報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

前回の続き

2013-11-17 13:24:51 | 日記
[同日 同時刻 同場所]

「無いというのは?」
 マリアは無表情のままで聞いてきた。
「東日本大震災の時、大津波で流されて無くなったんです」
「なるほど。それで稲生氏は、埼玉に……」
「あ、いえ、それとは別です。その前から、埼玉に引っ越してました。前住んでた家が無くなったという意味です」
「それはある意味、幸運だったな」
「ええ。なのに顕正会と来たら……」
「ん?」
「仏法とは関係無い、ただの持ち前の福運なだけだったのに、『顕正会で仏法をやっていたおかげで、震災直前に引っ越すことができた。おかげで被災せずに済んだ。功徳です』という体験発表を書かされて登壇させられたんですから」
「作文決定だな」
 そこへ戻って来た藤谷が言った。
「なになに?顕正会では作者の小説よりも稚拙な作文で体験発表させるのかい?」
「そうなんです。さすがに班長会止まりで、総幹部会で登壇はしませんでしたけど」
 なので、ユタの体験発表はビデオ放映にも顕正新聞にも無い。
「お茶、お代わり飲む?」
「…………」
 藤谷の質問には答えなかった。ただ、黙ってプラスチックのカップを出すだけだった。
「お代わり希望ね。あいよ」
 藤谷はカップを持って出て行った。
「とにかく、そういう状態なんですよ。だから行っても、無意味かと……」
「いや。意味はある。連れて行ってくれ」
「は、はあ……」

[同日 15:00.東京メトロ東京駅→JR東京駅]

 地下のホームに滑り込んでくる、銀色赤帯の電車。

〔東京、東京です。JR線は、お乗り換えです。1番線の電車は、荻窪行きです〕

 開いたドアから吐き出される乗客達。その中にユタ、威吹、マリアの姿があった。
「JRはあっちです」
 ユタが先導する。
「って、魔法で瞬間移動しないんですか?」
「無駄な魔力は使いたくない。それに、今夜は私もあまり魔力が使えない」
「なるほど。今夜は朔の日か」
 威吹は大きく頷いた。
「朔の日?」
 ユタが首を傾げる。
「月が消える日のことだよ、ユタ」
「ああ、新月のことか」
「だけど、それは師匠も同じだ」
「魔力の落ちる時に、わざわざ向かうとは?」
「ただ、師匠ほどの使い手であれば、あまり関係無いはずだがな」
「おい、さっきと言ってることが違わないか?」
「あくまで、師匠がご自分でそう仰ってただけのこと。私から見れば、特に変わりは無いように見える。ただ、それだけだ」
「…………」

 JR東京駅に移動する。
「僕が昔住んでた家は、仙台市の東部です。家から海が見えるわけでは無かったので、信じられなかったですね」
「そうか」
「えー、15時40分発、“やまびこ”67号、盛岡行き。あれにしましょう。東京から仙台までは、片道1万……」
 ユタがLED発車票(ではない)を見上げながら言った。
「ああ、いい。私が依頼したのだから、交通費は持つ」
「いいんですか?」
「これだけあれば足りるか?」
「財布を人形に持たすという神経がよく分からん」
 威吹は肩を竦めて言った。
 その人形なのだが、あれだけボロボロになったミク人形を素早く修理したマリアだった。
 ミク人形が出した現金は10万。
「いや、鹿児島県の川内市に行くんじゃないんですけど……。ここまで高くないヨ

[15:40.東北新幹線“やまびこ”67号 1号車]

 ユタ達を乗せた列車は定刻通りに発車した。
 土曜日ということもあってか、自由席はほぼ満席状態である。
 3人席に並んで座っていた。
「イリーナさんは、さすがに魔法で移動したんですよね?」
 真ん中席に座るユタが、窓側に座るマリアを見て言った。
「その通りだ」
 マリアの膝の上には、ミク人形が乗っている。
 ぜんまいはただの飾りのようで、ぜんまいが無くても動けるようだ。
 では、何の為についていたのだろう?
「ぜんまいって、何の為にあったんですか?」
 すると、マリアはミク人形の背中を見せた。そして、ぜんまいが刺さっていたであろう部分を指差す。
「この穴……何かに似ていると思わないか?」
「あー……何か、鍵穴に似てますね」
 両替機やアーケードゲームの筐体辺りにありそうな、円形の鍵穴があった。
「あっ、そうか!それで……」
 そのタイプの鍵も、どことなくぜんまいに似た形をしている。あれはぜんまいではなく、鍵だったのだ!
「師匠は“鍵”を持って、ある場所へ出かけた」
「僕が前住んでた家ですね」
「そう」
「でも……中学生まで住んでた家だけど、そんなに大したものがあった家じゃないけどなぁ……」
 ユタは首を傾げた。
「とにかく、場所を案内してほしい」
「分かりました」
コメント (1)
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