「日銀総裁の語る理論は、そもそも間違い」と、東洋経済誌にリチャード・カッツ氏が、堂々とコラムを発表している。
筆者もこのブログでたびたび日銀黒田総裁の、異次元金融緩和が間違っているのではないかと、異議を唱えるエコノミストなどの論評を紹介してきた。
2013年3月に黒田総裁が就任し、「2-2-2プログラム」を掲げた。これは、2年間で、2%のインフレ率を、いわゆるマネタリーベースを2倍にすることで達成しようというものだった。
いよいよこの3月で2年間になる。 今になって、日銀はインフレ率は1.0%にしかならないと言っている。しかし英HSBCなどの民間のエコノミストは、実際の数値は0.5%に近いと述べている。 とてもじゃないが大幅に未達なのだ。
日銀は、この大きな原因は想定外の原油価格の下落のせいだと言いたげだ。
リチャード・カッツ氏は、原油の影響は認めるとしても、もともと黒田総裁の理論に間違いがあるとみている。
黒田総裁の理論は、「インフレ率が2%になると人々が思うようになれば、人々は物価が上昇する前にもっとカネを使うようになる一方、企業は人を増やして賃金をより多く払うようになる」というのだ。
しかし、筆者はそのように物価が上がってくると実感したらどういう行動をとるだろうか?と考えてみた。
給与などの所得は現実には増えていないので、必要量を減らして買うか、別の安い代替品を探すか、とりあえず今回は買うのを控えるかという、行動パターンをとるだろうと思う。
そうなのだ。まず可処分所得(実感として使えるお金)が増えないと、積極的な消費行動には移らないと思うのだ。
現に、2年たってもいっこうに景気が良くなったような気分が伝わってこない。東京の百貨店も期待している買い物客のターゲットは、円安で大幅に増加している中国やアジアの観光客の囲い込みに必死だ。
安倍政権も大きな経済政策ミスをしたのは、消費税8%を実施した事だろう。本来はまず景気を押し上げるためには大幅減税を行うというのが、景気刺激策としての常套手段なのに、税収拡大だけを目標にしている財務省に押し切られてしまった。
いまや日本のGDPは消費活動が60%以上を占めている。一般庶民の消費が伸びる政策を打ち出さない限り、経済活性化は望めないと思うのだ。
トリクルダウンの考え方も、効果が最終的に実感できるためには、かなりの時間経過の後になり、どの程度の効果が出るのかも全く疑問だ。
黒田総裁の不思議な異次元金融緩和は、結局トータルの経済活動の活性化には殆んど効果がなく、株式市場等の金融業界の活性化に効果があった程度で、一般庶民にはなんの恩恵もないというのが実態だ。
(東洋経済オンラインより貼り付け)
なぜ、インフレ率2%計画は破綻したのか 日銀総裁の語る理論は、そもそも間違い
リチャード・カッツ :本誌特約記者(在ニューヨーク)
2015年02月08日
日本銀行ははっきりと降参の白旗を上げてはいないが、灰色の旗を出している。2013年3月に黒田東彦氏が総裁に就任した際、彼は「2-2-2プログラム」というものを掲げた。これは、2年間で、2%のインフレ率を、いわゆるマネタリーベースを2倍にすることで達成しようというものだった。
日銀は日本国債を大量に買い入れてマネタリーベースを倍増させたが、逆に民間保有分が減少し、1年物と2年物の国債金利がわずかにマイナスになるほどだった。また、全体の5分の1の銀行貸し付けには、0.5%以下の金利を課している。
にもかかわらず、日銀は大部分のエコノミストたちがずっと言ってきたことを最終的に認めざるをえなくなった。2年で2%のインフレ目標は無理なのだと。
●インフレ率0.9%見通しも、まだ高い
2013年4月、黒田氏率いる日銀政策委員会は2014年度のインフレ率は1.4%(生鮮食品と消費増税分を除いて)になると約束していた。しかし今年1月21日、日銀は予測を0.9%に下方修正した。そして多くのエコノミストがこの数値はまだ高すぎると見ている。
2年前、日銀は2015年度に1.9%のインフレ率を達成して目標を実現すると約束したが、今になって、インフレ率は1.0%にしかならないと言っている。英HSBCなどの民間のエコノミストは、実際の数値は0.5%に近いと述べている。
原油価格の下落により、今年の春は一時的なデフレ期間となっている。今回の日銀の下方修正の発表では、目標は2016年度に達成するとし、そのインフレ率は2.2%だと宣言している。HSBCは再び、実際にはその約半分の1.2%であろうとしている。HSBCが正しいとすると、「2-2-2」は「3-1-4(マネタリーベースを4倍にして3年でインフレ率を1%へ)」に変わりうる。このことから黒田氏の信任度低下が複数のメディアで報じられている。
黒田氏は目標未達を原油価格の下落のせいにしたいようだ。それも一因ではあるが、それより、2-2-2計画の裏側にある理論の全体に本質的な欠陥がある。
黒田氏は「自己実現する予言」という魔法を信じている。人々と企業がインフレ率が2%に到達すると本当に思うように仕向ければ、人や会社はそれが実現するかのように行動する、という。つまり、人々は物価が上昇する前にもっとカネを使うようになる一方、企業は人を増やして賃金をより多く払うようになる。
言い換えると、インフレ率が2%になるかのように行動することで、本当に2%になるというのである。
このロジックは事実に反している。英国内閣事務局が20年間蓄積してきたデータは、人々はインフレを予想すると消費を控えることを示している。
なぜなら、人々は、賃金は物価ほど上昇せず、実質的な収入が下がることを正しく予測するからである。だが、黒田氏は、理論の世界に住んでいるようだ。
●いくらガソリンを入れても、車は動かない
黒田理論に基づいて、安倍晋三首相は1年前に、インフレと消費増税を補うに十分な「驚きの賃金上昇」が2014年に起こると「確信している」と書いている。安倍政権で実質賃金は5%も下がっている。
もし安倍首相がほかの2本の矢も本当に実施していたら、黒田氏の大規模な金融緩和はもっと成功していたであろう。だが、よく知られる安倍首相の「3本の矢」のいずれも、ほかの2本がなければ成功しないのである。
残念なことに安倍首相が財政刺激策をやめて財政緊縮策を採用したため、3本目の矢は単なる聞こえのよい目標にすぎなくなってしまった。黒田氏を自動車整備工に例えるなら、「車はガソリンが必要だから、15ガロンのタンクがついた車に30ガロンのガソリンを入れればうまくいく」と言っているようなものである。
エンジンがおかしいとお客が指摘すると、黒田氏はさらに30ガロン追加しようと勧めてくる。それでも車が動かないと、ため息交じりにこう言うのである。「“アクセル期待感”を持って車が動くと信じれば、車は動くのですがね」と。
(貼り付け終わり)
筆者もこのブログでたびたび日銀黒田総裁の、異次元金融緩和が間違っているのではないかと、異議を唱えるエコノミストなどの論評を紹介してきた。
2013年3月に黒田総裁が就任し、「2-2-2プログラム」を掲げた。これは、2年間で、2%のインフレ率を、いわゆるマネタリーベースを2倍にすることで達成しようというものだった。
いよいよこの3月で2年間になる。 今になって、日銀はインフレ率は1.0%にしかならないと言っている。しかし英HSBCなどの民間のエコノミストは、実際の数値は0.5%に近いと述べている。 とてもじゃないが大幅に未達なのだ。
日銀は、この大きな原因は想定外の原油価格の下落のせいだと言いたげだ。
リチャード・カッツ氏は、原油の影響は認めるとしても、もともと黒田総裁の理論に間違いがあるとみている。
黒田総裁の理論は、「インフレ率が2%になると人々が思うようになれば、人々は物価が上昇する前にもっとカネを使うようになる一方、企業は人を増やして賃金をより多く払うようになる」というのだ。
しかし、筆者はそのように物価が上がってくると実感したらどういう行動をとるだろうか?と考えてみた。
給与などの所得は現実には増えていないので、必要量を減らして買うか、別の安い代替品を探すか、とりあえず今回は買うのを控えるかという、行動パターンをとるだろうと思う。
そうなのだ。まず可処分所得(実感として使えるお金)が増えないと、積極的な消費行動には移らないと思うのだ。
現に、2年たってもいっこうに景気が良くなったような気分が伝わってこない。東京の百貨店も期待している買い物客のターゲットは、円安で大幅に増加している中国やアジアの観光客の囲い込みに必死だ。
安倍政権も大きな経済政策ミスをしたのは、消費税8%を実施した事だろう。本来はまず景気を押し上げるためには大幅減税を行うというのが、景気刺激策としての常套手段なのに、税収拡大だけを目標にしている財務省に押し切られてしまった。
いまや日本のGDPは消費活動が60%以上を占めている。一般庶民の消費が伸びる政策を打ち出さない限り、経済活性化は望めないと思うのだ。
トリクルダウンの考え方も、効果が最終的に実感できるためには、かなりの時間経過の後になり、どの程度の効果が出るのかも全く疑問だ。
黒田総裁の不思議な異次元金融緩和は、結局トータルの経済活動の活性化には殆んど効果がなく、株式市場等の金融業界の活性化に効果があった程度で、一般庶民にはなんの恩恵もないというのが実態だ。
(東洋経済オンラインより貼り付け)
なぜ、インフレ率2%計画は破綻したのか 日銀総裁の語る理論は、そもそも間違い
リチャード・カッツ :本誌特約記者(在ニューヨーク)
2015年02月08日
日本銀行ははっきりと降参の白旗を上げてはいないが、灰色の旗を出している。2013年3月に黒田東彦氏が総裁に就任した際、彼は「2-2-2プログラム」というものを掲げた。これは、2年間で、2%のインフレ率を、いわゆるマネタリーベースを2倍にすることで達成しようというものだった。
日銀は日本国債を大量に買い入れてマネタリーベースを倍増させたが、逆に民間保有分が減少し、1年物と2年物の国債金利がわずかにマイナスになるほどだった。また、全体の5分の1の銀行貸し付けには、0.5%以下の金利を課している。
にもかかわらず、日銀は大部分のエコノミストたちがずっと言ってきたことを最終的に認めざるをえなくなった。2年で2%のインフレ目標は無理なのだと。
●インフレ率0.9%見通しも、まだ高い
2013年4月、黒田氏率いる日銀政策委員会は2014年度のインフレ率は1.4%(生鮮食品と消費増税分を除いて)になると約束していた。しかし今年1月21日、日銀は予測を0.9%に下方修正した。そして多くのエコノミストがこの数値はまだ高すぎると見ている。
2年前、日銀は2015年度に1.9%のインフレ率を達成して目標を実現すると約束したが、今になって、インフレ率は1.0%にしかならないと言っている。英HSBCなどの民間のエコノミストは、実際の数値は0.5%に近いと述べている。
原油価格の下落により、今年の春は一時的なデフレ期間となっている。今回の日銀の下方修正の発表では、目標は2016年度に達成するとし、そのインフレ率は2.2%だと宣言している。HSBCは再び、実際にはその約半分の1.2%であろうとしている。HSBCが正しいとすると、「2-2-2」は「3-1-4(マネタリーベースを4倍にして3年でインフレ率を1%へ)」に変わりうる。このことから黒田氏の信任度低下が複数のメディアで報じられている。
黒田氏は目標未達を原油価格の下落のせいにしたいようだ。それも一因ではあるが、それより、2-2-2計画の裏側にある理論の全体に本質的な欠陥がある。
黒田氏は「自己実現する予言」という魔法を信じている。人々と企業がインフレ率が2%に到達すると本当に思うように仕向ければ、人や会社はそれが実現するかのように行動する、という。つまり、人々は物価が上昇する前にもっとカネを使うようになる一方、企業は人を増やして賃金をより多く払うようになる。
言い換えると、インフレ率が2%になるかのように行動することで、本当に2%になるというのである。
このロジックは事実に反している。英国内閣事務局が20年間蓄積してきたデータは、人々はインフレを予想すると消費を控えることを示している。
なぜなら、人々は、賃金は物価ほど上昇せず、実質的な収入が下がることを正しく予測するからである。だが、黒田氏は、理論の世界に住んでいるようだ。
●いくらガソリンを入れても、車は動かない
黒田理論に基づいて、安倍晋三首相は1年前に、インフレと消費増税を補うに十分な「驚きの賃金上昇」が2014年に起こると「確信している」と書いている。安倍政権で実質賃金は5%も下がっている。
もし安倍首相がほかの2本の矢も本当に実施していたら、黒田氏の大規模な金融緩和はもっと成功していたであろう。だが、よく知られる安倍首相の「3本の矢」のいずれも、ほかの2本がなければ成功しないのである。
残念なことに安倍首相が財政刺激策をやめて財政緊縮策を採用したため、3本目の矢は単なる聞こえのよい目標にすぎなくなってしまった。黒田氏を自動車整備工に例えるなら、「車はガソリンが必要だから、15ガロンのタンクがついた車に30ガロンのガソリンを入れればうまくいく」と言っているようなものである。
エンジンがおかしいとお客が指摘すると、黒田氏はさらに30ガロン追加しようと勧めてくる。それでも車が動かないと、ため息交じりにこう言うのである。「“アクセル期待感”を持って車が動くと信じれば、車は動くのですがね」と。
(貼り付け終わり)