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英国労働党史(連載第11回)

2014-10-14 | 〆英国労働党史

第5章 「第三の道」と復活

3:ブレア時代(1)
 1994年に労働党党首に就任し、結党理念から大改造したブレアの下で最初の選挙となった1997年総選挙は、こうした「再生労働党」を有権者の審判に委ねる選挙となった。対戦相手は前回選挙と同じ、メイジャー保守党であった。
 前回選挙でも保守党は議席を減らしていたが、冴えない印象のメイジャー首相は不人気であり、対照的に弁舌鋭く、さわやかイメージの若いブレア人気もあり、保守党敗北が予測された。結果は、想定を超える労働党の圧勝であった。労働党は空前の418議席を獲得したのに対し、保守党はわずか165議席の惨敗で、スコットランドとウェールズでは全議席を喪失するありさまであった。
 こうした圧勝の熱気の中でスタートしたブレア政権は、これまた労働党史上最長の10年に及ぶことになるが、それは大きく前半期と後半期とに分けることができる。
 ブレア政権は党内左派の視点では右派的と一元的に断じられることが多いが、仔細に見れば前半期のブレア政権の施策は保革二面性を備えていた。保守的側面は、労組抑圧や民営化といったサッチャー「革命」の枠組みを全否定せず、継承した点である。特に教育や医療の分野では市場・競争原理をサッチャー‐メイジャー時代より拡大した面もあり、左派の批判にさらされた。
 一方、革新的な側面としては、大陸的な最低賃金制度の導入や、労働者の権利強化などの左派路線にも沿う一連の社会経済改革がある。また名誉職化していた上院(貴族院)議員の世襲貴族議席を削減し、一代貴族中心に再編した上院改革や、連合王国を構成するスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの自治権を強化するなどの民主的な改革も革新的な面である。
 こうした保革二面性は労働党の伝統的支持基盤である労働者階級やスコットランドなど周縁地の地盤をつなぎとめながらも、かねて「サッチャリズム」の支持者であった中産階級にも食い込むというブレアの党再生戦略とも符合するものであった。
 21世紀最初の英国総選挙となった2001年の選挙は、こうしたブレア政権一期目の成果を問う審判となったが、結果は5議席減らしたものの、ほぼ現状維持での勝利であった。この選挙では投票率が初の普通選挙年とされる1918年以来最低を記録したが、それも「第三の道」に対する有権者の暗黙の支持と言えた。

4:ブレア時代(2)
 ブレア政権の右派的な性格が増すのは、イラク戦争をはさんだ後半期である。ブレア政権の軍事政策は、労働党伝統の平和主義ではなく、好戦的だったサッチャー政権と似ており、01年の9・11事件に基因する「テロとの戦い」でも、当時のブッシュ米政権と歩調を合わせ、参戦している。
 最も論議を招き、党内左派からも非難を浴びたのが、03年のイラク戦争への参加であった。米国への無条件的な支持に突き進むブレア首相に反発する閣僚や準閣僚らが相次いで辞任し、政権の分裂が表面化する中、ブレアは批判を顧みずイラク参戦に突き進んだ。
 周知のように、イラク戦争では開戦の大義名分とされたイラクによる大量破壊兵器保持の事実がなかったことが事後に判明したことから、ブレア首相に対する左派や戦没兵士遺族らからの批判は強まり、退任後に参戦過程での情報操作疑惑を独立調査委員会からも問われることになった。
 イラク戦争参戦批判は05年総選挙結果にも影を落としている。ブレア政権下で二度目となるこの選挙で、労働党は依然300議席の大台を維持して勝利したものの、50議席近く減らしている。
 治安政策でも後半期のブレア政権では保守政権並みの右派色が強まった。元来、ブレア政権の治安政策は保守的な「法と秩序」政策に近いもので、警察権限の強化やテロ犯罪に対する取締りを強化する反テロリズム法制定などが一期目から進められていたが、総選挙直後の05年7月に起きたロンドン同時爆破事件は、こうした傾向をいっそう強めた。
 テロ事件を受けて議会に提出された新たな反テロリズム法をめぐっては、テロリズムを讃美することを可罰的とし、テロ容疑者を最大で90日間勾留できるとする独裁国家さながらの当初法案が人権上の観点から党内外で厳しい批判を浴びたため、下院でも否決され、大幅に修正のうえ成立した。
 ブレア政権にとって下院での法案否決は、97年の政権発足以来、初めてのことであり、イラク戦争以後のブレア政権が身内の与党内でも支持基盤を弱めた証拠とみなされた。
 実際、ブレア首相は06年には早期退陣の意向を表明し、三度目の選挙を待たず、政権発足10年の節目となる07年に退任した。後任にはブレア内閣で一貫して財務大臣を務めてきたゴードン・ブラウンが就き、ブレア政権は終幕した。


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