日々是好日

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筑波大学「長論文」から逃げ出した共著者に問われる研究者倫理

2010-07-07 16:29:15 | 学問・教育・研究
筑波大学「豆まきデータ」騒ぎ 問われるのは科学者としての姿勢を書いていて、問題の「長論文」の顛末が少々気になったものだから調べてみたところ、意外な事実が分かった。Physical Review Letters掲載論文には元来27名が共著者として名前を連ねていたが、なんとそのうち24名がこの論文から名前を取り下げていたのである。


下部の説明文を読むと、共著者から名前取り下げの要求があったのでそのようにした、と受け取れる。ジャーナル側のコメントのようであるが、ジャーナル側がこの事態をどのように考えたのかはこれからは読み取れない。残りの三名はこの論文が基本的に信頼出来ることを断言している、との説明が加えられているが、ジャーナルとしても頭を抱え込んだことだろう。この申し出が今年の2月23日に受理されて公開されたのが4月22日である。長さんが第一審で敗訴したのが4月19日だから、この共著者名取り下げの事実が判決に影響を及ぼしたのかどうか、微妙なところである。

そしてさらに新しい発見があった。この論文の訂正?版がこの6月1日に受理されて、25日に公開されているのである。


最初に発表された論文のタイトルに「Erratum:」なる言葉が被された見慣れない表題になっている。論文内容を見ることが出来ないので、どのように変わったのか分からない。二転三転、このように不様な論文を載せるとは「Physical Review Letters」の度量がよほど大きいのか、長さんの粘りに引かざるを得なくなったのか、ジャーナル側にもいろんな事情があったのだろう。今後、このような事態にどう対処すべきなのか、ジャーナル側でも当然検討を始めていることだろう。いったん論文を受理してしまった以上、もし審査過程に不備なり間違いがあったことがその後判明したとすると、それはジャーナル側の弱みになるからだ。長さん側とジャーナル側のせめぎ合いの結果、このような形で折り合いが付いたような気がする。政治的決着で、科学とは関係のないレベルでの話であろう。

ところで私がここで取り上げたかったのは、「長論文」から逃げ出した24名の共著者のことなのである。私は当初この程度の論文に共著者が多いのは、巨大装置?を使っての実験だから、装置を造り上げ、整備したり運転するのに必要とされる技術者までが共著者に含まれているのかと勝手に思い込んでいた。しかし今回論文を見直していて、論文の共著者名の最後に「GAMMA 10 Group」という名称のあることに気がついた。おそらくこの「GAMMA 10 Group」が装置の保守点検や運転に携わっていたのではなかろうか。そう考えると個人名で記載されているすべての共著者は歴とした研究者であると受け取るのが素直であろう。

では24名の研究者がなぜ最初の「長論文」に名を連ね、そして今回、なぜ共著者名を取り下げたのか、それを私は知りたいが、現時点では一切何も分からない。はっきりしているのはその事実が残されたということだけである。その事実だけでものを言うのであるが、なんとも情けない人たちである。これまで共著者に名前を連ねて論文を一つ稼いだといい気になっていたのに、なんだかやばそうになるとあたふたと逃げ出す。卑怯であり卑劣ではないか、というのが私の思いなのである。いいかげんな気持ちで共著者になるから、いいかげんな気持ちで共著者から逃げ出す。研究者失格である。私はこれまでも論文に名を連ねる資格などのことを、論文に名を連ねる資格のない教授とはを始めとしていくつかの小文で述べているのでここでは繰り返さないが、論文に名を載せて始めて研究者としてスタートするのであり、論文を出し続けることで研究者の地位を維持することが出来る。それをチャランポランにするようでは研究者失格である。

この逃げ出した共著者が、なぜ最初の「長論文」に名を連ね、そして今回、なぜ共著者名を取り下げたのか、その経緯を詳らかに説明して誰もが納得出来る形で身の証しを立て得た場合のみ、私も指弾を撤回したいと思う。逃げ出した共著者に一片の良心があれば、沈黙で済ますことは出来ないはずである。