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中国憲法評解(連載第15回)

2015-04-16 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第五節 地方各級人民代表大会及び地方各級人民政府

第九五条

1 省、直轄市、県、市、市管轄区、郷及び鎮に、人民代表大会及び人民政府を置く。

2 地方各級人民代表大会及び地方各級人民政府の組織は、法律でこれを定める。

3 自治区、自治州及び自治県に、自治機関を置く。自治機関の組織及び活動は、この憲法第三章第五節及び第六節の定める基本原則に基づき、法律でこれを定める。

 本節は、地方制度に関する細目を規定している。中国の地方制度は完全な地方自治制ではなく、中央集権を前提とした相対的分権制である。さらに憲法には直接規定されないが、地方には各級ごとに共産党地方組織が置かれており、一党支配体制が地方的にも貫徹されている。ただ、中国の広大な領土と巨大人口を集権的に統治することには無理があり、今後は地方自治制への漸次移行が課題となるだろう。
 人民代表大会と人民政府という組み合わせは、中央の全人代と国務院の組み合わせの縮小形である。これもソヴィエト制に沿革を持つが、現在では諸国の地方議会・地方政庁に近いものになっている。なお、本条第三項にいう自治機関の詳細は次の第六節に定められている。

第九六条

1 地方各級人民代表大会は、地方の国家権力機関である。

2 県級以上の地方各級人民代表大会に、常務委員会を置く。

 本条から第一〇四条までは、地方人民代表大会(地人代)の選挙方法や任期、権限等に関する規定である。民主集中制に基づくその基本構制は全人代にほぼ準じているが、幹部会に相当する常務委員会は県級以上の地人代にのみ置かれる。

第九七条

1 省、直轄市及び区を設けている市の人民代表大会代表は、一級下の人民代表大会がこれを選挙する。県、区を設けていない市、市管轄区、郷、民族郷及び鎮の人民代表大会代表は、選挙民が直接に、これを選挙する。

2 地方各級人民代表大会代表の定数及びその選出方法は、法律でこれを定める。

 県級以下の地人代の代表(代議員)に関しては、選挙民による直接選挙が保障されているが、一党支配の下では出来レースである。

第九八条

地方各級の人民代表大会の毎期の任期は五年とする。

第九九条

1 地方各級人民代表大会は、その行政区域内において、この憲法、法律及び行政法規の遵守及び執行を保障し、法律の定める権限に基づいて、決議を採択・発布し、地方の経済建設、文化建設及び公共事業建設についての計画を審査し、決定する。

2 県級以上の地方各級人民代表大会は、その行政区域内における国民経済・社会発展計画及び予算並びにそれらの執行状況についての報告を審査承認し、同級の人民代表大会常務委員会の不適当な決定を改め、又はこれを取り消す権限を有する。

3 民族郷の人民代表大会は、法律の定める権限に基づいて、民族の特徴にかなった具体的措置をとることができる。

第一〇〇条

省及び直轄市の人民代表大会並びにその常務委員会は、この憲法、法律及び行政法規に抵触しないことを前提として、地方的法規を制定することができる。地方的法規は、これを全国人民代表大会常務委員会に報告して記録にとどめなければならない。

第一〇一条

1 地方各級人民代表大会は、それぞれ同級の人民政府の省長及び副省長、市長及び副市長、県長及び副県長、区長及び副区長、郷長及び副郷長並びに鎮長及び副鎮長を選挙し、かつ、これを罷免する権限を有する。

2 県級以上の地方各級人民代表大会は、同級の人民法院院長及び人民検察院検察長を選挙し、かつ、これを罷免する権限を有する。人民検察院検察長の選出又は罷免は、上級人民検察院検察長に報告して、その級の人民代表大会常務委員会の承認を求めなければならない。

第一〇二条

1 省、直轄市及び区を設けている市の人民代表大会代表は、選挙母体の監督を受ける。省、区を設けていない市、市管轄区、郷、民族郷及び鎮の人民代表大会代表は、選挙民の監督を受ける。

2 地方各級人民代表大会代表の選挙母体及び選挙民は、法律の定める手続きに従って、その選出した代表を罷免する権限を有する。

第一〇三条

1 県級以上の地方各級人民代表大会常務委員会は、主任、副主任若干名及び委員若干名をもって構成し、同級の人民代表大会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。

2 県級以上の地方各級人民代表大会は、同級人民代表大会常務委員会の構成員を選挙し、かつ、これを罷免する権限を有する。

3 県級以上の地方各級人民代表大会常務委員会の構成員は、国家の行政機関、裁判機関及び検察機関の職務に従事してはならない。

第一〇四条

県級以上の地方各級人民代表大会常務委員会は、その行政区域の各分野の活動の重要事項を討議決定し、同級の人民政府、人民法院及び人民検察院の活動を監督し、同級の人民政府の不適当な決定及び命令を取り消し、一級下の人民代表大会の不適当な決議を取り消し、法律の定める権限に基づいて国家機関の職員の任免を決定し、また、同級の人民代表大会閉会中の期間においては、一級上の人民代表大会の個々の代表を罷免し、及びこれを補充選挙する。

第一〇五条

1 地方各級人民政府は、地方の各級国家権力機関の執行機関であり、地方の各級国家行政機関である。

2 地方各級人民政府は、省庁、市長、県庁、区長、郷長及び鎮長の各責任制を実施する。

 本条から第一一〇条までは、地方人民政府に関する規定である。その任務は要するに各級地方行政ということに尽きるが、特に県級以上の人民政府には比較的広範な権限が与えられている(第一〇七条第一項、第一〇八条)。ただし、全地方人民政府は、究極的に中央人民政府である国務院に服従する(第一一〇条第二項第二文)。

第一〇六条

地方各級人民政府の毎期の任期は、同級の人民代表大会の毎期の任期と同一とする。

第一〇七条

1 県級以上の地方各級人民政府は、法律の定める権限に基づいて、その行政区域内における経済、教育、科学、文化、衛生、体育及び都市・農村建設の各事業並びに財政、民政、公安、民族事務、司法行政、監察、計画出産その他の行政活動を管理し、決定及び命令を発布し、行政職員の任免、研修、考課及び賞罰を行う。

2 郷、民族郷及び鎮の人民政府は、同級の人民代表大会の決議並びに上級の国家行政機関の決定及び命令を執行し、その行政区域内における行政活動を管理する。

3 省及び直轄市の人民政府は、郷、民族郷及び鎮の設置並びにその行政区画を決定する。

第一〇八条

県級以上の地方各級人民政府は、所属各部門及び下級人民政府の活動を指導し、所属各部門及び下級人民政府の不適当な決定を改め、又はこれを取り消す権限を有する。

第一〇九条

県級以上の地方各級人民政府に、会計検査機関を置く。地方の各級会計検査機関は、法律の定めるところにより、独立して会計検査監督権を行使し、同級の人民政府及び一級上の会計検査機関に対して責任を負う。

第一一〇条

1 地方各級人民政府は、同級の人民代表大会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。県級以上の地方各級人民政府は、同級の人民代表大会閉会中の機関においては、同級の人民代表大会常務委員会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。

2 地方各級人民政府は、一級上の国家行政機関に対して責任を負い、活動を報告する。全国の地方各級人民政府は、いずれも国務院の統一的指導の下にある国家行政機関であり、全て国務院に服従する。

第一一一条

1 都市及び農村で住民の居住区ごとに設置される住民委員会又は村民委員会は、基層の大衆的自治組織である。住民委員会及び村民委員会の主任、副主任及び委員は、住民がこれを選挙する。住民委員会及び村民委員会と基層政策との相互関係は法律でこれを定める。

2 住民委員会及び村民委員会は、人民調停、治安保衛、公衆衛生その他の各委員会を置いて、その居住区における公共事務及び公益事業を処理し、民間の紛争を調停し、社会治安の維持に協力し、人民政府に大衆の意見及び要求を反映し、並びに建議を提出する。

 住民委員会及び村民委員会は、最末端に位置する地区の大衆的自治組織と位置づけられている。この組織は一定の行政・経済機能まで備えており、かつての人民公社の名残を思わせる要素も見られる。この組織が真に自治的に機能すれば民主化に寄与するが、一党支配制の現状では末端の住民統制組織として機能している面が強いと見られる。


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