熊本熊的日常

日常生活についての雑記

無事之名馬

2014年11月15日 | Weblog

留学時代の同窓生有志のゴルフコンペがあった。私はゴルフをしないので、コンペの後の懇親会だけ参加した。ゴルフ場というものはたいていは郊外にあるもので、今回の会場も例外ではない。ゴルフ場と最寄駅を結ぶシャトルバスの時間に合わせて出かけたのだが、午後のバスはゴルフ場からの帰りの客のためのもので、時間は都心へ向かう電車に合わせてある。都心から出てくると、バスの時間まで30分程度待つことになる。午前中に陶芸をして、その足で急行に飛び乗ったので昼飯がまだだった。懇親会といっても午後3時過ぎではたいした食べ物もないだろうと思い、ゴルフ場最寄駅の駅前にある喫茶店でサンドイッチセットをいただきながらバスを待つことにした。

その喫茶店は、ファミレスような風情の構えなのだが、店の中は昔ながらの喫茶店だ。営業しているのかどうかわからないような雰囲気だが、キーコーヒーの看板が出ていたので、入り口の戸を押し開いてみると、戸は開いた。一見したところ誰もいないようだったので「こんにちは」と声をかけてみると、店の奥のほうで動く人影が目に入った。「いらっしゃい」と応えるそのオヤジは恐ろしく歯並びが悪い。妙なところに入っちゃったなと思いながら、駅前のバス停が見える席に座る。椅子が思いの外深く沈んだので一瞬焦る。ほどなくオヤジが水とおしぼりを持って席へ来た。サンドイッチセットを注文する。どのサンドイッチか、と尋ねるので、何があるのかと聞いたら、そこに書いてある、と私の手元のメニューを指差す。いちいち説明できないほど種類が多いのかと思ったら、玉子、野菜、ハムの三種類だった。サンドイッチといえば玉子だろう、と思っていたので迷わず玉子を注文する。飲み物はコーヒー。

10分近く経って、まず玉子サンドと小鉢に山盛りのサラダが運ばれてきた。サラダは千切りキャベツが主体で、飾りのようにトマトとキュウリとレタスの小さな葉が添えられ、マヨネーズとオレンジ色のドレッシングがかかっていた。サンドイッチもサラダも想像を超える旨さだ。味そのものは、ごくありふれた家庭のサンドイッチなのだが、家庭の味であることそのものが肝なのである。卵を茹で、殻をむいてさいの目に切り刻み、マヨネーズを加えて和える。多少の洋辛子とバターを塗ったパンでその卵餡を挟み、適当な大きさに切れば出来上がりだ。こう書くとなんでもないことなのだが、これが美味いのである。サラダにしても、ただの千切りキャベツなのだが、シャキシャキとした歯ごたえと野菜らしい甘さが感じられて美味しかった。

近頃はこんなどうというほどのことでもないことに妙に感心することが多くなったような気がする。かつては当たり前であったことが、いつの間にか個性的なことになってしまったということだろう。そのことが意味することは果たして何だろう?