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比較:影の警察国家(連載第13回)

2020-09-18 | 〆比較:影の警察国家

Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家

1‐4‐1:機能的政治警察機関の増強①

 建国以来「自由」を国是としてきたアメリカ合衆国には、ナチスドイツのゲシュタポ(秘密国家警察)やソ連のKGB(国家保安委員会)のように、政治的抑圧を主目的とする政治警察に正面から分類できる連邦機関は存在していない。
 しかし、機能的に政治警察として稼働する連邦機関群は見られ、これら機関は9.11事件以来、テロ対策が政権をまたいだ新たな国是となるにつれ、権限を増強し、影の警察国家の形成に大きく寄与していることも事実である。
 そうした機能的政治警察機関のグループに含まれる連邦機関も、連邦警察集合体の各系統ごとに、司法省系と国土保安省系、国防総省系、その他系に分岐している。
 司法省系のものとしては、連邦捜査総局(FBI)の部門である国家保安部(National Security Branch:NSB)が中核機関である。この部門が現行態勢で発足したのは、まさに9.11事件を受けた2005年のことであるが、前身部門は、ロシア革命後、主として共産主義者摘発のために設置された過激派対策課に遡る。
 この部署は、その後、幾度も改廃と改称を繰り返した後、FBI生みの親であるエドガー・フーバー長官の「独裁」時代には、総合諜報課(General Intelligence Division)として、歴代大統領にさえも睨みを利かせたフーバー長官の個人的な懐刀ともなり、まさに政治警察として機能した。
 しかし、フーバーの死後、FBIによる不法な情報収集活動などの権力乱用が明るみに出て、組織は再編されたが、廃止とはならず、90年代には防諜担当の諜報課(Intelligence Division)と政治警察相当の国家保安課(National Security Division)に分割された末、防諜任務を取り込む形で後者を増強して現在態勢に再編されている。
 司法省系以外の機能的政治警察で比較的知られていないものとして、外交を担当する国務省に属する合衆国外交保安庁(United States Diplomatic Security Service:DSS)がある。これは国務省が管轄する連邦警察機関であり、直接には国務省外交保安総局(Bureau of Diplomatic Security )に属する。
 現行態勢で発足したのは1983年におけるベイルートでの米大使館及び海兵隊兵舎爆破事件を受けた1985年のことだが、その前身は第一次世界大戦時の1916年に設置された秘密諜報総局(Bureau of Secret Intelligence)に遡る。この機関は、第二次世界大戦を機に中央諜報庁(CIA)が創設されるまでは、アメリカにおける主要な対外防諜機関として機能した。
 しかし、その役割をCIAに譲ってからは、国務省所属の警察機関として特化され、外交官の身辺警護、在外公館の警備、在外米国人の保護、各国外交安全保障情報の収集と防諜、対テロ対策、旅券・査証発給を中心とする外務行政に関連する連邦犯罪の捜査等を総合的に所掌する、言わば「外交警察」として特化された。
 2500人以上の要員を擁し、外交官の警護や在外公館の警備といった警備警察の機能とともに、国外での情報収集・防諜、旅券・査証犯罪や国際テロの捜査権限を広範に併せ持つ点で、DSSは如上のNSB以上に強力な機能的政治警察機関とも言える。実際、DSSの特別捜査官は、外務職員としての身分と捜査官としての身分を併せ持つ特権的存在である。
 かくして、現行態勢下におけるDSSは、防諜分野で一部権限が重複しながらも、対内的な機能的政治警察(国内公安警察)たる如上のNSBに対して、対外的な機能的政治警察(外事警察)の役割を担う機能的政治警察の両輪を構成していると言える。


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