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比較:影の警察国家(連載第57回)

2022-03-27 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

[概観]

 日本の現行警察制度は戦後改革の結果、戦前の旧内務省に統合された純粋の集権型国家警察制度を改め、地方自治制度の導入に伴い、都道府県に警察を分散する広域自治体警察を基本としている。その点で、これまで見てきた中では、ドイツの制度に比較的近似する。
 しかし、ドイツのような連邦国家ではなく、あくまでも中央集権国家内での地方自治にすぎないため、実質上は国家公安員会に属する中央省庁としての警察庁が全都道府県警察の統括実務機関として機能する国と都道府県の折衷的な集権警察制度である。
 そのため、都道府県警察の警察官は基本的に地方公務員でありながら、東京都警察としての警視庁トップの警視総監はもちろん、各道府県警察本部長をはじめ、警視正以上の上級幹部警察官はいずれも国家公務員の地位を持つという形で、言わば頭は国、胴体は広域自治体というスフィンクスのような奇なる制度となっている。
 この警察庁を統括機関とする全国の都道府県警察は地域警察、刑事警察から公安警備警察まで全警察領域を網羅する自己完結的な総合警察であるが、海上については国土交通省に属する海上保安庁が海の警察として管轄する。
 さらに、海上保安庁を含め、特別司法警察職員という身分を与えられた要員を擁する国家機関(例外的に都道府県部署)が多数あり、それぞれが管轄する特定領域における特別警察機関として機能する。
 また政治警察に関しては、都道府県警察の公安警備部門のほかに、法務省に属する国内保安機関としての公安調査庁が機能的政治警察として存在するほか、防衛関連では自衛隊防諜組織である情報保全隊も防衛機密情報の保持という観点から政治警察機能を持つ。
 このように、日本の警察制度は警察庁が統括する都道府県警察を中核としながら、国の特別警察や機能的な政治警察がその周辺に補完的に散在する形で成り立つが、物量・権限の点で圧倒的な中心は総合警察としての都道府県警察である。
 その統括機関としての警察庁は、同庁上級職員で幹部警察官としての階級をも有する警察官僚が警視総監以下、都道府県警察の本部長職はもちろん、内閣官房を含む他省庁にも出向または転出し、政府中枢に人事面で浸透する形で影の警察国家を形成してきた点に特徴がある。


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