日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

守屋武昌著 「普天間」交渉秘録 は面白い ついでに沖縄科技大のことも

2010-07-10 21:21:09 | 読書

昨日この本を買ってから350ページほどを一気に読み上げた。それほど面白かったし、とくに日米合意に達したキャンプ・シュワブV字案にいたる経緯が分かってよかった。

守屋武昌氏のことは以前、なんと卑怯な小池百合子防衛大臣「罪の巨塊」とは守屋武昌前防衛事務次官のことか そしてシーメンス事件で取り上げたことがあるので、ほぼ3年ぶりのご登場である。氏は防衛事務次官を最後に2007年8月に防衛省を退職したが、その11月に在職中の収賄容疑で逮捕され、一審・二審とも有罪判決を受けて現在は最高裁の判決を待つ身であるとのことである。

守屋氏は、防衛が国の重要な問題となり、それを当事者がどのように考え、どう対応したかを記録に残したいと考えて在職中に日記を記していたが、それを元にこの本書が出来上がった。在日米軍再編の流れで、鳩山内閣の命取りともなった米軍普天間基地移設問題が起こったが、前自民党政権時代、「キャンプ・シュワブV字案」で日米が合意するに至った経緯を当事者として具に知る守屋氏が生々しく語った実録だけに、見逃すわけにはいかなかった。各人各様の受け取り方があるだろうが、私の受けた感じを思いつくままに述べることにする。

まず、沖縄の人はなかなかタフ・ネゴシエイターなんだ、と思った。「キャンプ・シュワブV字案」に落ち着くまでにいくつもの案が浮かび上がってはもみくちゃにされる。巻尾に【参考】普天間飛行場代替移設案の比較としていくつかの案が次のように示されている。

  海上ヘリポート(桟橋式、浮体式)
  軍民共用飛行場 辺野古沿岸
  キャンプ・シュワブ陸上案 演習場内
  名護Lite案 辺野古沿岸
  キャンプ・シュワブ宿営地案(L字案)
  キャンプ・シュワブX字案
  キャンプ・シュワブV字案

たとえばL字案を日米政府が合意するとさっそくそれに反対の動きが起こる。沖縄大手ゼネコンの一人の社長が守屋氏に語ったように、基地問題にはかならず裏がある。

「沖縄全体が日米両政府が合意したL字案に反対で、政府がL字案を修正して地元の推す浅瀬案に少しでも近づけば賛成にまわると、中央の政財界の人たちに思い込ませるのが狙いです。しかし浅瀬案のように海に作るのは、環境派が反対し実現不可能というのが沖縄では常識です。沖縄の一部の人々は代替飛行場を作るのが難しい所に案を誘い込んで時間を稼ぎ、振興策を引っ張り出したい。作るにしても反対運動が起きて時間を稼げるようにしたい。それで修正案を国に提示している。国を誤った方向に誘導しようとしているんですよ。地元は疲れ果てて、とちらでもいいと思っている」(104ページ)

そして大きくお金が動く。

小渕恵三総理が1999年12月に行った閣議決定で、翌年から2009年までの10年間、「普天間飛行場移設先及び周辺地域の振興」「沖縄県北部地域の振興」として「特別な予算措置」が組まれることになった。これが「北部振興策」だった。その額は毎年度百億円に上った。
 これを含めた国庫支出金により、沖縄北部12市町村は潤っていた。国庫支出金には基地関係の周辺対策費、基地交付金、「沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業費」なども計上されているが、その総額は1996年から2005年までに2066億円に上っていた。そのうち名護市には846億円(41%)が投入されていたが、このうち北部振興対策事業費として148億円が振り分けられている。(161ページ)

そしてこのような記述が続く。

 沖縄県にはこの北部振興策を含め、「沖縄振興開発事業費」として年間3000億円前後が支払われている(2009年度は2784億円)。(中略)
 普天間移設は8年経っても何も進まないのに、北部振興策だけは毎年予算がついていた。
「政府は沖縄に悪い癖をつけてしまったね。何も進まなくてもカネをやるという、悪い癖をつけてしまったんだよ」
 以前、太平洋セメントの諸井虔相談役からそう言われたことを、私は思い出していた。(164ページ)

正直なところ、このような話を聞かされるといい気がしない。沖縄は米軍の軍事基地があることを逆手にとって、政府から実に上手にカネを引き出しているようにすら感じるからである。政府(守屋)は最初キャンプ・シュワブ陸上案(演習場内)から出発した。そうすると沖縄はいろんな障碍を言い立てて、沿岸部の海の方へ引きずりこもうとする。沿岸部に最も近い最小限の埋め立てでいったん話がまとまると、次は出来るだけ沖の方に引き出そうとする。そこで政府がもし承知するとこんどは環境派の出番で、絶対反対を叫ぶ。移転策が頓挫し解決が長引けば長引くほど沖縄には毎年政府からカネが流れ込む。それが沖縄の狙いである。その間、一方では米軍が本当に出ていったら金づるがなくなるから、ジェスチャーだけで米軍基地を県外にとか叫んで、沖縄が虐げられている姿を世間にアピールする。これではまるで沖縄の人たちが一丸となってそれぞれの役割を演じ、政府から毎年多額のカネを上手に巻き上げているようにも見える。もしかしてかっての沖縄戦のリベンジを本土に対してこのような形でやっているのかな、とげすが勘ぐりを始めるくらいである。これでは鳩山前総理に本気で「ヤンキーゴーホーム」を叫ばれたら大変である。沖縄が米国が手を結び、鳩山さんを窮地に追い込んだという図式もあり得ることかなと思った。というのも、沖縄と米国がつるんでいる証しとして、沖縄の民間建設業者が作った「名護Lite案」を米国が自分の案として日本政府に主張してきた事実のあることを守屋氏は(54ページに)指摘しているからだ。

この本を読んでいるとさすが沖縄、一筋縄ではいかないこと覚らされる。現在の沖縄県知事・仲井真弘多氏が2006年11月の選挙で選ばれたのは守屋氏がまだ現役のころで、両者が直接相まみえていたのである。仲井真氏は旧通産省の技官で副知事を経てから沖縄電力社長・会長となり、県商工会議所連合会長を務めていた。日米両政府が合意した「キャンプ・シュワブV字案」の修正を選挙に掲げていたが、一方、県内移設は容認していた。そこで次のような下地幹郎議員から守屋氏への電話の話が出てくる。

「国場組の国場(幸一郎)元会長が訪ねてきた。自分のことを仲井間知事の使者と言っていた。仲井間知事は『V字案で二月の県議会で受け入れを表明する。受け入れ条件は、那覇空港の滑走路の新設、モノレールの北部地域までの延伸、高規格道路、それからカジノである』と」
 条件次第ではあるが、沖縄県はV字案を了解するというのであった。(248ページ)

いやはや、お見事である。そしてこれに続いて出てくる話が私にピンと来た。

 国場組は沖縄南部のゼネコンだが、尾身幸次衆議院議員(2001年の第一次小泉内閣で沖縄担当大臣)の後援会「沖縄孝政会」を支持していた。「沖縄孝政会」の設立者は仲井真氏(当時、沖縄電力社長)、支持母体は沖縄電力グループ「百添会」、砂利採取事業協同組合、それから国場組グループ「国和会」だった。国場組は仲井真氏の選挙応援もしていた。
 国場組は米軍施政下の沖縄で、1950年代から60年代にかけての米軍基地建設ラッシュ時にそれを一手に引き受け成長した沖縄最大のゼネコンだった。沖縄ではゼネコンの地域的棲み分けができていて、南部地域の国場組は北部振興には関係がなかったが、仲井真知事の提案通りになれば沖縄全体の話であり沖縄で最も技術レベルが高い国場組が受け持つ事業が多いことになる。(248ページ)

基地を人質に政府から巨額の身代金を引きずり出そうとする図式にぴったりと納まるではないか。ところでここで強調した尾身幸次衆議院議員であるが、なんとこの方は昨日の沖縄科技大、初代学長にスタンフォード大教授とはを書くときに調べた独立行政法人 沖縄科学技術研究基盤整備機構でお目にかかったばかりなのである。その始めの方を転載する。


この尾身幸次氏がそもそも沖縄科学技術大学院大学構想の提唱者なのである。一橋大学商学部卒業の尾身氏が誰にどう吹き込まれたのか知らないが、「世界最高水準の科学技術に関する研究及び教育を実施する大学院大学」の提唱者とは恐れ入った。この一番下にもある通り「沖縄振興計画において、本構想を沖縄の振興施策の大きな柱として位置づけ」ているのである。設立の真の動機が何であるかは自ずと明らかではないか。ハコモノさえ作れば後は野となれ山となれなのである。

つい脱線したが、このように読む立場によってなるほど、と頷ける話がこの本の随所に出てくる。とにかく基地問題に関心を持つ方にはぜひ一読をお勧めしたい。