ドイツに戻った翌日、早速、モーゼル地方への出張。
ライン河の岸辺を列車が行く。
朝の光。薄曇りの中、ドイツは今、春満開。
谷間を包む雲間から太陽が射し込む。
水面に映る光と桜の花。
何度、この河の流れを往き来しただろうか。
いつの間にかドイツでの生活も30年になった。
何十年にわたっての想い出が次々に蘇ってくる。
ひとへの思いも往きて流れていくもの。
夜中の冷たい風の中、春が来た。
遠く離れたこの国に。
さくらの花が咲く頃に。
白い花。白い妖精。風の中に踊るように。
もう止そう。
見ることのない花。あり得なかった未来。
壊れてしまった国。日本という国。