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近代革命の社会力学(連載第402回)

2022-03-28 | 〆近代革命の社会力学

五十七 ソヴィエト連邦解体革命

(1)概観
 前章でも触れたとおり、1989年に始まる中・東欧・モンゴルの連続脱社会主義革命はその渦中で「家元」に当たるソヴィエト連邦(以下、ソ連邦またはソ連と略す)の体制を動揺させる効果を持ち、実際、ソ連邦は1991年末に一挙解体されることとなる。
 この事象は通常「革命」とは呼ばれないが、おおむね1990年に始まるそのプロセスを見ると、リトアニア、ラトビア、エストニアのバルト三国の独立革命に始まり、ソ連共産党保守派のクーデターを阻止した民衆の抵抗を経て、急進改革派指導者によるソ連邦解体宣言に終わる革命的な展開が見られるので、その全過程を「連邦解体革命」と理解することができる。
 そのように見れば、この事象を1989年に始まる連続革命の一環と位置づけることも可能であるが、発生力学が大きく相違し、ソ連邦解体は市民の民主化運動に始まる民衆革命ではなく、連邦構成共和国の独立革命という性格が強いため、区別して扱う意義がある。
 また、その余波に関しても、1989年に始まる連続革命のそれを凌駕するものがある。それは、まさにソ連邦を産み出した1917年のロシア十月革命に始まり、第二次大戦後の世界を形成してきた国際秩序を大きく変革する結果―その意味では世界革命―を導き、その効果は30年を過ぎた現時点でもまだ継続していると言ってよいほどの大きさであった。
 それは社会経済システムから政治制度、社会思想にも甚大な影響を及ぼし、ソ連邦解体後の世界ではソ連体制が体現してきたとみなされていた共産主義やそれに類する思潮のすべてを退潮させ、資本主義市場経済と西欧流のブルジョワ民主主義を疑いない絶対公理とする風潮を作り出した。
 同時に、ソ連体制が共産党による一党支配とマルクス‐レーニン主義の教義によって凍結していた民族主義を解凍し、解き放つ効果も導き、中軸国ロシアを含め、最終的にソ連邦からすべて独立した旧構成共和国内及び共和国間でも深刻な民族紛争を惹起し、その多くが現時点でも未解決または進行中の状況にある。
 さらに、民衆革命ではなかったことを反映して、独立後の旧構成共和国では、バルト三国を除いて民主化が進展せず、程度差はあれ権威主義的で、一部はファシズムの性格を持つ体制が立ち現れ、改めて民衆革命が勃発した諸国もあるなど、負の遺産も多い革命である。


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