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中国憲法評解(連載第16回)

2015-04-17 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第六節 民族自治地域の自治機関

第一一二条

民族自治地域における自治機関は、自治区、自治州及び自治県の人民代表大会及び人民政府である

 本節は、少数民族の自治制度を規定している。これも前節が規定する地方制度の一種ではあるが、少数民族自治を保障する建前から、別途規定されている。その基本構制はやはり人民代表大会と人民政府の組み合わせにより、その職権も一般的な地人代・人民政府のそれに準じるが、いくつかの点で、民族自治地域に固有の自治権が認められている(第一一五条)。
 少数民族問題は、チベット、ウイグル問題に象徴されるように、中国統治のアキレス腱であり、安定のためには民族自治の強化が重要な課題となるだろう。

第一一三条

1 自治区、自治州及び自治県の人民代表大会においては、区域自治を実施する民族の代表のほか、その行政区域内に居住するその他の民族も、適当な数の代表を持つべきである。

2 自治区、自治州及び自治県の人民代表大会常務委員会においては、区域自治を実施する民族の公民が主任又は副主任を担当すべきである。

 自治機関の長に少数民族公民を充てることを求める本条第二項と次条は、人事面から民族自治を担保しようとするものだが、実際上は自治区域ごとに置かれた共産党の地方組織が優位にあり、その長には漢族が充てられることが多いため、民族自治の人事的保障は多くの場合、形骸化していると見られる。

第一一四条

自治区主席、自治州州長及び自治県県長は、区域自治を実施する民族の公民がこれを担当する。

第一一五条

自治区、自治州及び自治県の自治機関は、この憲法第三章第五節の定める地方国家機関の職権を行使するとともに、この憲法、民族区域自治法その他の法律の定める権限に基づいて自治権を行使し、その地域の実際の状況に即して国家の法律及び政策を貫徹する。

第一一六条

民族自治地域の人民代表大会は、その地域の民族の自治、経済及び文化の特徴にあわせて、自治条例及び単行条例を制定する権限を有する。自治区の自治条例及び単行条例は、全国人民代表大会常務委員会に報告して、その承認を得た後に効力を生ずる。自治州及び自治県の自治条例及び単行条例は、省又は自治区の人民代表大会常務委員会に報告して、その承認を得た後に効力を生じ、かつ、これを全国人民代表大会常務委員会に報告して記録にとどめる。

 一般の地方制度との相違として、本条では民族自治地域の憲法に相当する自治条例の制定権が認められている。

第一一七条

民族自治地域の自治機関は、地域財政を管理する自治権を有する。およそ国家の財政制度によって民族自治地域に属するものとされた財政収入は、すべて民族自治地域の自治機関が自主的に調整して、これを使用する。

 本条及び次条は、民族自治の具体化として、財政自治権と一定の経済自主権が特に規定している。

第一一八条

1 民族自治地域の自治機関は、国家計画を指針として、地域的な経済建設事業を自主的に調整し、管理する。

2 国家は、民族自治地域で資源の開発及び企業の建設を行う場合は、民族自治地域の利益に配慮を加える。

第一一九条

民族自治地域の自治機関は、それぞれの地域の教育、科学、文化、医療衛生及び体育の各事業を自主的に管理し、民族的文化遺産を保護し、及び整理し、並びに民族文化を発展させ、及び繁栄させる。

 本条は、教育・文化政策における自主権を規定している。少数民族固有の文化を保護する趣旨である。

第一二〇条

民族自治地域の自治機関は、国家の軍事制度及び現地の実際の必要に基づき、国務院の承認を得て、その地域の社会治安を維持する公安部隊を組織することができる。

 本条は言わば警察自主権の規定であるが、独自公安部隊の組織化には国務院の承認という縛りがある。

第一二一条

民族自治地域の自治機関が職務を執行する場合には、その民族自治地域の自治条例の定めるところにより、現地で通用する一種又は数種の言語・文字を使用する。

 本条は、少数民族言語を区域公用語として使用する言語自主権の規定である。これにより、民族言語の使用を封じる言語抹殺政策は禁じられることになる。

第一二二条

1 国家は、財政、物資、技術その他の各面から少数民族に援助を与えて、その経済建設及び文化建設の事業を速やかに発展させる。

2 国家は、民族自治地域に援助を与えて、現地民族の中から各級幹部、各種専門分野の人材及び技術労働者を大量に育成する。

 本条で明かされるように、民族自治も究極のところで国家の援助に依存しているため、自立的発展には限界が設定されている。裏読みすれば、本条は「援助」を通じた民族独立の阻止条項とも言えるだろう。


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