Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

「不謹慎な発言ですね!」への回答

2007-07-01 14:22:21 | 報道写真考・たわ言
先日のブログの中で述べた「怪我がなかったのが幸いだが、ニュース・カメラマンの立場としては不幸、といっておこう」という言葉について不快感をもった方もいるようだし、この問題は紛争地で仕事をするときに常に頭につきまとっていることなので、少しばかり言及しておこうと思う。

基本的に僕のやっているような報道写真家という仕事は、気持ちの上では矛盾の上に成り立っている。それは、はっきりいってしまえばこの職業が「他人の不幸で飯を食う」という類のものだからだ。

正義感や使命感など振りかざすつもりなど毛頭ないが、自分自身の探究心や好奇心によること以外に、僕は、写真によってそれがささいなことでも被写体の生活を良くすることに貢献できれば、という思いを持ちながら仕事をしている。

しかし、そのためには、現場で起こっている悲惨な現実をまず人々に伝えなくてはならない。世の中が変わるためには、まず「現実を正確に知ること」、それについて「感じ、考えること」、そして「行動すること」という3つのステップが必要になる。報道写真というのは、その第1ステップに必要である「現実を伝える」という役割を担っていると思う。

だから、もし僕がわざわざ危険を犯して戦地に赴いても、その戦地の現状を十分に伝える写真を撮ることができなればそれは単なる無駄足ということになり、報道写真家としての役割を果たせなかったということになる。

今回のイラクでの従軍では、爆弾テロや砲撃が毎日のように起こっているにも関わらず、僕はそういう現場に居合わせることができなかったし、その悲惨な現状をアメリカや日本で生活している人たちに伝えることができなかった。僕自身がパトロール中に狙撃されたり、路上爆弾で吹き飛んだりしたって別におかしくはない状況なのだ。そこまでのリスクを犯しながらも、結局僕は「意味のある」写真を撮ることができなかったのだ。

だから、報道カメラマンとしては「不幸だった」といったのだ。

仕事柄何度も目にしてきたこととはいえ、傷つき苦しむ人間や屍をみるのは嫌なものだし、それが自分と何からの関わりを持った人間であればなおさらのことだ。しかし僕は、兵士達がトランプに興じたり、軍用車のなかで昼寝をしているような写真ばかりを撮るためにわざわざイラクまで足を運んだわけではない。

あまりに頻繁に路上爆弾が仕掛けられるため、毎日パトロールのために兵士達と一緒に軍用ジープのなかで揺られながら、僕の頭の中ではいつもこんなことが堂々巡りしていた。

「1秒先に爆発がおこるかも。。。もし爆発がおこっても、誰も死んでは欲しくないな。。。でも誰かが怪我でもしないと写真にならないな。。。10メートルほど先の爆発なら、車が破壊されて怪我人が数人でるかな。そうすれば誰も死なないし、写真も撮れるな。。。もし自分の車がやられたら、一発で即死にしてもらいたいな。。。」

なんという悪魔的思考であろうか。。。不謹慎な、と糾弾されても仕方がないが、これが正直な僕の胸の内、であった。

こういう精神的「矛盾」は、この仕事を続ける限り常につきまとい続けるのだ。

ちなみに僕は、もし自身が怪我をしたり死ぬようなことがあれば、その姿を写真に収めてきちんとその現実を世間に伝えてもらうように同行する記者や兵士たちにお願いすることにしている。





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19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
雪さんへ (長谷川玲子)
2007-07-07 22:15:06
私は先週の木曜日に、ボランティアをしている小学校の図書室で、初めて高橋さんの「ぼくの見た戦争」を読みました。ホヤホヤのファンです。内容もさることながら、後書きに動機は好奇心と書かれていたことに共感しました。私もそうだからです。私が行っている小学校は、農村で全校300名程です。そこでも受け入れられていますし、日本絵本大賞も受賞している立派な本ですし、きっと大丈夫。過去の日本の戦争を知ることもとても大切ですが、今現在世界には戦争で、同じ年頃の子供達が苦しんでいることを知ることも、とても大切だと思います。がんばって下さい。

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お疲れ様です。 ()
2007-07-07 21:09:29
本当に 大変だと思います。
くにさんにしか 解らない苦労が山ほどあると思います。

その発言は 一種の職業病ですから、仕方がないと思います。でも、きっといつか、「志」が「職業病」を超えると私は信じていますが どうでしょう?

くにさんのイライラは、方向性のないアメリカへのイライラであり、方向性のないイラク、方向性のない今の自分・・へのイライラではないでしょうか?
周囲や環境の雰囲気には 気がつかないうちに、自分も飲み込まれている事が多いので・・・。

どうでしょう?仕事の依頼とは別に、自分自身のために「まるっきり違った視点」で色々なモノや人を撮ってみては。言ってみれば、自分が撮りたいものや、撮らなきゃいけないモノの 間逆をいく発想です。
くにさんの本当の大変さも、正確に把握できていないのに生意気な事を言って申し訳ないのですが・・本当に一案です。笑って聞いておいて下さいね。。

ウチの小学校は これから、戦争体験を聞くイベントがあります。くにさんの写真集も学校で扱ってもらえるかどうか先生にお話に行くところです。
井上ひさしさんの「こどもに伝える日本国憲法」の本も快く受け取ってもらっているので、きっとくにさんの本もイケると思いますよ。
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本とブログ (長谷川玲子)
2007-07-07 19:30:24
「戦争が終わっても」拝見しました。大人の私が経験したことのない、悲惨な経験をせざるを得なかった子供達の表情が切ないです。ファヤの穏やかな表情が救いです。お兄さんと職業のお陰ですね。希望は人を変えますね。ブログがタイムリーな高橋さんの表現で、本は膨大な取材と写真から選び抜かれ、文章も推敲され、多くの人達が携わった完成された作品と受け取っています。写真に添えられた本の文章が、分かりやすくてとても好きです。高橋さんの写真には、高橋さんの言葉が欲しいと思う多くの方のうちの一人です。これからもブログを重ねて行くうちに、また前の二冊のような素晴らしい本ができることを期待しています。広い世界の苦しみを(戦争の後の喜びが来ればもっといいけど)また教えて下さい。くれぐれもお身体(命)を大切に。貴方の真似はできませんが、メッセージは真摯に受け止めたいと願っております。
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戦争 (そこら辺の一般士官)
2007-07-06 20:37:13
初めてコメントさせていただきます。
中学校であなたの本を読みました。
戦争という物のつらさを知っていたつもりでしたが、
写真を見て、やっぱり現実って自分が思っていた
以上に「悲しいな」って思いました。
私は将来ジャーナリスト系の仕事に就こうと
思っています。その点であなたの本に出会った
ことは私にとっての宝になると思います。
お仕事がんばってください。
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Unknown (硝子)
2007-07-04 23:39:11
言葉がたりませんでした。決してニュース性だけを追求している、という意味ではありません。イラクの惨状を伝えたいという報道写真家としての信念をもちろん応援しています。
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Unknown (硝子)
2007-07-04 23:30:53
報道のことは部外者なのでよくわからないのですが、確かに新聞のトップページを飾るような写真は人々の注意をひきつけたり、衝撃を与えたりするものが話題となり、以前このブログでもいろいろ話題になっていた「文章」さえもいらない「写真」が事実を雄弁に語るのかもしれません。高橋さん自身が、気持ちの矛盾と葛藤のなかでも、その「ニュース性」のある写真がとれなかったことを悔やんでるのかなと勝手に思いました。でも、リベリアの内戦孤児のムスやモモ、ファヤなどの写真が教えてくれたものはとても大きいです。今、私たち受け取る側もそういう感性がにぶっていて、「これでもか」というぐらいに刺激が強くないと反応しなくなってしまっているか、高橋さんの大切にしている「感じること、考えること」ができなくなっているように思います。この世から戦争がなくなって「兵士」という職業がなくなって、高橋さんが戦地に赴くことがなくなっても、きっと社会の巨悪をあばきにカメラを手に立ち向かうだろうな、と思いました。どうかご無事で取材をお続けください。
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Unknown (mizy)
2007-07-04 14:35:10
偶然の一致が引き起こした凄惨な光景に遭遇し、その瞬間を撮ってこなければ、見る人誰もが衝撃を受ける「意味のある写真」にならない・・・果たして、そうでしょうか?私は、高橋さんが撮られたどの写真にも、何らかのメッセージが込められていると思っています。何より大切なことは、高橋さん自身が現場に行って、高橋さんの眼でとらえた事実、現実なのではないでしょうか?写真に写るメッセージの受け止め方が人それぞれ違っても、高橋さんの見たありのままの現実が、そこに明確にあらわれている事に間違いはないのです。写真を撮って、取材先の現状を伝えて頂く事が、見る者にとってどれ程大きな意味を持つか・・・そこから知ること、学ぶこと、とても多いです。だからこそ、一人でも多くの人に高橋さんの写真を見て欲しいと思うのです。今後も、高橋さんらしい生き方と写真に期待しています。くれぐれも体調に気を付けて下さいね。
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Unknown (yuli (dumbo))
2007-07-03 09:09:12
イラクのことについて数多く見た写真家のサイトからなぜ高橋さんを選んだか今はっきり言葉でわかった気がしました。その生き方、応援してます。

と、こうやってキーボードを打っていたら急に提案したいことが出来ました。素人で何もわからず書きますのでご容赦ください。誰が見ても一瞬でわかるような悲惨な現場の写真(大きなこと)と並行して、高橋さんが見る矛盾、憤り、または伝えたいこと(中くらいか小さいこと)を独自の視点で撮って伝えるというのはどうですか?太く短く的なことと細く長く的なことを組み合わせる、とでもいいましょうか。それとも仕事柄そういうことは出来ないのかな。
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すみません (bluesnow)
2007-07-03 03:47:06
要するに、写真がどうのこうの、写真家だからどうのこうの、という問題じゃないんじゃないの、というのが私のポイントでした。はずしてすみません。死ぬ覚悟をしながら写真家がとってくる写真は、我々にとってはどれも貴重なのでは。。だって、我々は現場にいないし、何よりも私なんかは行きたくないし、楽して現場の一部を知ることができるわけですから。。感謝こそすれ、です。。
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ばっか!ですね (bluesnow)
2007-07-03 03:33:53
最後の文章を読んで、涙が出ました。ばっか!ですね。でもそこまで覚悟してでも、身体が動いて、戦場に行きたいんだから、瑣末な言葉尻をとらえて、いろいろ言いたがる人がいたって、申し訳ないですけど無視して、堂々と行って、運が悪かったら死ぬだけですよ。涙の一滴ぐらいは流して、そのあとは「好きなことをして死んだ」と笑ってあげますから。。(もう言ったっけ。。笑)猟奇事件があったら、ワイドショーのタレントなんて、どんなに喜んで事件の現場に立っていることか。わくわくしてるのが、あの声の調子でわかるじゃないですか。(笑)医者だってそうですよ、きっと。世界でたった一人みたいな難病患者が自分の前にあらわれたら、わくわくして、論文を書いて名声?を得るために、ていねいにていねいに診るのじゃないかなあ。。(笑)マスコミ、医学。。弁護士もそうじゃないでしょうか。。。ジレンマは職業病みたいなものです。ごちゃごちゃ言う人は、何も知らない人です。で、知らない人にていねいに答えてあげて、さすがあ。。
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泣けてきた。 (**kom)
2007-07-03 01:55:58
いつも思うこと。

邦さんのコトバは、いつも正直すぎるぐらい正直で、ココロにずきずき刺さります。カメラを持ってるって戦場であっても、障害児を撮っていても似たようなものだと思います。環境は全く違いますよ。そんなのは一緒になりませんから。

ただ撮りたい、それだけ、という部分。

>軍用車のなかで昼寝をしているような写真ばかりを撮るためにわざわざイラクまで足を運んだわけではない。

でも。

なぜ昼寝をしてしまうんですか。
暑くてなお疲れているのでしょう。
別にイラクを選んで仕事をしてくて兵隊になったわけじゃなくて、気がついたらイラクに派遣されてただけで。重要な写真なんですよ。昼寝の写真も。

 写真を撮るなんて実は傲慢なことです。私はいつもそう思って撮ってます。

だけど。

悪魔的な思考。糾弾されてもしかたない思考。
すごく解る。

 でも。
今を撮れるのは、今に生きている人に他ならない。私は障碍者の親ですから、いつでも何をしてもイデオロギーで括られてしまうんですね。でも、今撮らねば意味がない。何を言われてもです。

 私には、そんなところとは別に伝えたいことがある。なんと言われても、勘違いされてもいい。イデオロギーや国家の方向性とは違った所に伝えたいことがある。解ってもらえなくてもですよ。素人なのに、ですよ。

 写真はしんどい。勘違いされて、もう写真なんて辞めたくなるほどに。

でも。

 しんどくないと意味がない。しんどいのは、そこに生きているイラクの人も一緒だもの。日本に住んでいる障碍者の人も一緒なんです。だから撮るんではないんですか。邦さんはいつも、生きたいと思いながらも死んで行く人を忘れてない。

 死んだ人は時と場合により、自分かもしれないからでしょう。
違いますか。興奮し、好奇心は当たり前に存在しますよ。人なら普通にあると思いますよ。見たいし、感じたい欲望は誰にでもあるでしょう。

しかし、そこに何を恥じる。
堂々と昼寝を撮ればいい。

そこには、邦さんが思う以上の意味があるじゃないですか。
そのままを。死にたくなくて、または爆撃に合わないその日のそのままを撮ってください。

邦さんにしかできないことですから。

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feeling (maggie)
2007-07-03 00:45:25
初めてコメントいたします。

高校のときに 高橋さんの写真をみてから
せかい中の出来事への 関心がわきました。

それゆえの哀しさがありましたが

今回の解答で救われた気がします。

現実として知らない以上、
私は何も言うべきではないです。

これからも その考え方・情熱・etc・・
忘れないでいてください。

失礼致しました。
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Unknown (べれんこ)
2007-07-02 21:04:23
「ハゲタカと少女」を思い出した
高橋さんも矛盾を抱えながら仕事をするのは
かなり辛いとは思いますが頑張ってください
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Unknown (tomocapa)
2007-07-02 18:58:12
筆不精と言いつつもしっかりとコメントに回答されているところを見て、さすが高橋さんだなぁと感じております。
同時にジャーナリストとしての姿勢を学ばせていただきました。

>こういう精神的「矛盾」は、この仕事を続ける限り常につきまとい続けるのだ。

ぼくのような駆け出しが理解できるなどと気軽に言えることではありませんが、ぼくもパキスタンでの取材中や日本国内でも難病患者を取材中に何度もこうした「矛盾」と意識してきました。

前述の方の「怪我や爆撃の写真ばかりが写真ではありません」。
ぼくはそうした自分なりの視点をもった写真も模索していきたいと思いました。
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回答読みました (えどしん)
2007-07-02 14:52:04
「矛盾」について、少しだけ納得した@えどしんです。

今後は多少表現に配慮いただければ幸い。

いみし。
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感受性 (naho)
2007-07-02 14:01:54
人それぞれの状況や心で、一枚の写真の意味や受け取るメッセージは違いますよね。

高橋さんの込めたいメッセージに、いつも共感し、「作品」としてのクオリティにも、感動したりします。

悲しいこと、
悲惨なこと、
凄惨な現場、
そのリアル
リアルを「現実」や「日常の続き」と感じられないたくさんの人々・・・日々の「当たり前」の中に埋没してしまう感受性をより奮い立たせるのは、
痛みを伴う場面なのかもしれません。

そこにある真実だから。

自由のきかない環境で、限られた枠組みで、伝えたい真実に触れるチャンスは少ないのかもしれません。
そういう意味での「不幸」
もどかしさ。

凄惨な写真でなくとも、
伝わる感受性がそれぞれの中に存在するのならば、
憂う母親の横顔だけで伝わるのでしょう。

お疲れ様です。
無事を祈っています。

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Unknown (nam)
2007-07-02 10:59:57
悲惨な出来事はおこらないほうがいい
でも人間の気持ち一つでおきてしまう

 
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Unknown (シゲ)
2007-07-01 22:58:23

報道カメラマンが世界へ伝えることによって
国や組織が動くケースは多いです。
伝わらない内戦や虐殺ほど悲惨なものはありません。

そして今回の高橋さんが書いたような葛藤は、
どの報道カメラマンも当然抱くものだと思います。
というよりも抱いて欲しいです。

その葛藤を抱きつつ、良い報道写真を
撮り続けて欲しいと思っています。
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Unknown (miura)
2007-07-01 21:58:59
何年か前、最初に高橋さんから、これに近い話をうかがったとき、まず不快感を抱きましたが、つづいて、高橋さんの正直さに感動しました。

さすがですね。

だけど、怪我や爆撃の写真ばかりが写真ではありません。
この間のバーコードの写真は、すごくインパクトが強かったです。

そういう、視点のちがう伝え方を探るのも、写真家としての挑戦ではないでしょうか。
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