香港の学生など若者による抗議運動は、混乱が長引き商売に支障を感じている、市民らとの小競り合いも発生し、香港の梁振英・行政長官の退任要求や学生らとの対話など、混乱終結に向けて色々な動きが報道されている。
なんと言っても中国政府の対応が一歩間違えれば、かっての天安門事件のような深刻な問題まで発展するのではないかと、世界中が身構えたが、筆者の見たところでは、恐らく終息の方向に向かうように見える。
このデモ行為も、一日中行っているのではなく、授業や仕事が終わった後に、夜間に集まっているようであり、一部の報道によると、香港市内の情勢からすれば、全体としては静かに見えるともいう。
そして中国政府の習近平国家主席は、香港政府の問題だと、今のところは沈黙を守っている。
下に貼り付けたコラムを書いたラッセル・リー・モーゼス氏は、この抗議行動が、習主席が行おうとしている、共産党政権の改革の必要事項を、推進する役目を後押ししてくれるかもしれないという見方をしている。
そういう意味で、習主席に追い風になっていると見ているようだ。
共産党政権の陥っていた問題点は大きくは三つあって、一つ目は「党当局者が大衆を無視する一方で、実業界の人々との(しばしば非合法的な)関係の構築に忙殺されてきたこと」
二つ目は「党当局者が経済成長を追求し、他のあらゆるものを排除したことだ。つまり、国内総生産(GDP)の膨張は、政治的な不満を防止する保証ではないことを認識しなかった」
三つ目は「党が市民と効率的な意思疎通を怠ってきたことで、その結果、党批判の余地を与えていること」
13億の多民族の市民を抱える中国の、真の改革は困難を伴うであろうが、習主席が今後の政権運営で、これらの改革を念頭に行えば、少しは良い方向に動き出す可能性もあるかと思える。
(ウオール・ストリート・ジャーナル日本版より貼り付け)
China Real Time Report
香港の抗議行動、中国の習主席への追い風にも
2014 年 10 月 6 日 11:04 JST
香港の民主化運動が10日目に入る中で、スポットライトがかつてなく北京政府を照らしている。
中国共産党に統制されている一握りのメディアの論説記事が抗議運動は「非合法だ」と息巻いているのを除き、中国の最高指導者たちは沈黙を守っている。何の表明もない中で、抗議運動は習近平国家主席に難問を突きつけるとみる向きが少なくない。それは確かにそうだ。
だが、旧英国植民地の香港での出来事はまた、習氏にとって、ある重要な意味で「恩恵」でもある。
もちろん、同氏はデモ参加者の「民主化」要求を喜ぶことはできない。民主化は、香港のミニ憲法にうたわれている約束を北京政府が尊重することだ。それは、抗議参加者の観点から言えば、香港の政府トップ(行政長官)の選挙で市民の選択を完全に反映することだ。だが、同氏は中国のモデルとして「西側的民主主義」を一貫して排除してきたし、抗議参加者たちが望むものはこの西側の基準に危険なほどに近い。
抗議運動への妥協は、彼らを大胆にして一段と強い要求をしてくる可能性がある。それは、中国国内での習氏の非妥協的な評判を阻害しかねない。一方、力によるデモの抑圧が成功すれば、北京政府が海外でひどくたたかれることになる。また、香港における次のデモ隊抗議行動がそれほど平和的でなくなる公算もある。
それでは、何が習氏にとって利点になるのか?
まず最初に、香港の現在の混乱は、同氏が中国共産党や一般の人々に対し、中国が「敵意ある外国勢力」に直面していると主張できる根拠になる。外国政府が実際に支援を供与しているかはともかく、北京政府は、抗議デモは中国の内政に干渉しようとする外部の勢力に奨励されていると主張している。
中国内部では、抗議運動に関する情報は厳しく管理されており、こうしたメッセージは多くの人々の間に浸透している。それは習氏がトップ就任以来培ってきた強迫観念を一層強め、中国の台頭を封じ込めようとする主要大国に断固として対応する意思の強い指導者という習氏のイメージを補強している。
同氏は改革努力の大半を共産党の機能向上に注いできた。そして、本格的な改革を実施しないと北京は社会的な火事を未然に防ぐことができず、火事を消すことに追われてしまうと警告していた。
習氏によれば、中国共産党の大きな問題の一つは、党当局者が大衆を無視する一方で、実業界の人々との(しばしば非合法的な)関係の構築に忙殺されてきたことだ。2番目の問題は、党当局者が経済成長を追求し、他のあらゆるものを排除したことだ。つまり、国内総生産(GDP)の膨張は政治的な不満を防止する保証ではないことを認識しなかったというのだ。第3の問題は、党が市民と効率的な意思疎通を怠ってきたことで、その結果、党批判の余地を与えていることだ。
これら3つの問題は全て、香港でもまん延しており、不満を募らせ、今の街頭運動に結びついている。
香港の梁振英・行政長官は、香港の所得格差の拡大に関心がないようにみえることに多くの人がいら立っている。また、香港の事情にもうといとみられている。
香港政府は大企業のことしか頭になく、中国本土への愛国心をはぐくもうとした施策は成功していない。例えば、2012年には「道徳的で国家主義的な」教育キャンペーンを展開したが、大失敗に終わった。
香港のデモ参加者は、習氏自身が批判していた政府の欠陥の多くを浮き彫りにした。北京政府が現在、このような感情の噴出に直面していることは、共産党改革へ向けた同氏の主張をそれだけ強化することになる。
共産党メディアの論説記事は、北京政府の現在のコンセンサスとみられるものを提示している。それは、法を支持し、香港における社会秩序を確保することが決定的に重要であり、香港の行政長官の候補者選抜に関する8月の北京政府の決定を再検討する余地はない、ということだ。
こうした強硬姿勢は、デモ参加者たちをひるませることはなかったが、習氏が緊張を緩和し自らの改革プログラムの勝利を宣言する方法はある。梁長官に責めを負わせるのだ。確かに梁長官の辞任は抗議参加者たちの要求項目の一つで、習氏は抗議参加者たちの要求を満たしたとみられるのを嫌うだろう。だが梁長官の辞任を抗議参加者への譲歩としてではなく、大衆を理解できなかった当局者の問題として処理するやり方がある。
習氏がこのような措置を進んで講じるかどうかは分からない。しかし同氏が推進する改革が障害に直面しているこの時期、同氏は香港におけるデモ隊に怒りをぶちまけるべきではない。むしろデモ隊のおかげで、自らの改革への主張を補強できるのだから。
(筆者のラッセル・リー・モーゼス氏は北京中国研究センター=Beijing Center for China Studies=の主任教授。現在、中国の政治システムにおける権力の役割の変遷に関する本を執筆している)
(貼り付け終わり)
なんと言っても中国政府の対応が一歩間違えれば、かっての天安門事件のような深刻な問題まで発展するのではないかと、世界中が身構えたが、筆者の見たところでは、恐らく終息の方向に向かうように見える。
このデモ行為も、一日中行っているのではなく、授業や仕事が終わった後に、夜間に集まっているようであり、一部の報道によると、香港市内の情勢からすれば、全体としては静かに見えるともいう。
そして中国政府の習近平国家主席は、香港政府の問題だと、今のところは沈黙を守っている。
下に貼り付けたコラムを書いたラッセル・リー・モーゼス氏は、この抗議行動が、習主席が行おうとしている、共産党政権の改革の必要事項を、推進する役目を後押ししてくれるかもしれないという見方をしている。
そういう意味で、習主席に追い風になっていると見ているようだ。
共産党政権の陥っていた問題点は大きくは三つあって、一つ目は「党当局者が大衆を無視する一方で、実業界の人々との(しばしば非合法的な)関係の構築に忙殺されてきたこと」
二つ目は「党当局者が経済成長を追求し、他のあらゆるものを排除したことだ。つまり、国内総生産(GDP)の膨張は、政治的な不満を防止する保証ではないことを認識しなかった」
三つ目は「党が市民と効率的な意思疎通を怠ってきたことで、その結果、党批判の余地を与えていること」
13億の多民族の市民を抱える中国の、真の改革は困難を伴うであろうが、習主席が今後の政権運営で、これらの改革を念頭に行えば、少しは良い方向に動き出す可能性もあるかと思える。
(ウオール・ストリート・ジャーナル日本版より貼り付け)
China Real Time Report
香港の抗議行動、中国の習主席への追い風にも
2014 年 10 月 6 日 11:04 JST
香港の民主化運動が10日目に入る中で、スポットライトがかつてなく北京政府を照らしている。
中国共産党に統制されている一握りのメディアの論説記事が抗議運動は「非合法だ」と息巻いているのを除き、中国の最高指導者たちは沈黙を守っている。何の表明もない中で、抗議運動は習近平国家主席に難問を突きつけるとみる向きが少なくない。それは確かにそうだ。
だが、旧英国植民地の香港での出来事はまた、習氏にとって、ある重要な意味で「恩恵」でもある。
もちろん、同氏はデモ参加者の「民主化」要求を喜ぶことはできない。民主化は、香港のミニ憲法にうたわれている約束を北京政府が尊重することだ。それは、抗議参加者の観点から言えば、香港の政府トップ(行政長官)の選挙で市民の選択を完全に反映することだ。だが、同氏は中国のモデルとして「西側的民主主義」を一貫して排除してきたし、抗議参加者たちが望むものはこの西側の基準に危険なほどに近い。
抗議運動への妥協は、彼らを大胆にして一段と強い要求をしてくる可能性がある。それは、中国国内での習氏の非妥協的な評判を阻害しかねない。一方、力によるデモの抑圧が成功すれば、北京政府が海外でひどくたたかれることになる。また、香港における次のデモ隊抗議行動がそれほど平和的でなくなる公算もある。
それでは、何が習氏にとって利点になるのか?
まず最初に、香港の現在の混乱は、同氏が中国共産党や一般の人々に対し、中国が「敵意ある外国勢力」に直面していると主張できる根拠になる。外国政府が実際に支援を供与しているかはともかく、北京政府は、抗議デモは中国の内政に干渉しようとする外部の勢力に奨励されていると主張している。
中国内部では、抗議運動に関する情報は厳しく管理されており、こうしたメッセージは多くの人々の間に浸透している。それは習氏がトップ就任以来培ってきた強迫観念を一層強め、中国の台頭を封じ込めようとする主要大国に断固として対応する意思の強い指導者という習氏のイメージを補強している。
同氏は改革努力の大半を共産党の機能向上に注いできた。そして、本格的な改革を実施しないと北京は社会的な火事を未然に防ぐことができず、火事を消すことに追われてしまうと警告していた。
習氏によれば、中国共産党の大きな問題の一つは、党当局者が大衆を無視する一方で、実業界の人々との(しばしば非合法的な)関係の構築に忙殺されてきたことだ。2番目の問題は、党当局者が経済成長を追求し、他のあらゆるものを排除したことだ。つまり、国内総生産(GDP)の膨張は政治的な不満を防止する保証ではないことを認識しなかったというのだ。第3の問題は、党が市民と効率的な意思疎通を怠ってきたことで、その結果、党批判の余地を与えていることだ。
これら3つの問題は全て、香港でもまん延しており、不満を募らせ、今の街頭運動に結びついている。
香港の梁振英・行政長官は、香港の所得格差の拡大に関心がないようにみえることに多くの人がいら立っている。また、香港の事情にもうといとみられている。
香港政府は大企業のことしか頭になく、中国本土への愛国心をはぐくもうとした施策は成功していない。例えば、2012年には「道徳的で国家主義的な」教育キャンペーンを展開したが、大失敗に終わった。
香港のデモ参加者は、習氏自身が批判していた政府の欠陥の多くを浮き彫りにした。北京政府が現在、このような感情の噴出に直面していることは、共産党改革へ向けた同氏の主張をそれだけ強化することになる。
共産党メディアの論説記事は、北京政府の現在のコンセンサスとみられるものを提示している。それは、法を支持し、香港における社会秩序を確保することが決定的に重要であり、香港の行政長官の候補者選抜に関する8月の北京政府の決定を再検討する余地はない、ということだ。
こうした強硬姿勢は、デモ参加者たちをひるませることはなかったが、習氏が緊張を緩和し自らの改革プログラムの勝利を宣言する方法はある。梁長官に責めを負わせるのだ。確かに梁長官の辞任は抗議参加者たちの要求項目の一つで、習氏は抗議参加者たちの要求を満たしたとみられるのを嫌うだろう。だが梁長官の辞任を抗議参加者への譲歩としてではなく、大衆を理解できなかった当局者の問題として処理するやり方がある。
習氏がこのような措置を進んで講じるかどうかは分からない。しかし同氏が推進する改革が障害に直面しているこの時期、同氏は香港におけるデモ隊に怒りをぶちまけるべきではない。むしろデモ隊のおかげで、自らの改革への主張を補強できるのだから。
(筆者のラッセル・リー・モーゼス氏は北京中国研究センター=Beijing Center for China Studies=の主任教授。現在、中国の政治システムにおける権力の役割の変遷に関する本を執筆している)
(貼り付け終わり)