刃物のはなし

2010年09月01日 | 日本とドイツの手仕事
今日から1週間の出張。ゾーリンゲンの手作り刃物メーカー「Windmuehle」さんの仕事。僕はかれこれ12年、この会社の
仕事を手伝っている。「良い刃物は手でつくられる」をモットーとして、
それが今日のドイツ、ゾーリンゲンの小さな会社で、どこまで実現
できるか、続けていけるかを問いかけている。






ゾーリンゲンは日本ではヨーロッパ一の刃物の産地として有名なようだ。
ゾーリンゲンの名前自体を刃物のブランド名だと思っている人も
少なくない。
ところが、ゾーリンゲンの正直な人達は日本の手作りの刃物、特に
和包丁がその切れ味では、世界で一番素晴らしいと思っている。
多くのヨーロッパの料理人も同じように考えている。
実際にヨーロッパの料理包丁は大体があまり切れないし、その99%が
ステンレス製の工業製品である。日本の和包丁のような、職人が手で
作る刃物はほとんどない。また「錆びるけど切れるはがね」の伝統も
ほぼ消滅している。

ゾーリンゲンでも刃物メーカーで、日本のように鍛冶仕事から刃付け
まで職人の手仕事で作っている所は一つもない。刃付けの最終行程で
一般の工員さんが小刃を引くことが時々あるくらいである。これは
1960年代以降、ゾーリンゲンの刃物産業が合理化、機械化を大幅に
推し進め、職人制度を廃止していったことの一つの結果だろう。

このゾーリンゲンの刃物の話、実際とイメージの乖離は、ドイツの
マイスター制度に対する日本の誇大化したイメージとも一脈通じる
所がある。

ドイツの高度に工業化された現代社会、日常の中で、徒弟制度や長い
専門的修業をベースとした熟練職人の活躍する場はほとんどない。
ドイツのマイスターは現在、あくまでも自営開業の資格に過ぎない
ものが大半である。
むしろ今日では、自宅の修繕や家を建てる時、大工さん、電気工、
配管工などのマイスターの仕事ぶりや、スケジュールの遅延にどれ
ほど苦労させられたかというのが、ドイツの人達の現代マイスター
物語である。



パリのメッセ「Windmuehle / 風車のナイフ」さんの
ブース。福井の武生から刃物鍛冶の加茂さんも応援に来た。
写真の刃物は加茂さんと「風車のナイフ」の日独合作。