ドイツに戻って ー 人生の2/3あたり

2016年06月03日 | 随想



昨日の夕方、日本、京都からドイツに戻りました。30年余り、
日本とドイツの間を往復していますが、今回の旅はとりわけ大きな
節目になるように思います。
京都の友人、知人の方々、日本での日常の暮らしでは右も左も
あやふやで心許ない自分ですが、御助力、応援いただき、
御礼申し上げます。
どうも有難う!
そして、今回はゆっくり会えなかった友人の方々、逢えるであろう
まだ見知らぬ方々、お会い出来ることを楽しみにしています。
七月の祇園祭の頃、京都に、日本に戻ります。



今日は朝からニュールンベルグヘの出張です。ドイツでの
僕の日常のスタートです。



雨の早朝、緑の中で目を覚まし、
「あぁ、ここが僕の家族との暮らしの場なのだなあ」と、
そして、南独を目指して飛ぶプロペラ飛行機の中では長年見慣れた
体の大きい人達を眺めながら、「ここが僕の仕事の場なのだなあ」
とあらためて思いました。




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今回の滞在では、生まれてからずっと京都に暮らす、一人のしっかり
した方が「高田さんにとって、心のふるさとは日本というよりも、
昔ながらの日本なんだね。」と表現されましたが、確かにそのとおり
のようです。



いつも、子供達三人には「父さんが好きなのは、アルトヤーパン、
オールドジャパンだよ」と話しかけてきました。
それは確かに昔の日本、過ぎ去った日本ではなく、また、昔からの
と言うよりは、今にある昔ながらの日本のことなのでしょう。
そして、その中に包み込まれた無垢なもの、確かなもの、暖かいもの、
本質的なものに深い愛着を感じてきたのだと思います。

さて、今日は朝早くからニュールンベルグに出張、久し振りの
通訳業務でした。日独の大きな合同企業の監査役会議で、
何千億円の売上の話やその中でどのようにして更なるコスト低減
を図り、利益率の上昇を達成するかが全ての前提となる話でした。
このような現代の経済イデオロギーの話を僕は過去30年近く、
数限りなく訳してきたように思います。
自分の職業分野ではあるのですが、そこで扱われる内容やテーマ
には本質的な興味を一度も抱いたことがないと、改めて思います。

今回の京都ではその初日に実に的確に姓名字体判断をする方に
出会いました。
「あなたは、随分自由に生きてきたようですが、そのわりには
心の中にやり残したことがある、このままでは死にきれないと
いうほどの思いを強烈に抱いているようにお見受けします。」
とはっきり指摘され、自分で感じていた以上に胸の中にど真ん中
の直球を投げ込まれた気がしました。今もしっかり尾を引いている
言葉です。

吉田山の小さな住まいでは何もない中、屋内テント生活を始め、
なかなか大変でしたが、久しぶりに畳に布団で約一週間を過ごしました。



朝早く東山を望み、朝陽の照り渡る真如堂をおおい包むような
青もみじの中を歩き、吉田山の木立の中をあてもなく散歩したり、
或いは彼方此方から大文字を望む、左京の道や路地を自転車で
気の向くままに走り回ると、
「あぁ、此処は本当に良いところだ、なんと有り難いことなのだろう」
とつくづく思います。



ここで料理をしたり、ものを書いたり、友達と長い話をしたり、
山を歩いたりするようになれば、その嬉しさはなおさらのこと
でしょう。ドイツと日本、二つの椅子には座れない、どちらにも
座れないと思い続けたことも長くありますが、これは本当は
僕の中の二つのことで、実は一つで有り得ることなのかもしれません。

自分が好きなことを大切にし、精神と身体をそこに向けていくと、
固有の分立も一つの普遍に結ばれていくのではと、今は思います。
自分は既に人生の3分の2は過ごしたのかもしれませんが、まだまだ
3分の1はあります。ここにきて、このように感じられること、
考えられることは格別に嬉しいことです。

旅は人を感傷的にするとよく言いますが、それは多分、表面的な
ことでしょう。自覚的な旅ならば、それは人生の意味をより明らか
に照らし出します。

「人生は旅なり」とは何もかもが過ぎ去っていくのではなく、時間の
変遷の中で自分の本分に従って、その時々を生きていくことを意味する
のだと思います。

こんなことを考えるようになったのは、昨年末から数ヶ月のことです。
その時は大変に思っても、自分の内なる響きに、それまでの小さな
試みに、その時の不安や迷いによく耳を澄まし、勇気を持って、
落ち着いてしっかり、大きな一歩を踏み出すと良いのだと思います。

 

今日は大分、個人的なことを長く書きましたが、自分のために
書き留めておきたかった考えや事柄です。 
読む人にも何かの参考になれば良いと思います。  




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 今年の5月22日に記した随想、
「重なり始める二つの時間 ードイツから日本、京都へ 」
から約二週間後、ドイツに戻ってから記した文章です。