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南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第2回)

2021-01-28 | 南アフリカ憲法照覧

第一章 建国条項

 南ア憲法第一章は建国条項と題して、国の成り立ちに関わる総則的な条項が収められている。単なる総則ではなく、あえて建国条項としたのは、アパルトヘイト廃止後の新生国家の建国を画する憲法という性格を強調するためと考えられる。

南アフリカ共和国

第1条

南アフリカ共和国は、以下の価値によって建国された一個の主権的民主国家である。

 (a) 人間の尊厳、平等の達成及び人権と自由の前進

 (b) 非人種主義及び非性差主義

 (c) 憲法の最高法規性及び法の支配

 (d) 説明責任、応答性及び公開性を確保するべく、成人の普通選挙権、全国共通の選挙人登録、通常選挙及び複数政党制による民主的政府

 第1条は国の基本原理に関する規定である。全体として複数政党制民主国家の標準的な基本原理がそろっているが、a項で人間の尊厳を筆頭原理としつつ、b項で二大差別事象である人種差別と性差別の根底にある人種主義・性差主義の否認を特に明示しているのは、反差別を建国基盤とする新生南アの特色である。

憲法の最高法規性

第2条

この憲法は共和国の最高法規にして、これに反する法又は行為は無効であり、これによって課せられた義務は履行されなければならない。

 日本国憲法にも見られる憲法の最高法規性を宣言する規定が建国条項の二番目に来ているのは、立憲主義を特に重視する趣旨と考えられる。

市民権

第3条

1 南アフリカ共和国市民権は、共通に存在する。

2 すべての市民は―

 (a) 等しく市民権に由来する権利、特権及び利益を保障される。

 (b) 等しく市民権に由来する義務及び責任に服する。

3 市民権の得喪及び回復は、国の法律で定めなければならない。

 共通かつ平等の市民権に関する条項である。アパルトヘイト体制下では有色人種が法的にも劣等市民として差別的に取り扱われたことを否定する意義があり、これも南ア的な特色である。

国歌

第4条

共和国国歌は、大統領の布告によって定められる。

国旗

第5条

共和国国旗は、附則第1条に描写されるとおり、黒、金、緑、白、赤及び青である。

 第4条及び第5条は国歌・国旗に関する規定である。多くの場合、憲法の末尾に置かれる国家儀礼に関する規定が建国条項に含まれるのも、新生国家を強調する趣旨であろうか。ただし、内容はごく事務的で、ナショナリズムに傾斜してはいない。

言語

第6条

1 共和国の公用語は、ペディ語、ソト語、ツワナ語、スワティ語、ベンダ語、ツォンガ語、アフリカーンス語、英語、ンデベレ語、コーサ語及びズールー語である。

2 我が人民の土着語の使用と地位が歴史的に縮小していることにかんがみ、国はこれらの言語の地位を向上させ、かつその使用を推進するための実際的かつ積極的な手段を講じなければならない。

3 (a) 中央政府及び州政府は、使用慣習、実際性、費用、地域の状況並びに需要及び国民全体または関連する州民の選好とのバランスを考慮に入れつつ、統治目的のためにいずれか特定の公用語を使用するものとする。ただし、中央政府及び各州政府は、少なくとも二つの公用語を使用しなければならない。

  (b) 地方自治体は、住民の言語の使用慣習と選好を考慮に入れなければならない。

4 中央政府及び州政府は、立法またはその他の手段により、その公用語の使用を規制し、かつ監督しなければならない。第二項の規定を損なうことなく、すべての公用語は等しく尊重され、対等に扱われなければならない。

5 国の法律によって設置された全南アフリカ言語局は―

 (a) 次の言語の発展と使用のための諸条件を推進し、かつ創造しなければならない。

  (ⅰ) すべての公用語

  (ⅱ) コイ語、ナマ語及びサン語

  (ⅲ) 手話

 (b) 次の言語の尊重を推進し、かつ保証しなければならない。

  (ⅰ) ドイツ語、ギリシャ語、グジャラティ語、ヒンディー語、ポルトガル語、タミル語、テルグ語及びウルドゥー語を含む南アフリカの地域社会で共通的に使用されるすべての言語

  (ⅱ) 南アフリカで宗教的な目的で使用されるアラビア語、ヘブライ語、サンスクリット語及びその他の言語

 憲法第1章で最も詳細な条項がこの言語条項である。ここには多民族・多言語のアフリカ的な社会現実を踏まえ、徹底した多言語主義政策が新生国家の支柱であることが示されている。
 そのために、旧アパルトヘイト体制の公用語であった白人のアフリカーンス語を含む11もの言語が公用語に指定されているほか、公用語外の言語についても保護が図られている。ただし、グローバル化の中で、公用語としては英語の比重が圧倒的に高くなっているようである。
 とはいえ、これほど詳細に憲法で多言語主義を定める例は珍しく、中でも第5項b第ⅲ号で手話も保護されるべき言語に数えられていることは先進的である。


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