報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

本日2本立ての大団円

2013-11-11 20:20:31 | 日記
[05:15.埼玉県秩父市のとある山道]

 人形の背中にはぜんまいが付いており、それがカタカタ音を立てて回る。それが動力源なのか。
 威吹と人形は同時に、互いの間合いに飛び込んだ。
「消えた!?」
 人形はマリアの屋敷にいた時のようにフワリと飛び上がり、フッと消えた。
 そして、パッと現れた場所はユタの目の前。
「うわっ!」
「くっ!」
 威吹は自分の髪の毛を数本抜くと、人形に向かって投げた。
 たちまち、忍者が使っていたクナイや棒手裏剣の形に変わって、人形に飛んで行く。
「バカ!そんなことしたら、稲生君に当たる!」
 藤谷が叫ぶと、人形はまた消えた。クナイや棒手裏剣も、それに合わせて消えた。
 正確に言えば、髪の毛に戻った。
「お前は……わたしを壁に投げたヤツか……」
 人形は威吹を見て呟いた。
「やっぱりあの時の人形か!何故、ユタを狙う!?オレは確かにお前を投げつけたりしたが、ユタは何もしてないぞ!」
「わたしは……こいつに捨てられた……!許さない……!許さない……!」
「僕は知らない!何も知らないんだ!」
「だそうだ!変な言い掛かりもいい加減にしろ!」
「変な言い掛かりじゃない。わたしには、証拠があるの」
「何だその証拠ってのは!?」
 すると人形はユタの前に現れた。
「ユタ、逃げろ!」
 威吹が叫ぶ。しかし人形は持っていた包丁をユタに向けるわけでもなく、着ているワンピースのポケットから、1枚の紙切れを出した。
 そこには『39』という英数字が書かれていた。
「何だこれ?」
「39で『みく』という語呂……ギャグじゃないよな?」
「これは……イリーナ師の鶴の一声で始まった、『人形の間引き』によるもの」
「イリーナさんの?」
「イリーナ師は増え過ぎた人形に苦言を呈し、御主人様に間引きを命じられた。本来なら魂すら持たぬ失敗作が、その対象となるはずだった……」
 ミク人形は遠い目をして言ったかと思うと、また憎悪の目に変わる。
「ところが何を血迷ったか、わたしに……大勢の人形達の中で唯一歌が歌える、このわたしを処分の対象に選んだの!わたしのどこが気に入らないの!?服も髪もキレイにしてるのに!歌だって褒めてくれたのに!」
「……ゴメン。やっぱ、何言ってるんだかさっぱり分からない」
「少なくとも、あの女達が、増え過ぎた人形を処分しようとして、何かの手違いがあったというのだけは分かった」
 威吹は刀を持ったままやってきて言った。
「で、それとユタと何の関係があるってんだ?少なくとも、今のキサマの話に、ユタは一切出てきてないぞ?」
 威吹もまた金色の瞳をギラつかせていた。
 かくなる上は、今の第1形態から本当に狐耳に尻尾も生える第2形態に変化してもいいくらいだと思っていた。
 そうなると半分理性と知性が飛ぶので、刀を使うことはできなくなる。
 もっとも、その刀が効かないと分かっているのだから、頃合いではあるが。
「これだ」
 ミク人形は先ほどの番号札を出した。
 ただのメモ用紙の裏紙に書かれただけのような気がする。
 裏返してみると、何かが書かれていた。
『処分 080-○○××-△△□□』
 と。
「この番号に掛けたら、お前が出た。だから、お前の責任だ!」
「そんなムチャクチャな!超メンヘラ人形だぜ!」
 藤谷は吹いた。
「……ちょ、ちょっと待って」
 ユタは変な顔をした。
「そうだ!そんな端書みたいなもの、何の証拠能力もない!」
 威吹は左手から青白い炎を出した。
「ただの言い掛かり決定。刃物は効かないようだが、焼却はどうだ?」
「う、うん。言い掛かりというか……」
 ユタは言い難そうだった。
「いいから、ユタ!ガツンと言ってやれ!」
「そうだそうだ!」
「僕のケータイなんだけど……080じゃなくて、090だよ?」
「はい?」
「ちょっと、稲生君!」
 藤谷はユタからユタのスマホを取ると、それで自局番号表示をやった。
「本当だ。……おい」
 更に藤谷はメモ用紙もひったくる。
「きったねぇ字だな、おい!……って、これ、真ん中の『8』が『9』に見えるし!」
 ミク人形も驚いた顔をしていたが、
「だが!その後の番号は合っている!やはり、お前の番号で間違いない!」
「でもねぇ、今はケータイ供給過剰で、番号も飽和状態だって言うからねぇ……」
 ユタは試しに『080』から始まる、それ以降の自分の番号で掛けてみた。
{「……もしもし?」}
 気だるそうな若い女の声がした。
「も、もしもし!僕、稲生ユウタと申しますが、緑色の長いツインテールのお人形さんに、何か心当たりは無いでしょうか?背中にぜんまいが付いていて、歌まで歌えるそうなんですが……」
{「ああ。そうだな……」}
「その声はマリアさん!?」
{「やはり、お前か……」}
「どういうことなんですか!?」
{「すまん。後でまた連絡する」}
「えっ!?ちょっと!もしもし?もしもーし!」
 しかし、電話が切れていた。
「マリアさんの電話番号だった!」
「なにいっ!?」
「マリアって誰?てか稲生君、謗法厳戒だよ?」
「聖母マリアじゃありません!」
「ある意味、キリシタンとは正反対の存在だな。……おい、キサマ!これは一体、どういうことだ!?ああっ!?」
 威吹はミク人形に詰め寄った。
「えっと……その……。番号、間違えたみたい……です、ね……。はは……」
 ミクは最後、『てへっ♪』という顔になった。

[11日 05:30.マリアの屋敷 マリア&イリーナ]

『キサマ、このクソ人形!間違えましたで済むか!せめて自決しろ!!』
『クルマ弁償しろっ、この!クソ人形!あ!?何とか言えよ、クソ人形!』
『都市伝説オバケが、間違い電話されちゃ困るよー!ヒドいオチだ……』
 威吹と藤谷にリンチされるミク人形だった。

「うーむ……」
 マリアは水晶球で、埼玉県で起きた惨事を確認していた。
「これは今、私が出て行くべきなのか……?」
 さすがの惨状に、マリアも気が引いた。
「じゃあね、マリアちゅわん♪先生はヨーロッパ1周の旅で、しばらく来ないからー」
 素知らぬ顔で屋敷から出て行こうとするイリーナだった。
「ちょっと!このままにして旅立つ気ですか?!」

 後でマリアがズタボロになったミク人形を引き取り、車の修理代を弁償したそうである。
 人形の逆ギレ呪いは怖いというお話ですた。
コメント (2)
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まもなく終了

2013-11-11 15:19:08 | 日記
[11日 01:30. ユタの家 稲生ユウタ]

 どうにも寝付けなかった。
 藤谷班長からの電話が終わった後で寝る準備はした。
 威吹も、
「不審者に対してはボク達が目を光らせてるから、ユタは安心して寝てて」
 と言ってくれた。
 ケータイもまた公衆電話、念のために非通知に対しても着信拒否にしている。
 窓を開けて庭を見ると、月明かりに照らされて、銀狐の銀髪がキラキラと反射している。
 確かあれは、殺女(あやめ)とかいう新人班士の女の子だったはずだ。
 研修生達にとっては、ちょうどいい研修材料であろう。
「稲生様、どうかなさいましたか?」
 窓を閉め、今度は部屋のドアを開けると、征丸という名の研修生が話し掛けてきた。
「いや、何でもない」
 ユタはそう言って、ドアを閉めた。
 確かに、警備は万全のようだ。
 この他にも死々丸という名の研修生が玄関前に張っているというし、威吹は遊撃として家の内外を歩き回っている。
 研修生達には木刀しか与えられていないが、威吹には妖怪は難無く一刀両断できる妖刀と、人間に対しては真剣である脇差のニ振りの刀がある。
 研修生達はともかく、威吹の強さはユタも認めるところ。
(いくら威吹がああ言ってても、今夜が正念場じゃ、アレだな……)
 グースカ寝ているわけにはいかないと、ユタは寝巻きから服に着替え始めた。
 万が一ということもある。
「!」
 まるでユタの着替えが終わるのを待っていたかのようなタイミングで、ケータイが鳴り出した。
 画面を見ると、見覚えの無い番号が表示されていた。
 まあ、そりゃそうだろう。公衆電話と非通知は着信拒否にしているのだから。
 つまり、ユタのケータイに着信できるのは、非通知にしていない固定電話か携帯電話ということになる。
 なかなか切れないので、ユタは電話に出てみた。
「も、もしもし?」
 すると!
{「もしもし!ミクよ!どうして、着信拒否なんかにしたの!」}
 件の人物だった。前夜までは嘲笑うかのような口調だったが、今は怒りに満ちているのが分かる。
{「……まあ、いいわ。こうして電話も借りられたしね。分かる?今、あなたのお家の前にいるの」}
「き、キミは一体、誰なんだ?一体、僕に何の用なんだ?」
{「わたしは“あなた”に捨てられた。気がついたら、この町にいたの。だから、復讐しないとね。フクシュウを!」}
「ちょっと待った!僕、知らないよ!」
{「ああ、また犠牲者が出たわ。この電話を貸してくれた人に次いで、2人目ね。あなたのせいよ」}
「!」

[11日 01:45.さいたま市中央区・与野中央通り 藤谷春人]

「やれやれ……。降りる出口、1つ行き過ぎちゃったぜい。とんだ遠回りだ」
 藤谷は自分の勘違いに舌打ちしながらも、夜中の道を飛ばしていた。
「ん?何だありゃ?」
 もうすぐでユタの家というところ、パトカーや救急車が1車線塞いでいた。
 よく見ると、
「うわ……」
 1台の軽自動車が電柱にめり込んでいる。
「大丈夫かよ。稲生君じゃねーよな?」
 気になった藤谷は、邪魔にならない所に車を止めて現場に近づいた。
 ちょうど、事故を起こしたと思われるドライバーがストレッチャーに乗せられ、救急車に乗せられるところだった。
「に……人形がぁ……!人形がぁ……オレのケータイをぉぉ……!!」
 40代くらいの男性ドライバーであるが、何だか錯乱している。
(何だ?脱法ハーブでもやってて、事故ったのか?)
 と、藤谷は思った。
 ただの自損事故だったようで、他にぶつかった車とか轢かれた人とかはいないようだ。
「今、病院に行くからね。もう少し頑張ってね!」
 救急隊員は、そんな男性に声を掛けている。
(稲生君の身に起きているという事案とは関係無さそうだな)
 そう思った藤谷は、やれやれと車に戻った。
 そして、車をユタの家に向けて走らせたのだった。

[11日 02:00.ユタの家の前 藤谷春人、稲生ユウタ、威吹邪甲]

「えー、稲生君ちはこの辺だったかな……」
 藤谷は車を徐行していた。
「うん?」
 その時、家の中から誰かが飛び出してきた。
「おっ、稲生君と威吹君。ちょうどいい」
 だが、
「ふ、藤谷班長!」
 慌てた様子で駆け寄ってきた。
「助けてください!」
「どうしたんだ!?」
「くそっ!あの人形め!」
「と、とにかく乗って!」
 ユタと威吹はベンツのリアシートに飛び乗った。
「とにかく、早く出してくれ!」
 威吹は左手を押さえながら言った。
「あっ、ああ!」
 必死の威吹に促され、ほぼ急発進的に車を走らせる。
「あれ、どこかで見たと思ったら、マリアさんの所にいた“初音ミク”だよ!」
「あのクソ女!今度という今度は殺す!」
「一体、何があったんだ?」

 ユタが『初音ミク』と呼ぶ、正にそれによく似た人形が、ついにユタの家に乗り込んで来た。
 すぐに迎撃体勢に入る妖狐達。
 だが、蜘蛛や蛇のバケモノなら簡単にあしらえる力を持つ研修生達でも歯が立たず、威吹の妖刀でも斬れなければ、脇差でも斬れない。
 “初音ミク”はどこから持ってきたのか、包丁で威吹の左手を斬り付けると、今度はユタを襲ってきた。
 その攻撃をかわし、家の外に飛び出したところ、藤谷と合流できたというわけである。
「ふっ、どうやらとんでもない事件に首を突っ込んじまったらしい。俺はどうやら平和な日常には戻れぬかもしれん」
 と、藤谷。
「何言ってんですか!」
「……ゴメン。1度言ってみたかったんだ。サスペンス映画の主人公のセリフ。でも、どうするよ?このまま逃げ回るわけにも行かないだろ?」
 藤谷が当然の質問を投げ掛ける。
 威吹は自分で応急処置をしながら答えた。
「あの人形は、日が出ているうちは霊力が無くなるらしい。とにかく、朝まで逃げ切ってください。どこか遠くへ……」
「どこか遠く?よっしゃ、任せとけ!」
 藤谷は県道に出ると、首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に飛び込んだ。
「い、今、歩道にミクがいたような……?」
「気のせいだ!」
「なるべく止まらない方がいい」
「安心しろ。こんな時の為に、このベンツに搭載された兵器がある」
「と、言うと?」
「レッツ!ETC!」
 今時そんな珍しくもないETCを大げさに通過する藤谷だった。
 と、ここへまた電話が掛かってくる。あの番号だった。
「もしもし?」
{「もしもし。ミクだよ。どこに逃げてもムダだからね。わたしを捨てた罪、死を持って償ってもらうから!」}
「だから知らないよー!僕じゃないよ!」
「稲生君!電源を切れ!GPSで追って来られる!」
 藤谷が言った。
「は、はい!」
「って、バカヤロ~っ!!」
 パッパーッ!(ベンツのクラクション)
「うわっ!」
 何と、走行車線にミクが佇んでいた。慌てて、避ける藤谷。
「うっ!?」
 後ろから轟音して、振り向くと、大型トラックなどは避けきれず、壁に激突したり、横転したりしていた。
「ひぃぃっ!大変なことにーっ!」
「ユタ、落ち着いて!」
「こりゃ逃げる度に、大変なことになりそうだ!」
 藤谷はアクセルを踏み込んだ。

[11日 05:00.埼玉県秩父市のとある山道 稲生ユウタ、威吹邪甲、藤谷春人]

「くそっ!朝はまだか!」
「夏場なら、とっくに明るくなってるんですけどねぇ……」
「あのクソ人形、わざとオレ達を泳がせて……!」
 電源を切っているはずのユタのケータイが鳴り出した。
「うそ……!?」
「ユタ、出なよ」
 威吹が促した。
「だ、大丈夫かな?」
 ユタは電話に出た。
{「ミクだよ。どこに逃げてもムダだからね。でも、そろそろ朝になるかしら。それじゃあ、日が出る前に決着をつけましょうか。分かる?今、あなたの10メートル先にいるの」}
「うわっ!」
 薄暗い山道に浮かび上がる人形の影。
 藤谷は急ブレーキを踏んだ。
 しかし間に合わず、ボンッと人形を跳ね飛ばし、尚且つ、切った急ハンドルでガードレールに左前方をぶつけて止まった。
「うう……。大丈夫か、2人とも!?」
「ええ、何とか……」
「大丈夫です」
 後部座席もシートベルトをして正解だと思った瞬間である。
「くそっ!やるっきゃない!」
 威吹は人形に対して斬れなかった妖刀を手に、車を降りた。

 ヒュウと風が吹き荒ぶ細い山道。

 朝もやに包まれる秩父の山道。

 その向こうから目を光らせて、長い緑色の髪をツインテールにした人形が、ゆっくり近づいてきた。

 その手にはどこで手に入れたか、刺身包丁。服の腰帯には、赤く染まった裁縫バサミもある。

「……来い」
 威吹は、見た目には普通の日本刀に見える妖刀を抜くと、人形と対峙した。
                                                続く
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もう少し続く。

2013-11-11 03:13:41 | 日記
[10日 20:00.ユタの家 稲生ユウタ&班長・威吹他班士3名]

「……はい、そうなんです。……はい。すいませんが、よろしくお願いします」
 ユタは電話で、関係各所に連絡していた。
 しばらくの間、一身上の都合で公衆電話からの着信を拒否するというものである。
 ここ最近は公衆電話から掛ける者がいないということもあって、反対する者はいなかった。

 ユタが連絡を取っている間、威吹は3人の班士達に訓示をしていた。
「……というわけで、ユタの周りに不穏な動きがあること、疑義の余地あらず!今宵より、当邸内外は特別警備体制を敷く!不審な者の侵入あれば、容赦無く捕えよ!但し、それが人間にあっては必ず生け捕りのこと!魍魎の類の場合、抵抗あれば殺しても構わん!良いか、人間は殺してはいかん!これはユタの意向だ。以上!」
 3人の班士達は訓示終了直後、すぐに散開した。

[10日 同時刻 マリアの屋敷 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

(やれやれ。いくら師匠の命令だからって、大事な人形を半分以下に“間引き”なんて、やり過ぎだと思うけどな……)
 マリアはすっきりとした自室で、魔道書を読みあさりながらそんなことを考えていた。
 室内は電球色の暖かい光に包まれている。
 階下ではピアノの音が僅かに聞こえる。
 ピアノを弾く個体はその特技から、イリーナによる“間引き”を免れていた。
 その時ふと気づく。
(そういえばここ最近、歌が聞こえない)
 師匠に与えられた課題をこなす為、忘れていたが、人形達の中でも特別なスキルを持った個体を見かけなくなった。
(いつもの通り、どこかに隠れてるのか?しかし、ピアノの時間になっても歌いに来ないとは……)
 マリアは目を閉じ、スウッと右手挙げてゆっくり大きく振った。
(……反応が無い……?)
 魔道師が異変に気づいたのは、この時が初めてだったという。

[10日 23:00.東京外郭環状道路(外環道)・新倉PA 藤谷春人]

「……何か色々大変みたいだな。明日は俺も仕事が休みだからさ、もし良かったら俺も駆け付け要員やるぞ?」
 藤谷は車から降りて、秋の夜風に当たりながら、ユタに電話していた。
「俺も実は今、埼玉にいるんだ。つっても、だいぶ東京寄りだけど……。いや、折伏だよ。顕正会員相手に、5時間も掛かったよ。……大丈夫。俺1人で行って、飯代も出して、駅まで送り届けたからさ、顕正会員みたいなヘマはしねーよ。だから稲生君も、そろそろ折伏の相手を……って、あれ?電波が……?もしもし?もしもーし!……切れちゃったか。……ん?」
 藤谷も電話を切ろうとした。が、その時、電話の向こうから何か聞こえたような気がした。
{「邪魔はさせないよ……!」}
「あ?誰だ、オマエ!?」
 低い女の声だった。聞いたこともない声だった。もう1度、ケータイを耳に当てたが、今度こそ切れていた。
「…………」
 どうにも訝しい。
(稲生君はいいと言ってたけども、こりゃボヤボヤしてられないかもな)
 そう思って、藤谷は車に乗り込んでエンジンを掛けた。
 型落ちしてはいるものの、シルバーのベンツEクラスである。すぐに青白いヘッドランプを灯すと、パーキングエリアをあとにした。

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 だんだんオチが読めつつあるけども、次で完結するかもです。因みに藤谷班長が型落ちの中古とはいえ、ベンツEクラスに乗っているという設定は、ポテンヒットさんの作品“ガンバレ!特盛くん”に出て来る鈴木班長のイメージと、昔、作者の友人(愛原学氏)が乗りまわしていたからです。
 それにしても、藤谷班長って何の仕事してるんだろう……?
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