元気な高齢者こそ使いたい電子機器

80歳を過ぎても、日々の生活を楽しく豊かにする電子機器を使いこなそう

トランプ旋風に、民主党サンダース旋風も忘れてはならない。

2016年03月07日 17時49分14秒 | 日記
 今日もトランプ旋風に関連した話題を、筆者は興味深く読むことができた。

 原油情報でおなじみの藤 和彦氏のコラムだ。

 一般的には米国の景気は良いと伝えるメディアが多いが、金融経済に特化している経済体制になっている面があり、かっては米国にも多かった実物経済の主流である、製造業の従業者数が大幅に減少している。

 その結果、落ちこぼれた白人労働者が貧困層になっているのだ。それが米国社会に蔓延している「恐怖」と「失望」を生み出しているという。

 戦前のドイツでナチス・ヒットラーに多くの支持を集めたのも、当時の社会構造が同じような不安を生む状況であった。

 トランプ氏と民主党のサンダース氏支持者の急進的な若者層、トランプとサンダースの政策的には相反するように見えるが、熱狂的なサンダース支持者が底辺に存在し、万一トランプとクリントンの対決になると、サンダース支持の熱狂層がトランプ支持に回る可能性もあるというのだ。

 日本の参議院、または衆参同時選よりも、はるかに世界の今後の政治経済に大きな影響を与える、米大統領選挙の動向にはやはり目が離せない。


(JBプレスより貼り付け)

トランプ旋風をドラッカーの処女作で読み解くと?
米国民は今どんな心理状態なのか

藤 和彦
2016.3.5

 3月1日のスーパーチューズデーで米共和党のトランプ候補は11州のうち過半数で勝利をおさめ、同党の大統領候補に選出される可能性が高まった。

 知名度は高いものの選挙戦当初は「泡沫候補」とみなされていたトランプ氏が躍進している理由は「米国民の怒り」だと言われている。

 3月2日付ブルームバーグは「米国民は怒り心頭:トランプ氏善戦の陰には大恐慌以降の『最悪の景気回復』」と題する記事を発信した。全米の有権者は、1930年代の大恐慌以降で最悪の不況とその後の最も弱々しい回復を目の当たりにし、「貿易の影響で雇用が失われる」と猛然と攻撃するトランプ氏の主張に耳を傾けるようになったという。

 米国の製造業の就業者数は1999年末に1730万人を誇っていた。それが2015年末には1230万人に減少し、かつては30%を超えていた非農業部門の就業者数に占める割合も、現在では約9%となっている。その影響を最も受けたのは白人中年男性だとされている。

●米国社会に蔓延している「恐怖」と「失望」

 世界的な言語学者であり、現代米国社会を厳しく批判しているマサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー名誉教授は2月25日、ハフィントンポスト米国版とのインタビューで「米国社会に深く根ざした『恐怖』と『失望』がトランプ旋風を巻き起こしており、低学歴の白人中年世代で死亡率が急上昇していることが関係している」と述べた。

 ノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学のアンガス・デイートン教授らの調査によると、中年層(45~54歳)の死亡率は、フランスやドイツなど先進6カ国と米国・ヒスパニック系で低下しているが、それに対して米国・白人のみが1990年代後半から上昇している。その直接的な原因は自殺やアルコール・薬物中毒などである。背景には米国社会にストレスや抑鬱、絶望が広がっている兆候だと推測されている。

 1928年生まれのチョムスキー氏は「1930年代の貧困は今よりはるかにひどかったが、貧しい労働者や失業者には現在にはない希望があった。現在にはそれがない」と言う。その上で、「彼らの怒りは彼らを脅かす制度を解体しようとするのではなく、もっと多くの犠牲を払うような方向に向いている。欧州でファシズムが興った時と状況が似ている」と現在の米国への危機感を露わにしている。

 2月27日、メキシコのカルデロン前大統領がトランプ氏を痛烈に批判した。トランプ氏がメキシコからの不法移民を性犯罪者呼ばわりしたことを取り上げ、「ヒトラーがやったことと同様に社会の不安につけ込んでいる」と怒りをあらわにする。

●大衆は「不条理ゆえ信ずる」

 数々の失言や実現可能性が低い主張を繰り返しながらも躍進を続けるトランプ氏を見るにつけ、筆者はピータードラッカー氏の処女作を思い浮かべずにいられない。

 ドラッカー氏は日本でも経営学者として著名であり400万部以上の書籍が売れているが、その処女作はあまり知られていない。

 タイトルはずばり『「経済人」の終わり 全体主義はなぜ生まれたか』である。ドラッカー氏はこの処女作を、1933年にヒトラーが政権をとった直後に執筆が開始し、米国に渡った1937年に完成させ、1939年に出版した。

 その内容は、全体主義の起源を明らかにしたものだった。ドラッカー氏によれば、ファシズムの発生は第1次世界大戦と大恐慌によって「経済人(個人の経済的自由が社会に自由と平等をもたらす)」という近代の概念が崩れたため「大衆の絶望の谷間に魔物たちが襲来した」ことが原因だという。

 ドラッカー氏が挙げるファシズム特有の症状は、(1)積極的信条をもたず他の信条を攻撃し否定する、(2)政治と社会の基盤としての権力を否定する(民主主義の形式を遵守しながらその実質を骨抜きにする)、(3)ファシズムへの参加はその約束を信ずるためではなく、まさにそれを信じないがゆえに行われる、である。

 この中で(3)については解説が必要である。

 当時ナチス党員ですら、党が掲げる綱領は選挙向けキャンペーンにすぎないと認識していたらしい。それではなぜ大衆はヒトラーに熱狂したのだろうか。

 ドラッカー氏はその要因を「不条理ゆえ信ずる」という心理状態に求めている。戻るべき過去への道が閉ざされ、前方には超えるすべのない絶望の壁が立ちはだかっているとき、大衆は「そこから脱しうる方法は魔術と奇跡だけである」との異常な心理状態に陥る。そのため、矛盾に満ち不可能に思えるスローガンに傾倒するという倒錯状況が起きるというのだ。

 ドラッカー氏は「キリスト教もドイツ社会を救うことができなかった」と指摘している。現在の米国民の中で「最後はキリスト教が守ってくれる」と信じられる人はどれぐらいいるだろうか。

 ヒトラーの主張には、あらゆるものに対する否定が根底にあった。だがニヒリズムだけでは大衆の支持は得られないため、戦う相手を1つに絞り(ユダヤ人)、民族共同体を謳い、大衆の統合を図ったという。

●メデイアはトランプ氏の勢いに危機感

 米国の主要メデイアはトランプ氏の勢いに危機感を募らせ、「トランプ降ろし」に躍起になっている。

 米ワシントン・ポストは2月25日「不法移民1100万人の強制送還はスターリンやポル・ポト以来のスケールの強制措置」だと非難し、「トランプ氏の指名を阻止するため、共和党指導者はあらゆる手段を講ずるべきだ」と主張する異例の社説を掲載した。また2月28日、CNNは「トランプ氏が主張するメキシコ国境に建設する壁の費用は約100億ドルに上る」と批判している。

 しかしグローバル化に不満を募らせ「白人社会の優位が復活する」という奇跡を信じてトランプ氏を支持する者たちには「馬耳東風」だろう。

 1930年代の恐慌に対する無策などによってヒトラーの台頭を許すことになったドイツの支配層は、「今ならまだヒトラーを抱き込めるし、操れる」という思惑で、第1党党首になったヒトラーを首相にした。しかし、その後のヒトラーが彼らの希望を無残に打ち壊し、独裁者に変質していったことは周知の事実である。

●サンダース氏の支持者がトランプ氏側に?

 共和党の主流派は相変わらずトランプ氏に対するアレルギーが強いようだが、2月27日には大統領候補であったクリス・クリステイーニュージャージー州知事がトランプ支持を表明するなど、歩み寄りの動きが出始めている。もしもトランプ氏が共和党の大統領候補になったとしたら、民主党のクリントン氏に勝てるのだろうか。

 現時点で最も「まともな」大統領候補とされるクリントン氏には「若者に人気がない」という弱点がある。

 米国政治が専門の海野素央明治大学教授は、「米国ではベビーブーマー世代とミレニアル世代の間の衝突が深刻だ。そのため、ベビーブーマーからの支持が強いクリントン氏が予備選で勝っても、本戦ではミレニアル世代が投票所に出向かない可能性が高い」と指摘する。

 ミレニアル世代とは、1980年代から2000年代初頭に生まれた若者たちを指す。彼らが民主党候補の中で支持するのは、公立大学の学費無料化などを掲げるサンダース氏だ。

 ニューズウイーク誌(2月17日号)は「サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング」と題する記事を掲載した。同記事によると、サンダース氏支持者の中で「バーニー・ブロス」と呼ばれる独善的で攻撃的な男性が増加しているという。

 彼らは、革命を口実に、体制の象徴であるヒラリーやその支持者を血祭りにあげることに心血を注ぐ。妥協を許さないオール・オア・ナッシングの態度はトランプ支持者と同等だと評されている。サンダース支持者の多くは「反トランプ」だが、ナチスの「突撃隊」を彷彿とさせる「バーニー・ブロス」を見ていると、彼らは本戦でクリントン氏ではなくトランプ氏を支持するのではないだろうか。

●暗殺された急進的ポピュリスト

 ドラッカー氏は、ファシズムの防波堤としての当時の米国の存在を高く評価していた。だが、ドラッカー氏が米国に渡る2年前の1935年に暗殺されたヒューイ・ロング氏という急進的なポピュリスト政治家のことは、知らなかったのかもしれない。

 ロング氏は1932年ルイジアナ州の上院議員に当選すると「誰もが王様」というスローガンを掲げ、世界恐慌後の貧困を抑制するために「富の共有運動(所得再分配運動)」運動を1934年に開始した。

 ロング氏はこの運動で一躍全米注目の的となり、民主党の候補として1936年の大統領選に出馬した。だが、政敵が多かったため大統領選挙活動中に暗殺された(陰謀説もある)。暗殺されていなければフランクリン・ルーズベルト大統領の再選を阻止して大統領になっていた可能性がある(再選を果たしたルーズベルト大統領は強権的な手法を多用するようになったと言われている)。

 ロング氏のことを「代表的アメリカン・ファシスト」と称するのは首都大学東京の三宅昭良教授だ。三宅氏は「ファシズムは豊かな国で国民が貧しくなったと感じたときに出現する」とし、ロング氏のような巧みな演説で恐怖政治を隠す、いわゆる「仮面をかぶった洗練されたファシズム」が出てくることを警戒している。

 トランプの魔術に一縷の望みを託す米国民が、今後夢から覚めるかどうかは定かでない。ただ間違いなく言えるのは、米国政治の動向を予断を排して注視する時代になったということだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
藤 和彦氏
世界平和研究所主任研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2011年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

(貼り付け終わり)