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共産教育論(連載第31回)

2019-01-21 | 〆共産教育論

Ⅵ 生涯教育制度

(1)生涯教育の意義
 共産教育は学歴を基準とした知識階級制の発生源となる義務教育―高等教育という等級的教育制度を一切擁しないので、標準で13か年の義務的な基礎教育課程を修了すれば―前にも述べたとおり、13年は厳格な修了年限ではない―、ひとたび全員が就職するというコースをたどる。
 しかし、賃労働制が廃される共産主義社会は、生活資金の元となる賃金の上昇に照応したライフコースに縛られることなく、自由な人生設計が可能となる社会であることから、そうした自由な人生設計を支える教育は、基礎教育課程修了後も生涯にわたって提供される必要性が高い。
 このように基礎教育課程に後続する教育課程を生涯教育と呼び、それに相応する制度が構築される。こうした生涯教育は、資本主義主義社会においてもしばしば聞かれる「生涯学習」とは似て非なるものである。
 「生涯学習」という語は多義的であるが、資本主義社会にあっては、大学を含む正規の学校教育を終えた成人が教養を向上させる目的で任意に学習を続けることを指すことが多い。そのため通常は生涯学習のための公式な制度は存在せず、大学が社会貢献活動として開設した市民講座や営利的な「カルチャーセンター」のような場で提供されるにすぎない。
 従って、それは自己負担による私教育の一環であって、公教育として提供されるものではない。当然、貨幣経済を前提とする資本主義社会では有償であるから、「生涯学習」が可能なのは、収入・資産にゆとりがあり、かつ時間もある中産・有閑階級以上の階層―特に退職した中高年層―に限られる。
 それに対し、ここでの生涯教育とは、基礎教育課程を修了した人が職業能力をさらに高めたり、昇進や転職したりするのに必要な知識技能を身につけることを主目的とした継続教育を指している。それは漠然とした付加的教養教育ではなく、より実践的な内容を持った実学的教育である。
 従って、生涯教育の受益者層は現職の中核的な勤労者層と重なり、年齢的にも壮年層が中心となるだろう。当然、対象者も多数に上るので、基本的には公教育として提供される必要がある。
 もっとも、生涯教育に求める目的は人により様々であり得るので、生涯教育は実学的な内容を中核としながらも、教養の向上や、何らかの事情から基礎教育課程を中断した人向けの補習教育といった目的にも対応するものとなる。その意味で、生涯教育はかなり広範な領野を有する複合的な教育課程となる。


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