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比較:影の警察国家(連載第45回)

2021-08-15 | 〆比較:影の警察国家

Ⅲ フランス―中央集権型警察国家

1‐3:国内保安本部

 フランスの政治警察に相当する機関としては、前身機関が1907年の創設に遡る一般情報中央指令部と1940年代の対独レジスタンス時代に設立された国土監視指令部の二系統の国家警察部局が戦後も併存する形で存続していたが、効率性の観点から、2008年の制度改革によって、国内情報中央指令部として統合された。
 しかし、この統合機関は2012年にミディ‐ピレネー地域圏で発生したイスラーム過激主義者による連続銃撃殺傷事件における事前の情報監視の不手際を批判され、オランド社会党政権による2014年のさらなる制度改革により、国家警察から分離された内務省直属の公安機関として、新たに国内保安本部(Direction generale de la Securite interieure:DGSI)が創設された。
 その基本的な任務は前身機関のそれを継承して防諜や対テロ対策を中心とするが、近年はサイバー犯罪対策にも任務が拡大されている。国家警察から分離されたことにより、イギリスのMI5のような諜報機関としての性格が強まり、フランス政府が潜在的な治安上の脅威とみなす広範な集団や個人への秘密裏の監視活動が強化されていると見られ、影の警察国家化を象徴する機関となっている。

1‐4:国外保安本部

 DGSIと対を成す機関として、国外治安本部Direction generale de la securite exterieure:DGSE)がある。こちらは軍務省に属する国防機関の一つという位置づけであるが、文民要員の比率が高く、実質上は軍民混合機関である。
 DGSEの任務は安全保障上の脅威に関する分析や海外での諜報作戦であるが、外国での対仏破壊活動の抑止の観点から、対テロ対策にも及び、機能的な意味での政治警察機関としての役割を併せ持つと言える
 これも、その前身機関は1940年代の対独レジスタンス時代に設立されており、レジスタンス運動の統一的な諜報組織として活動した。その後、改称を経て、1982年に当時のミッテラン社会党政権によって現名称に再改称され、定着した。
 如上DGSIと合わせ、いずれも社会党政権下で整備された姉妹機関であり、これにより、イギリスにおけるMI5とMI6のような対内及び対外のツイン諜報機関に整理されたことになる。フランス政治では自由に重きを置く中道左派と目される社会党が影の警察国家化ではしばしば重要な役割を果たしていることは興味深い。
 例えば、ミッテラン社会党政権時代の1985年、フランスによるムルロア環礁核実験に抗議するためニュージーランドのオークランドに寄港した環境保護団体グリーンピースの帆船レインボー・ウォリア号爆破事件(一名死亡)では、ニュージーランド当局によってDGSEの工作員二名が拘束され、有罪判決を受けている。
 本件で、DGSEは核実験に反対するグリーンピースを対仏破壊活動団体とみなし、その活動を阻止する目的で、通常の監視を越えた爆破工作という攻撃的なテロ手法に出たものと見られ、DGSEの組織ぐるみでの破壊工作が疑われた。
 しかし、フランス政府は当時の首相が破壊工作への政府関与をやむを得ず認めた後も、ニュージーランド政府に圧力をかけて有罪判決を受けた工作員の帰国を強行し、外交摩擦に発展するなど、ミッテラン政権下での汚点の一つとなった。


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