日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

「2位じゃだめか、は愚問」と言わされた鈴木さん?

2010-10-09 20:10:24 | 学問・教育・研究
次の産経ニュースが目に止まった。

「2位じゃだめか、は愚問」ノーベル賞・鈴木さん、蓮舫氏発言をバッサリ

 ノーベル化学賞に輝いた鈴木章・北海道大名誉教授(80)は8日、産経新聞の取材に応じ、「日本の科学技術力は非常にレベルが高く、今後も維持していかねばならない」と強調した。昨年11月に政府の事業仕分けで注目された蓮舫行政刷新担当相の「2位じゃだめなんでしょうか」との発言については、「科学や技術を全く知らない人の言葉だ」とばっさり切り捨てた。

(中略)

 特に、蓮舫発言については「研究は1番でないといけない。“2位ではどうか”などというのは愚問。このようなことを言う人は科学や技術を全く知らない人だ」と厳しく批判。「科学や技術を阻害するような要因を政治家が作るのは絶対にだめで、日本の首を絞めることになる。1番になろうとしてもなかなかなれないということを、政治家の人たちも理解してほしい」と話した。(後略)
(産経ニュース 2010.10.8 23:50 )

政府の積極的な投資を促す意図があっての記事であろうが、一方では違和感を抱いた。何故このような場で「蓮舫発言」が飛び出したのだろう。産経記者の誘い水なのだろうが、その意図は何だったのだろう。そして「研究は1番でないといけない。“2位ではどうか”などというのは愚問。このようなことを言う人は科学や技術を全く知らない人だ」との鈴木発言をどう受け取るべきなのだろうか。

蓮舫さんは次世代スーパーコンピュータの性能について「2番じゃダメなんですか?」と質問したと記憶している。それが鈴木発言では「研究は1番でないといけない」とスパコンが研究に化けた上に、「このようなことを言う人は科学や技術を全く知らない人だ」と高飛車な発言につながっている。取材状況、それに産経記者の質問の趣旨が分からないからこれ以上鈴木発言については触れないが、この発言で昨日紹介した村上陽一郎著「人間にとって科学とは何か」の中の一文をまた思いだしたのである。

 私などは法律には素人なので、最近発見して驚いたことがあります。それは、裁判の法廷は「必ずしも真実をみつける場ではない」ということ。では法廷とはどういう場かというと、当たり前といってしまえばそれまでですが、訴えた方と訴えられた方が、お互いに人智を尽くして勝ち負けを争う戦場なのです。(70-71ページ)

村上さんが専門家として法廷に立った経験に基づいて述べているのであるが、科学者として戸惑いを感じられたようである。裁判がいろいろと取り沙汰されている昨今、私も裁判の本質について目の洗われる思いがした。そして科学、技術の本質的な違いに連想が働いたのである。ふつう科学技術と一括りにして取り上げられることが多いが、元来科学と技術は本質的に異なるもので、それを一緒にしてしまうと話がややこしくなる。ここで「必ずしも真実をみつける場ではない」裁判を技術に当てはめてみる。

法廷で訴えた方と訴えられた方が勝ち負けを争うのは、いわばスパコンのような技術製品の性能(価格も?)が一番とか二番とか争うようなもので、技術だからこそ順位を競うことが出来る。しかし真理を追い求める科学研究はもともと順位を争うようなものではない。順位を決めようにも誰もが納得出来るような基準がないのである。研究はあくまでも真理の探究である。発見の一番乗りはその後についてくるもので、最初から何を発見すべきかが分かっているようでは、それはあまりたいした研究ではない。その意味で「研究は1番でないといけない」との鈴木発言は、記者とのやり取りのどこかでボタンが掛け違ったような気がする。

村上さんの著書に科学的合理性と社会的合理性の対比と連携の話が出てくる。科学者が白黒の判断が下せないことに社会的合理性のようなもので判断を下さざるをえない場面があり、その主役は社会の成員すべてである、というのである。蓮舫さんはその代表だと思えばよい。鈴木発言に怯むことなく「科学や技術を全く知らない?人」の強みをこれからもますます発揮して、「専門家」をどんどん質問攻めにして欲しいものである。