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共産論(連載第60回)

2019-07-17 | 〆共産論[増訂版]

第10章 世界共同体へ

(3)国際連合を脱構築する

◇国際連合という人類史的経験
 先に世界共同体には国際連合(国連)と類似する点もあると述べたが、実際、世界共同体は国連を共産主義的に解体再構築したモデルだと言うことができ、国連を単純に否定するものではない。
 しかし、国連は第二次世界大戦における勝者たる連合国主導で結成された連合国中心の国際秩序という本質を免れることは永遠にできない。そのうえ、国連五大国内部で冷戦期‐ポスト冷戦期を通じて東西の分裂があり、その機能は阻害されている。
 そうした欠陥にもかかわらず、国連というシステムは人類史上稀有な経験であるという事実はもっと評価されて然るべきである。ほぼ全地球上をカバーする国連のような連合体が半世紀以上にわたって存続し得たことは、人類史上例を見ないからである。国連は世界を二分した東西冷戦の真っ只中でも完全に崩壊することなく、風雪に耐えたのである。
 世界共同体は、このような国連という貴重な人類史的経験の上に成り立つものである。しかし、国連はその本質的な限界ゆえ、いずれ行き詰まることは必然的である。その解体的再編によって、世界共同体が現れるのである。以下では、現存国連と対比させる形で、世界共同体の仕組みを見ていきたい。

◇人類共同体化
 第一に、単なる国家連合体でなく、人類共同体としての結合を強化すること。
 そうした結合の名辞的担保としてエスペラント語を暫定的な公用語とし、エスペラント語でMonda Komunumoを世界共同体の正式名称とする。(※)
 さらに、従来事実上の世界共通歴となってきた西暦(グレゴリオ暦)に代わり、世界共同体憲章発効年度を第一年とする新たな暦法(世界共同体暦)により運営する。ただし、西暦を含め、独自の暦法を各国構成主体が採用することは自由である。

※monda(世界の)+komunumo(共同体)が語源である。なお、暫定的な英語名称はWorld Commonwealthとする。

◇五汎域圏
 第二に、五大国(米英仏露中)中心の運営を廃すること。
 五大国支配に代えて、世界共同体は「五汎域圏代表者会議」を常設執行機関とする。ここに、五汎域圏とは地球上の次の五つの連関地域を指す。(※)

○汎アフリカ‐南大西洋域圏
:アフリカ大陸と周辺大西洋島嶼の領域圏を包摂
○汎ヨーロッパ‐シベリア域圏
:欧州全域と極東シベリアを除く現ロシア連邦に属する領域圏を包摂
○汎西方アジア‐インド洋域圏
:西アジア・中央アジア・南アジアの領域圏を包摂
○汎東方アジア‐オセアニア域圏
:東南アジア・東アジア・オセアニアの領域圏を包摂
○汎アメリカ‐カリブ域圏
:カナダを含む北米・中南米・カリブ海の領域圏を包摂

 以上の五つの汎域圏にも各々汎域圏民衆会議が設置され、汎域圏内部のリージョナルな政治経済政策の決定と域内協力の場となる。
 汎域圏民衆会議の代議員は汎域圏に包摂される領域圏内の地方圏(例えば日本領域圏内の近畿地方圏とか東北地方圏など)―または準領域圏(現行連邦国家における州に相当)の民衆会議がその代議員中から各1人ずつ選出するものとする。
 このように汎域圏民衆会議の代議員を領域圏ごとでなく地方圏または準領域圏ごとに選出するのは煩雑にも思えるが、五つの汎域圏が包摂領域圏のリージョナルな同盟体と化して相互に競争的な政治経済ブロックとならないようにすると同時に、汎域圏内の協力関係をより地方的なレベルで密にするための工夫である。
 この汎域圏民衆会議は領域圏内の民衆会議とは異なり会期制を採るから、会期ごとに「会期議長」を選出するが、それとは別に、各汎域圏を対外的に代表する「常任全権代表」を選出する。
 これはいわゆる元首ではなく、専ら対外的な関係においてのみ各汎域圏の代表者であるにすぎないが、特定の問題ごとに任命される特命全権大使とも異なり、4年程度の任期をもって選出される常任職である。
 この五人の汎域圏常任全権代表で構成するのが先の「五汎域圏代表者会議」であり、グローバルな重要政策はすべて同会議で協議される。これにより、現在の主要国首脳サミットのように、国連の頭越しに少数の主要国首脳だけで意思決定するような国際寡頭制システムは廃されるのである。

※『世界共同体通覧―未来世界地図―』は、このような見通しに沿った未来の世界地図を描出する試みである。

◇南半球重視の運営  
 第三に、北半球中心の運営を改めること。  
 現存国連は本部及び軍事に関わる安全保障理事会(安保理)をはじめとする中核的主要機関がニューヨークに、人権に関わる人権理事会がジュネーブにと、その中枢機能がすべて北半球、それも米欧に集中している。これに対して、世界共同体は歴史的に北半球に従属しがちであった南半球重視の運営に変わる。  
 具体的には、世界共同体の本部及び平和工作に関わる平和理事会をはじめとする中枢機能は環アフリカ‐南大西洋域圏内のいずれかの都市に置く。アフリカに置くのはアフリカはかねて「南北問題」の象徴とも言える地域であることに加え、紛争多発地域でもある一方で、大陸全域に核兵器が存在しないという事実が世界共同体の中心地にふさわしいと考えられるからである。  
 一方、人権に関わる機能は環アメリカ‐カリブ圏内、とりわけ南米のいずれかの都市に置く。南米に置くのは、しばしばアジア・アフリカ地域で人権侵害を正当化する口実とされてきた「人権=西欧中心的価値基準」という偏見を回避するためにも、西欧的でありながら非西欧的でもある南米の微妙さに加え、この地域でかつて横行した暴虐な軍事独裁体制を自主的に克服してきた歴史的経験が人権の拠点としてふさわしいと考えられるからである。

◇世界公用語の論議
 第四に、事実上英語に偏向した国際言語状況を変え、単一の中立的な世界公用語の採用に関する論議を開始すること。
 現在の国連は五大国の公用語である英語・仏語・露語・中国語に、話者の多いスペイン語・アラビア語を加えた六言語を公用語に指定する公用語複数主義を採用しているが、事実上は英語が基軸的な公用語としての地位を与えられていることは明らかである。
 これに対し、世界共同体は普及率の高い英語の慣用的な使用を排除するものではないが、先に述べた人類共同体の名辞的担保として、より中立的な単一の公用語で全世界の民族が対等にコミュニケートする可能性を拓くために、かねてより世界語として開発されてきた計画言語の中でも最も普及率の高いエスペラント語を暫定的な単一の世界公用語に指定する(※)

※ここで暫定的なものにとどめるというのは、ヨーロッパで開発されたエスペラント語が果たして政治的のみならず言語学的にも中立と言い切れるかどうかに論議の余地が残るからである。そこでエスペラント語をそのまま世界公用語として確定させるか、新たに言語学的にもより中立な計画言語を開発するかについて世界共同体は議論を開始する。これは容易に結論を得られない難問であるかもしれないが、英語偏重主義が固着した現存国連体制の下では、そうした世界公用語に関する議論自体が論外のタブーもしくは空想として退けられているのである。なお、筆者自身、新たな計画言語の一例として、エスペランテートを提案している(別連載『共通世界語エスペランテート』を参照)。


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