。
ポイントを渡る関係上、それなりに速度を落として入線してくる。
それでも時速70キロはあるのではないだろうか。
〔「1番線に到着の電車は“こだま”660号、東京行きです。当駅で、通過列車の待ち合わせを致します。……」〕
「指定席が客が多くて、自由席が空いている……」
という皮肉な現象。
1号車はガラガラだった。
〔新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました。……〕
往路と同じN700系に乗り込んだ。
空いている2人席に座る。
同時に、通過列車が轟音と水しぶきを上げて通過していった。
それで列車が揺れる。
きっと、次の三島駅でも通過待ち合わせがあるのだろう。
「ほんと、“こだま”はのんびりしている」
「いやいや……」
ユタの言葉に江戸時代生まれの威吹は苦笑した。
「全然速いから」
「そうかなぁ……?あと何十年もすれば、リニア・モーターカーも開通するのに……」
「ええっ?りにあ……何だって?」
「リニア・モーターカー。東京から大阪まで1時間で行けるという……」
「何それ?魔境とか魔界を通って行くの?」
「違う違う。それだけ速いんだよ。もっとも、計画の段階ではまだ名古屋までしか作らないみたいだけど……」
「ふーん……」
[同日16:09.“こだま”660号、1号車内 ユタ&威吹]
列車が走り出す頃、雨が弱まり始めた。
「ただの通り雨だったみたいだな」
「帰り際、何とか富士山見えるようになるかなぁ……」
本線に出る時のポイントで、列車がガクンと揺れる。
その後は、通過列車を追い掛けるようにグングン速度を上げていった。
実際は追い掛けるというより、三島駅で待避する、後続の速達列車から逃げる為であろうが。
「そうそう。架空の話ではね、地下にリニア・モーターカーを作るというのがあるんだよ」
と、ユタ。
「“卯酉東海道”。近未来に作られた全線地下線のリニアだよ。この東海道の地下をずっと走り続けるんだって」
「冥界鉄道よりも怖そうな感じだな」
「東海道新幹線は東京〜新大阪間だけど、何故かこのリニア、京都までしか開通していない」
「京まで?」
「卯京都駅から酉東京駅まで、たったの2駅しか無いんだってさ。それを53分で結ぶ。東海道五十三次に掛けてね」
「東海道か……。ボクはこの富士辺りまでしか歩いたこと無いな。それに、途中に駅が無いということはユタ、大石寺参詣に使えないということじゃないか」
「まあ、そうなんだけどね」
ユタは苦笑いした。
どっちにしろ、リニアが開通しても、ユタには無縁のようである。
“こだま”とJRバス(たまに富士急も)しか登山に供していないようでは……。
再び車窓に大粒の雨が叩きつける。
この程度では何でも無いのか、最遅の列車は一定の速度を保ったまま、東へ走り続けた。