日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

鈴木さんの「特許発言」がなぜぶれたのだろう

2010-10-12 17:24:21 | 学問・教育・研究
根岸、鈴木両博士の2010年度ノーベル化学賞受賞のニュースが流れたその夜、鈴木さんのテレビでのインタビューを見た時の印象を、鈴木章博士の嬉しい言葉  「特許は一切取っていない」で次のように述べた。

2010年度ノーベル化学賞受賞者鈴木章博士のインタビューをテレビで見ていた。その中での博士の一言に私は感動し、わが意を得た思いをした。医薬品や電子関連素材の合成に博士の発見した合成法が全世界で広く使われているのに、「特許は一切取っていない」と言われたのである。何故取らなかったのかその思いを語られたが、特許を一切取っていないから使うのはまったく自由、とにかく広く使われて役にたっているのが嬉しいと言われたのである。キュリー夫人の再来、とまで思った。

ところがその後、毎日新聞の《特集:ノーベル化学賞・受賞者に聞く 鈴木章さん/根岸英一さん》で、鈴木さんの次のような言葉が報じられた。

 最初から社会に役立つことを考えたんじゃなくて、たまたま結果としてそういうことになりました。特許を取らなかったのは、僕自身の怠慢です。あのころは大学で特許を取ることはほとんどなかったし、申請するにも権利を維持するにもお金がかかる。でも、特許を取らなかったから広く使われるようになったのはその通り。社会に貢献できたのは、たまたまなんです。
(毎日新聞 2010年10月8日 東京朝刊)

特許を取らなかったのは、僕自身の怠慢ですのところで一瞬わが目を疑った。私がテレビインタビューから受けた印象と大きく違ったからである。テレビインタビューでは(元来特許ととるべきであろうに、そうしなかったのは)僕自身の怠慢です、のようなニュアンスではなかったからである。私の勘違いと言うこともあり得るので、幸いYouTubeにアップロードされた映像でその発言内容を確認してみた。



まず1:25に「私はこのクロスカプリング反応に対してはですね、特許というものはまったく取っておりません」との発言がある。そして6:27-7:31の次の発言に続く。

「私たちの場合には、私はさきほど特許を取っていないと言ったが、その理由の一つは、われわれの時には大学での研究で特許を取るという例はそれほど多くなかったということもありますけど、私はその時、この研究費は文部省の研究費、その他企業からのサポートもありましたけども、ある程度の経済的なサポートもありましたし、実際に仕事をやってくれるのは学生ですね。これはレーバーコストがかからない。そういうことでですね、先生の名前で特許を取るというのは、私のその当時の気持ちとしてはあまり釈然としなかった、ということもありまして、まあそれだけではないんですけれども、特許を取るということは、なかなか取る時に(?)金が掛かるとか、その特許を長く続けるためにはお金が掛かるという、そういう点もありますけれど、それだけではなくて、私自身は先ほど言ったようなことで、実際には特許を取っておりません。」

さらに8:37には「とにかく私は一つも特許を取っておりませんから、この反応は世界中の人が自由に思う通り使うことが現在でも出来るわけです。」と述べている。特許に関するこのような発言を聞く限り、私が最初に抱いた印象は間違っていなかったと思う。ではどういう行きがかりで2日後の特許を取らなかったのは、僕自身の怠慢です発言になったのだろう。鈴木さんご自身に説明していただければよいが、大学の研究者に特許を取らせようという愚行に躍起となっている文部科学省側から、何かバイヤスでもかかったのかとつい余計な気を回してしまった。げすの勘ぐりだろうか。