Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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事実と真実

2006-05-02 20:27:06 | 報道写真考・たわ言
報道写真家という仕事をしていて、いつも気になっている言葉がある。

「真実を撮る」という言いまわしだ。

人からコメントされることもあれば、インタビューをされた後の原稿に「真実を撮るカメラマン」などと書かれることもある。正直言って、これはかなり心外だ。気づいたときは必ず訂正してもらうように申し出ているが、世間では人々が「真実」という言葉を随分安易に使っているなあと感じてしまう。

まあ言葉の定義にもよるだろうが、僕としては報道写真家が撮るのは「真実」などではなく、「事実」に過ぎないと思っている。真実などそう簡単に見えるものではないし、普遍的なものでさえないだろう。立場や価値観が変われば、真実それ自体変わってしまうようなものなのではないだろうか。読者が一枚の写真から想像を膨らませてその人なりの「真実」を追究するのは勝手だが、そこに写っているものは僕らの目の前に存在した単なる「事実」に過ぎないのだ。

だから僕は、カメラマンが「真実を撮りたい」とか「真実を追って」などというのを見たり聞いたりすると、なんだか胡散臭く感じてしまう。

最近ではコンピュータ技術の発達で、見抜くのも不可能に近いような写真合成なども簡単に創れるようになってしまったが、そういう例は別にして、基本的に写真は絵と違い、空想や想像ではつくりえない。そこに実在しているものしか写すことができないのだ。

僕ら報道写真家たちのできることは、「事実」を記録し、人々に伝えること。そこには「真実」云々などという観念的なものは含まれない。現実を伝えるメッセンジャーとしての役割があるだけだ。