散歩をしていたら、甘い高貴な香りが漂ってきた。
ニセアカシアでもなし、橘でもなし、ぐるりと見回して大きな木を探しても、それらしい木が見当たらなかった。暫らくして足元の膝の高さ程のトベラに、白い花が咲いているのに気が付いた。紛れも無いトベラの香りだ。
先入観とは恐ろしいもので、どこか橘か蜜柑の香りに似ていると感じたら、何時の間にか眼は二・三メートル程の木を追い求めていた。それが見つからないと、ひょっとしてニセアカシアの花かと、更に高い木をさがしていた。人間は、記憶の底にあるものを咄嗟に検索するのだろうか。或いは、香り音痴の虚庵居士だけの反応なのかもしれないが。何匹かの蜜蜂が盛んに蜜を求めて群がっていた。このあたりには養蜂家は居ない筈だが、何処から飛んで来たのだろうか。しばらくは蜜蜂と一緒に、トベラの香りを愉しんだ。
何処より捜し求めて飛び来るや
トベラの香りを蜜蜂しるかも
白妙のトベラの花のやがて凝り
かの紅に実を結ぶとは
芳しき白妙の花の床しきに
みを持て余す をみなか汝は