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近代科学の政治経済史(連載第15回)

2022-07-30 | 〆近代科学の政治経済史

三 産業学術としての近代科学(続き)

機械工学とサービス資本
 機械工学はおよそ機械であればあらゆる種類のものに及ぶ極めて広汎な学術であるが、18世紀産業革命との関わりでは、交通機関、中でも船舶や鉄道の分野でも飛躍的な進歩を促した。これもまた蒸気機関の開発・改良と直結している。
 ただし、蒸気船や蒸気機関車という新たな交通手段の登場自体はおおむね19世紀初頭以降にかかるので、これは18世紀産業革命の仕上げ段階のことであるが、18世紀における蒸気機関の開発・改良なくしては次の世紀の交通革命もなかったことは確かである。
 先行したのは、古代から存在した伝統的長距離輸送手段である船舶の革新、すなわち蒸気船の発明である。これは米国人の発明家ロバート・フルトンの功績であるが、当初画家志望だったフルトンが発明家に転じたのも18世紀後半の渡英経験がきっかけであったので、彼も英国産業革命の申し子の一人である。
 フルトンが開発した最初の実用的な蒸気船は外輪を使用するタイプのもので、河川航行にほぼ特化した船舶であったが、後に同じ米国人発明家ジョン・スティーブンスが外洋航行可能な本格的な蒸気船の開発に成功した。ただし、まだ伝統的な帆船も高速改良されたうえで併存したが、いずれ蒸気船に取って代わる運命であった。
 他方、陸の交通手段としての蒸気機関車の発明は1804年、英国人機械技術者リチャード・トレビシックによるが、これは実用性のない試作品であり、実用的な蒸気機関車の開発は同じ英国人機械技術者ジョージとロバートのスティーブンソン父子による。
 こうして蒸気機関車の発祥地となった英国では、1830年代以降に鉄道網の整備が大きく進展し、世界最初の鉄道大国となるが、このことが高速での長距離物流を可能にし、先行の工業資本の飛躍に寄与したことは当然である。
 そればかりでなく、蒸気船の開発と合わせ、新しい交通手段の開発は運輸という無形サービスを定型的に提供するサービス資本という近代的な資本の形態を誕生させた。鉄道企業や水運(海運)企業がその先駆けである。
 それはまた、鉄道発展期の英国で亡命生活を送ったマルクスが『資本論』で当時の鉄道会社の過酷な労働条件を特記しているように(拙稿)、有形的な製品を生産する工場労働とも異なり、時間に直接拘束される無形的剰余労働の形態をも産み出したのである。


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