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比較:影の警察国家(連載第51回)

2021-12-19 | 〆比較:影の警察国家

Ⅳ ドイツ―分権型二元警察国家

1‐2:州刑事庁と州憲法擁護機関

 ドイツの州警察は集権性と統合性が強いため、州レベルの警察機構の圧倒的な中核を成す点で、同じ連邦国家でも、アメリカとは大きな相違が見られるが、刑事警察を補う犯罪捜査専門機関としての州刑事庁と、政治警察としての州憲法擁護庁は例外である。
 州刑事庁(Landeskriminalamt:LKA)は、州警察の刑事部門では対処し切れない麻薬密輸、組織犯罪、ホワイトカラー知能犯罪、テロリズムなどの重大事犯の捜査に専従する専門機関である。LKAはまた、一種の諜報機関として、内外の情報分析と分析結果の州警察への提供も行うほか、州によっては警察特殊部隊である特別出動コマンドを擁する場合もある。
 ちなみに、連邦レベルにも、相似的な形で連邦刑事庁(Bundeskriminalamt:BKA)が設置され、各州刑事庁の支援・調整を行っており、ドイツ的な連邦‐州の二元相似性を象徴する態勢となっている。
 同様の構造は、政治警察である憲法擁護庁についても見られ、各州には州憲法擁護機関(Landesbehörde für Verfassungsschutz)―正式名称や組織構造は州ごとに異なる―が設置され、連邦レベルの連邦憲法擁護庁(Bundesamt für Verfassungsschutz:BfV)の支援・調整のもとに、反憲法的とみなされる組織や個人の監視を行っている。
 これは、後に改めて見るように、「闘う民主主義」という理念に基づき、憲法上の民主主義の護持という名目で種々の監視活動を行う態勢であり、戦後ドイツ流の政治警察の在り方である。近年は「テロとの戦いテーゼ」の下、イスラーム主義者の監視が主要な活動となっている。
 ただし、戦前はナチスのゲシュタポ、戦後は旧東独のシュタージという二つの抑圧的な秘密政治警察による大量人権侵害への反省から、憲法擁護庁は秘密裏の諜報権限のみで身柄拘束等の強制権限を持たないため、事件としての捜査・立件は、州警察や州刑事庁が担当する。
 とはいえ、各州と連邦に政治警察が二元相似的に設置され、日常的に社会を監視する態勢は本連載で扱う他の四か国にも見られない稠密な監視システムであり、権限が法的に制約されている点を考慮しても、ドイツにおける影の警察国家化の中心点と言える。


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