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共産論(連載第15回)

2019-03-07 | 〆共産論[増訂版]

第3章 共産主義社会の実際(二):労働
Chapter 3  Sketch of Communist Society (2):Labor

共産主義社会では働いて賃金を得る賃労働が廃止される。その結果、人々はもはや働かなくなるのであろうか。それとも全く新しい働き方が生まれるのであろうか。


(1)賃労働から解放される:People attain liberation from wage labor.

◇賃労働の廃止
 前章で、共産主義社会では商品生産が廃され、ひいては貨幣経済も廃されることを論じた。ここから必然的に、労働の報酬が貨幣=賃金として与えられる賃労働制も廃されることは見通しやすい筋であろう。共産主義社会に移行するとは、労働の視点から見れば賃労働制の廃止を意味するのである。
 このことが共産主義=強制無賃労働の収容所群島などといったよくある反共プロパガンダに根拠を与えないためにも、ここで資本主義的労働のあり方と対比しながら考えてみたい。

◇資本主義的搾取の構造
 現在、世界に拡散している資本主義的賃労働とはどんなものであろうか。これは多くの人が経験しているとおり、求職者が仮想上の労働市場を通じて雇用主(資本企業のほか、公共機関も含まれるが、以下では資本企業で代表させる)の求人に応じ、採用されれば雇用契約を結んで、雇用主の定めた労働時間内に指示された労働を提供し、その報酬として賃金を受け取るという仕組みである。
 ここで、賃金という労働者の生活の資―言わば労働者にとっての“資本”―となる最も大切なものが最も曲者なのである。法的には賃金は労働の報酬と解釈され、労働者自身もそう認識しているであろうが、実際に働いた時間分の報酬を満額支払われている労働者はまずいない。もし雇い主がそのような大盤振る舞いをしようものなら経営は回らなくなるからである。
 資本主義的経営の要諦は労働者の賃金を1円でも節約する一方、1分でも長く働かせること、すなわち低賃金・長時間労働の搾取である。ただ、労働運動の成果として、今日では、資本にとってはわずらわしい労働法制上の規制(例えば法定最低賃金や法定労働時間)が諸国にあるため、必ずしも文字通りに搾取を達成できるとは限らない。
 そこで、法定労働時間内で高い成果を要求する(高密度労働)、相対的に高賃金を保障しつつより高い成果を競わせて慣習的な超過時間労働を仕向ける(サービス残業)、逆に低賃金に見合った短時間・部分労働しかさせない(パート労働)等々、合法・非合法のグレーゾーンを含む様々な抜け道的な術策が“発明”されている。他方で、役員一歩手前の上級管理職級労働者になると、逆に実質的な労働時間分を超えたプレミアム付き高賃金が保障されることもある。
 とはいえ、総じて資本企業は労働者に実質的に賃金を支払っている労働時間分を超えたタダ働きをさせていることは間違いないのである。
 例えば、ある労働者が1日8時間・週5日働いて本来は時給換算で5千相当分の密度の高い仕事をしているとしても、実質上は半分の4時間労働分しか支払われていないということもあり得る。この場合、その人は本来ならば{(5千円×8時間)×5日}×4週=80万円の月給を得べきところ、現実にはその半分の40万円に値切られていることになる。
 支払われていない残りの40万円を雇用主は丸々節約したのであり、当該労働者は日々の8時間労働のうち4時間分はタダ働きさせられ、要するに「搾取」されたことになる。合法的な範囲内の給与水準に対する労働者の不満は、こうした搾取の構造に由来している。
 このようにして雇用主たる資本企業が節約的に搾取した分はかれらの商品販売による利益に反映され、利潤として蓄積・再生産に回されていくことになるが、このサイクルを総資本で繰り返しながら資本主義は自転している。(※)
 資本家の視点から見れば、かれらは節約的搾取によって得た利得が利潤として確保されるように自社商品を売り込まねばならないわけである。経済危機で販売不振に陥れば、賃金をいっそう節約するか、人員解雇するかしなければ生き残れない。なかなか厳しい世界である。
 ここで資本家を弁護するつもりはないが、搾取にいそしむ資本家たちは―強欲ではあっても―決して意地悪なのでも冷酷なのでもない。かれらとて資本主義的経済法則に従属させられている以上、その法則に反することはできないのである。マルクスは資本家も社会的機構の中では「一つの動輪でしかない」と看破したが、これは全く正しい。

※マルクスは、こうした搾取の構造をより積極的に剰余価値の生産過程として解析しているが、ここではマルクスの理論はさしあたり棚上げして論じている。


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