ザ・コミュニスト

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日和見主義の悲喜劇

2022-10-20 | 時評

某国では史上最長期政権記録の持主への国葬が執行されたが、英国では史上最短期政権の記録が達成される見通しである。先月就任したばかりのリズ・トラス首相が在任2か月足らずで辞任することになったためである。

その要因は、当初公約に掲げていた大型減税・ミニ予算について、市場や世論からの反発を受けてほぼ全面撤回したことで与党・保守党内に大混乱を引き起こし、党内から辞任要求を突き付けられたことであった。要するに、公約を短期間で180度転換したことで身内からも不信任を招いたのであった。

変わり身の早さは職業政治家に共通の特性だが、近年の政治家は定見を欠くがゆえに、その時々の状況によって態度を転々と変える日和見主義者が世界的に増大しているように見える。

このような日和見主義は冷戦終結後、「イデオロギーの終焉」教義に伴い、イデオロギー闘争より日々の市場や世論調査の数字に踊らされたあからさまな権力闘争が政界の日常となって以降、諸国の政界の潮流となっている。

英国史上三人目の女性首相となったトラス氏も、中道リベラルの自由民主党から保守党に転向した上、保守党内でも欧州連合(EU)残留派から脱退派に転向、脱退派のジョンソン前政権で重要閣僚に抜擢され、二人の先人女性より若い40代にして首相の座を射止めたのであるから、日和見主義の大勝者と言える。

ところが、今回は勝因のはずだった日和見主義が命取りとなった。日和を見るにしても、あまりに度を越せば、味方の信すら失うということであろう。

トラス氏は初の英国女性首相マーガレット・サッチャーを崇敬し、強く意識しているとされるが、冷戦期のサッチャー氏の時代の保守党は「反共保守」を掲げていればブレずに済んだ。しかし、冷戦終結後の保守党はその軸が揺らいだうえ、EU脱退をめぐり党内が分裂し、党自体が日和見主義的に揺れている。

ロックダウン違反の不祥事をめぐって党内から突き上げを受け、先月辞任に追い込まれたばかりのジョンソン前首相の返り咲きさえ取り沙汰されているのも、そうした日和見保守党の実態を示している。―追記:ジョンソン氏は党首選挙への立候補見送りを発表した。

昨今、選挙された政治代表者に一任するという選挙政治自体が劣化し、消費期限切れを迎えている中、選挙政治の最古老舗である英国の政治が今後どう壊れていくのか、注目に値する。


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