ザ・コミュニスト

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アメリカ人種暴動の深層構造

2020-06-01 | 時評

アメリカが目下、COVID-19パンデミックの世界最大中心地となる中、ミシガン州ミネアポリスで非武装のアフリカ系市民(黒人)が職務執行中の白人警官に窒息死させられた事件をきっかけに、全米規模のデモが暴動に展開したことは、改めてアメリカという国の不幸な成り立ちに思いを巡らす機会となった。

アメリカは、元来、先住民を排除し、黒人奴隷制を利用する白人によって建国され、開拓された国である。200年の時を経ても、多数派を占める白人にとって、先住民や黒人は同胞国民ではなく、不穏な異人か、せいぜい憐みをもって接するべき他者にすぎない。

実際、全人口の10パーセント内外の黒人や、同1パーセント未満で多くは居留地に閉じ込められている先住民を伴侶や親友に持つ白人はほとんどいないという状況では、白人が黒人や先住民を同胞と認知することは困難である。

その点、日本ではアメリカの正式国名United States of Americaをどういうわけか、「アメリカ合国」とする訳が定着しているが、直訳はむしろ「アメリカ合国」である。アメリカはの連合体ではあっても、汎人種的なの連合体ではないのだ。

もっとも、自由平等を理念とする独立革命で成立したアメリカは、19世紀に奴隷制廃止、20世紀に新連邦公民権法の制定という画期点を迎え、少なくとも、制度的な人種差別を克服する歴史的な努力は重ねてきたが、白人の意識に巣食う非制度的な人種差別までは一掃できていない。このような言わば心の差別が、ほとんど故意に黒人を死に至らしめるような白人警官の人種差別的な法執行を横行させている。

こうした非制度的人種差別慣習を法的に除去することは簡単でない。当面の対策として、連邦公民権法に再び改正を加えて、人種差別的法執行を明確に連邦犯罪とし、全件を連邦裁判所で審理することや、州裁判所の陪審評決に人種差別の疑いがあれば、連邦裁判所への破棄申し立てと再審理を認めるなど、司法分野での公民権確立を進めることは有益かもしれない。

しかし、まさしく州の連合体として、各州が自治的に享有する州の司法権を制約するこのような連邦法の大改正には大きな反発が予想されるし、まして白人優越主義者を支持基盤に持つトランプ政権と共和党が推進することはないだろう。

より根本的には、人種差別と骨絡みである「アメリカ合州国」=United States of Americaを汎人種的な「アメリカ合衆国」=United Peoples of Americaへと作り直すことである。そのためには、現存のアメリカはいったん解体する必要がある。目下、全米規模で広がる抗議活動は―単なるデモや暴動に終始しなければ―そうしたアメリカ解体の第一歩となるかもしれない。

とはいえ、United Peoples of Americaというものは、もはや国家ではなく、国家なる狭い枠組みを乗り超えた、まさに民衆の連合体ではないだろうか。その点、主権国家を止揚した領域圏という筆者が年来提唱する概念に近いものとなるのかもしれないが、この件については保留としておきたい。


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