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近代科学の政治経済史(連載第14回)

2022-07-29 | 〆近代科学の政治経済史

三 産業学術としての近代科学(続き)

機械工学と工業資本
 産業学術としての基盤とも言えるのが工学であるが、現代まで永続的な成果を保っているのが、機械工学である。機械工学は主に物理学を応用して機械の設計から製造、運用に至る技術を研究する学術であり、あらゆる産業分野で何らかの機械工学が適用されている。
 18世紀産業革命では、発明家によって種々の画期的機械が考案され、まさに革命的な変化を促したのであるが、それまでの職人技に支えられていた家内工業を解体して、労働力を集約した工場で特定の製品を大量生産するという現代では常識となった生産様式が現れ、工業資本が台頭したのも、機械工学の成果である。
 中でも織機・紡績機と動力機械の発明は、両者あいまって生産様式を激変させる効果を持った。織機・紡績機に関しては、以前に見た特許紛争で悪名高いアークライトの水力紡績機が画期的であった。
 これにより紡績工場で多数の工員を雇い、綿糸を大量生産することを可能としたが、同時に熟練した機織り職人を必要とせず、未熟練労働者を安く使った集約的工場制度を作り出したという点では、まさに「女工哀史」の世界をもたらした原点でもある。
 しかし、水力紡績機は水力を用いるという点では生産速度に問題を残す旧式の機械であったが、蒸気機関の発明に伴い、蒸気を動力とするカートライトの力職機が出ると、生産速度が飛躍的に伸び、生産効率の向上、ひいては生産余剰を生み、資本主義の本質である剰余価値の形成・増大を後押しした。
 その意味で、動力機械の開発は工業資本の形成の下支え的な意義を持った。最初の実用的動力機械は、産業革命前の発明家であるトマス・ニューコメンの蒸気機関であったが、これは効率が悪く、ワットが熱交換機能を持つ復水器を開発したことで、エネルギー効率が向上するとともに、水力に依存しないため、工場は水源から離れていてもよく、立地条件も拡大した。
 蒸気機関はまた、当時最も有力な燃料であった石炭の需要を増大させ、炭鉱開発を促進したが、排水ポンプに蒸気機関を応用することで炭鉱の排水効率が向上したことは石炭の増産を促すというように、経済的にも技術的にも鉱業資本の発達に寄与している。


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