報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「ロスト・メモリー」 5

2014-06-10 21:46:50 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月12日15:30.仙台市泉区のぞみヶ丘の市道→アリスの研究所 平賀奈津子&巡音ルカ]

「本当に申し訳ありません。本当なら私、ずっとプロデューサーについていなくてはならないのに……」
 申し訳なさそうな顔をするルカ。
 ルカは突然イベント会社からゲスト出演のオファーがあり、それに出ることになった。
 仕事が終わってから、奈津子と合流し、車で研究所に向かっている。
「いいのよ。ボーカロイドは歌って踊って、人間に幸せを届けるのが使命なんだから。代わりにうちのダンナが敷島さんの所に行ったから大丈夫でしょ」
「奈津子博士はアリス博士にのお見舞いに?」
「そうなのよ。あと、頼まれごとがあってね……」
 車が赤信号で止まる。
 奈津子はギアをパーキングにし、ダッシュボードの中から1つのUSBメモリーを取り出した。
「これは?」
「私が子供を産む前に色々と“妊活”していたんだけど、その資料を貸してほしいって言われてね。取りあえず、この中に入れておいた」
「ニンカツ……?」
 信号が青になり、奈津子は再びギアをドライブに入れて車を走らせた。
「まあ、元気な子を産む為の下準備ってところかな。おかげさまで、今は2人産めたけど……」
 よちよち歩きの幼子達は今、家でメイドロボットの七海がお守りしている。
 夫婦共働きが当たり前のこのご時世、認可保育所への待機児童問題解決の1つして、子守りロボットの開発を平賀太一は打ち出している。
 いきなり0から作るのではなく、既に試作段階にあるメイドロボットを転用させる案で動いている。
 自分の子供達を実験台にするのはどうかと思うが、だからといって他人の子を実験台にするわけにもいかない。
 今のところ七海は、見事にベビーシッター役を果たしている。
 それを思い出したルカは、
「最初はミルクをあげるのも一苦労だったそうですね」
 微笑を浮かべた。
「そうなのよ。『粉ミルクを人肌で』といっても、そこはロボットだから、ちゃんとした数値を入れないとダメなのね」
「『ちょうどいい温度です。お茶と同じで』と言った時、太一博士が物凄く怒ってましたね」
「大人が飲むお茶の温度と、赤ちゃんが飲むミルクの温度は違うという所から打ち込まないとダメだったね」
「もしアリス博士が子供を産んだら、エミリーがお手伝いするのでしょうか?」
「ふむ……。マルチタイプに、それができるかどうかの実験も興味があるわね。でもまあ、そこはアリスの仕事でしょ」
 そうしている間に、車は研究所前の坂を上った。
「はい、到着ー」
「ありがとうございます」
 エントランスの前に車が着き、ルカは車を降りた。
 今日は研究所は休みだが、ボーカロイド達はいつもの通り、芸能活動に従事している。
 それでもエントランスのドアには、臨時休業の札が掛けられていた。
 オートロック式のドアなので、外来の来訪者はインターホンを押さなくてはならない。
 しかしボーカロイドはその隣にある読取機に右手をかざして、

 ピッ!
 カチッ!(←ロックの外れる音)

 こういう塩梅だ。
「ただいま」
 薄暗いエントランスホール。
 奥からやってきたのは、ボウッと緑色の瞳を鈍く光らせたエミリーだった。
「巡音ルカ」
「平賀奈津子博士が来たよ。アリス博士に会いたいって」
「ドクター・アリスは・何人たりとも・面会を・望んでおられない」
「あらー、冷たいわね」
 後から奈津子が入ってきた。
「頼まれた品を持ってきたっていうのに。もう1度聞いてくれない?」
 これがあまり馴染みの無い来訪者なら、例え財団関係者であっても、
「ノー。ドクター・アリスの・ご命令です。お引き取り・ください」
 と、断っていただろう。
 そこはロボットである。
 しかしさすがに相手が奈津子となると、
「……イエス。少々・お待ちください」
 と、なる。
 エミリーはスーッと奥へ引っ込んでいった。
「……何でホラーチックなの?アリスの趣味?」
「分かりません」
 ルカは微笑を浮かべたまま首を傾げ、エントランスホールの照明を点けた。
 明かりが無い、または薄暗い所ではボーカロイドも含めて、暗視機能が自動で作動する。
 暗さに応じて目が光るようになっているのだが、傍目から見て不気味なので改善が望まれている。
 そこへ、
「あっ、電話だ」
 太一から電話があった。
「はい、もしもし。どうだった、敷島さんは?……えっ?」
 敷島の名前が出てくると、どこからともなく、鏡音リン・レンと初音ミクが合言葉のようにやってきた。
「突然意識を失った!?原因は分からないって……!」
 奈津子の驚愕した言葉に、ボーカロイド達は浮足立った。
「精神的なものなの?……まだ意識は戻ってない!?」
「わたし、たかおさんの所に行ってきます!」
「リンも!」
「ぼ、ボクも!」
「ちょっと、3人とも!落ち着いて!」
 そこは年長組のボーカロイド。
 ルカは比較的落ち着いていて、浮足立つ年少組を制止した。
「平賀太一博士がいらっしゃるから、私達が行っても、何の役にも立たないわ」
「そんなこと……そんなことは……」
「そうだよ!ルカ姉ちゃん!リンの歌声で、ビシッと目が覚めるよ!」
「ボクだって!」
「余計なことはしない方がいいよ。必要な時は、博士の方から指示があるから」
 ルカは何とか年少組を宥めすかした。
 電話の終わった奈津子は、ボーカロイド達に敷島に起きた状態を説明した。
「……そういうことだから、しばらく安静みたいね。脳とかには異常が起きていないのは確かだから、精神的なものだろうって。ただ、今の敷島さんは外傷の治療で入院しているわけだし、泉北病院には心療内科は無いから、様子見しかないみたいだね」
「そんな……」
「とにかく、私はアリスと会ってくるから。くれぐれも余計なことはしないようにね。ルカ、お願いね」
「分かりました」

[同日17:00.同場所・アリスの寝室 平賀奈津子&アリス・シキシマ]

 アリスは相談できる相手が来て、思いをぶつけることができてスッキリした様子だった。
 しばらく泣いていたせいで、目が赤くなっている。
「アリスも敷島さんの記憶が無くなったことに、心当たりは無いのね?」
「あったら、とっくに何かしてるよ。とにかく前日までは、タカオはフツーだったわ。フツーにボーカロイドを連れ回していたし、研究所の事務の仕事もしていたし、アタシともフツーに食事をした。それだけよ」
(そして、敷島さんにも心当たりは無い、か……)
 奈津子は右手を口元にやった。
「ねえ、アリス。敷島さんと一緒に、私の家に来たことは覚えてるよね?」
「覚えてるよ?」
「その時、敷島さん、私達の子供を見て、『意外といいもんだな』って言ってたよね?」
「そうね。それって、結婚前のことじゃない?」
「うん。だからそれは敷島さんも覚えていると思う」
「だからね、早いとこ私が妊娠して、記憶が無いって言い訳をさせないようにしようと思うの。もう生理は終わったから、今度は行けるはず……!」
「ちょっと待って、アリス」
 奈津子もまた太一と同じく、違和感を覚えた。
「敷島さんはあの時、私達の子供を見て、きっと自分も子供が欲しいと思ったと思う」
「うん」
「それで結婚して、もう3ヶ月も経って子作りしてるのに、それでも生理が来たの?」
「……!?」
コメント (1)
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“アンドロイドマスター” 「ロスト・メモリー」 4

2014-06-10 00:01:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月12日05:00.アリスの研究所ボーカロイド居住区 初音ミク&MEIKO]

「あ、あの……MEIKOさん」
「何よ?」
 充電が終わってもタイマーでスリープ・モードに入るボーカロイド達。
 ボーカロイド達が使用する電力は電気自動車並であり、充電は電気料金が安くなる夜間に集中して充電することが多い。
 それでも足りない時は、充電済みの予備バッテリーを携帯する。
 スリープ状態であっても、緊急時などは即座に解除される仕組みになっている。
 MEIKOもその状態だったが、ミクに“起こされた”。
 ミクは不安そうな顔をしていた。
「たかおさんの部屋から、変な声と音がするんです」
「だから?」
「何か、起きてるんじゃないかって……」
「異常なら、エミリーに言えばいいじゃない。アイツがここの警備ロボットなんだから」
 因みにマリオとルイージは、財団本部に貸出中である。
「エミリーは『気にするな』って……」
「じゃあ、気にしなくていいじゃない。おおかた、プロデューサーとアリス博士が『お楽しみ』なんじゃないの?」
「でも、何か変なんです。ちょっと様子を見に行きましょうよ」
「デバガメはマズいでしょうよ」
「MEIKOさんも、部屋の外まで行けば分かると思います」
「あー、もう!分かったよ!」
 MEIKOは面倒臭そうに起き上がった。

 居住区を出て、敷島の部屋に向かうミクとMEIKO。
 夜間の無断外出や研究棟への立ち入りは禁止されているが、居住区内を歩くだけなら制限されていない。
 但し、あまり騒いでいるとエミリーに注意されるが。
 廊下の角を曲れば敷島の部屋という時、敷島の部屋のドアが開く音が聞こえた。
「隠れて」
 MEIKOは廊下の角にミクと共に隠れた。
 そっと覗いてみると、下着姿のアリスがいた。
 MEIKO達が来たのとは反対方向にフラフラと歩いて行く。
(ほら、やっぱり。あれ絶対、プロデューサーとお楽しみだったよ)
(そうですか……)
 因みにシーンと静まり返った所内、小声でも気づかれる恐れがあるので、ボーカロイド2人は無線通信に切り替えた。
 これなら発声しなくとも良い。
(もしかしたら、プロデューサーの記憶、戻ったのかもよ?)
(おおー!)
 MEIKOの言葉に歓喜の声を上げるミク。
(結婚してから3ヶ月だからね、そろそろ普通の【ぴー】に飽きて、ハードプレイをしていたのかもよ?)
(何ですか、それ!?)
(まあ、設定年齢16歳のミクにはちょっとね……)
 と、その時だった。
「ふふ……ふHAHAHAHAHAHAHAHA!」
「!?」
「!!!」
 突然アリスが狂ったように笑い出した。
 そして、ぺたんと床に座り込む。
 ミクは驚いて、MEIKOを見た。
「くくく……」
 笑っている?いや、泣いている?
「…………」
 MEIKOは意を決した様子で、アリスに近づいた。
「アリス博士、どうかしましたか?」
 背後から声を掛けてみた。
「いえ、今何か博士の声がしたものですから……」
 さりげなく、今来たことを先に言っておくMEIKO。
「お体の具合が悪いのでしたら、救急車を……」
 アリスはMEIKOを振り向いた。
「!」
 その顔は泣き笑いであった。
「タカオのね……【ぴー】を搾り取ってやったの。思いっきり【ぴー】に【ぴー】したから、例え記憶が無いままでも、もう逃げられないよ」
「は、はあ……。それで、プロデューサーは……」
 そこまで言った時、MEIKOは背後にある気配を感じた。
(KAITO!プロデューサーの様子見といて!)
(あっ?ああ、分かった)
 初音ミクが製造される前、試作機の相棒として製造されたKAITOである。
 彼も気づいて、様子を見に来たのであろう。
 無線通信でMEIKOの依頼を受けたKAITOは、敷島の部屋に入った。
「失礼します。プロデューサー……プロデューサー!?」
 KAITOはこの部屋で起きていた惨状の第一発見者となったのであった。

[同日07:00.同場所 MEIKO&エミリー]

「このポンコツ!何が『気にするな』だよ!?プロデューサー、入院しちゃったじゃないのよ!?え!?何とか言えよ!」
 MEIKOは憤慨した様子で、エミリーの胸倉を掴んだ。
 エミリーは相変わらずポーカーフェイスのままで、胸倉を掴むMEIKOの右手を掴んだ。
「ドクター・アリスの・命令だった」
「あんた、アリス博士とプロデューサーのどっちが優先よ!?」
「同等だ。ドクター・アリスは・私に・『何もするな』と・命令された。しかし・敷島さんは・何も命令して・こなかった」
「命令命令って、あんたも自分で考えて行動できる人工知能を持ってるんだから、博士の命令がおかしいって気づかないの!?」
「…………」
「またダンマリかよ!?都合が悪くなるといつもアンタは……!」
「もう、そろそろその辺にしとくんだ」
「KAITO」
 敷島が搬送された病院から戻って来たKAITO。
「プロデューサーは1週間ほどの入院の見込みだよ。相当、派手なプレイをしたようだな」
 KAITOは落ち着いた様子で話した。
「あの、アリス博士は?」
 KAITOと戻って来たミクが聞いた。
「『昨夜、徹夜したから』って、自分の部屋で寝てるわ。『体調不良』ってことで、今日は研究所開けないってよ?」
「マリオ達の整備で、何日も夜なべしても平気な博士がねぇ……」
 KAITOは首を傾げた。
「プロデューサーの方は、今日オフのルカが付いている。アリス博士の方は、エミリーに任せよう」
「そうするしかないね」
 ここでようやくMEIKOは、エミリーから手を放したのである。

[同日15:00.泉北病院 入院病棟 敷島孝夫&平賀太一]

「どうも。具合、どうですか?」
 平賀が見舞いにやってきた。
「ああ、平賀先生……どうも……」
「何か、事故だと聞いたのですが、何があったんですか?」
「いやあ……その……。アリスから暴行というか乱暴を受けまして、下半身が大ダメージです」
「は?」
「いやー……逆レ○プって本当にあるんですねぇ……」
「アリスが何故?そこまで性欲ガツガツしたような感じには見えませんけどね」
「つまりは早いとこ、私との間に子供を作って、私の記憶とは関係無く、結婚の既成事実を作りたかったようです」
「あ……!」
 敷島の言葉に、平賀はふとあることに気づいた。
「ちょっと待って下さい」
「はい?」
「敷島さんがアリスと結婚して、3ヶ月経ちます。自分もナツと結婚して、ナツが最初の子を妊娠したのはそれから3ヶ月ぐらい先でした。ここだけの話、敷島さんはアリスと婚前交渉したんですよね?」
「覚えてませんって」
「いや、したはずです。『避妊に失敗した』って、自分に慌てた様子で電話してきたじゃありませんか」
「だから、記憶が……」
「とにかく、アリスはもう既に妊娠してないとおかしいのに、まだしてないってことですよ」
「それって……!?うっ……」
「敷島さん?」
 敷島は頭を右手で押さえ、暗に頭痛の症状を訴えた後、
「!?」
 意識を失って、枕の上に頭を落とした。
「大変だ!」
 平賀は急いでナースコールを押した。
(敷島さんの記憶障害の原因は精神的なもの。自分に掛けて来た電話の内容……)
 看護師が来るまでの間、平賀は今回の事案について推理してみた。
 何かが繋がりそうになった時、
「どうかしましたか?」
 看護師が駆け付けた。
「敷島さんが突然頭痛を訴えられた後、急に意識を無くされまして……」
 平賀は説明をしなければならず、推理は中断せざるを得なかったのである。
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