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旧ソ連憲法評注(連載第8回)

2014-07-19 | 〆ソヴィエト憲法評注

第二十四条

1 ソ連においては、保健、社会保障、商業、公共給食、生活サービスおよび公益事業の国家的制度が活動し、発展する。

2 国家は、住民にたいするサービスの全領域における協同組合その他の社会団体の活動を奨励する。国家は、大衆的な体育およびスポーツの発展を促進する。

 本条は、体育・スポーツも含む人民の福利に関するサービス全般が第一次的に国家によって提供され、協同組合等の社会団体は二次的・補充的な役割しか果たさないことを示している。これは資本主義的な福祉国家ならぬ、国家丸抱えの「国家福祉」と呼ぶべき体制である。

第二十五条

ソ連においては、市民が普通教育および職業教育をうけることを保障し、共産主義的養育および青少年の精神的、肉体的発達に奉仕し、労働および社会的活動のために青少年を教育する統一的な国民教育制度が存在し、改善される。

 国民教育制度は資本主義国家でも備えていることが多いが、ソ連の特徴は、普通教育と職業教育が同等に保障されていることと、狭義の教育にとどまらない養育・青少年教育までカバーされていることである。これも教育面での国家丸抱えと言え、共産党支配体制に適合する勤労者・党員の育成が狙われていた。

第二十六条

社会の必要にしたがい、国家は科学の計画的発展および研究者の養成を保障し、国民経済およびその他の生活領域への研究の成果の導入を組織する。

 科学的社会主義を謳っていたソ連では、科学政策は重点政策の一つであり、それは本条後半にあるように、研究成果の社会還元の組織化にも及び、科学の社会化に配慮されていたが、周知の通り、ソ連の科学は民政利用よりも核兵器製造や宇宙開発など軍事利用に傾斜していた。

第二十七条

1 国家は、ソヴィエト人の倫理的および美学的教育のため、ならびにかれらの文化水準の向上のため、文化財の保護、増加およびその広範な利用について配慮する。

2 ソ連においては、職業的芸術家による芸術および人民の芸術的創造の発展が、全面的に奨励される。

 本条は文化・芸術政策の指針であるが、曲者は芸術活動を「奨励」する第二項である。ここでは芸術活動の自由が認められているように見えるが、「奨励」されているのは共産党支配体制に適合する芸術活動にほかならないから、反体制的芸術活動は監視・取締の対象となり、反ソ的とみなされた芸術家は公演禁止などの迫害を受けた。


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