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最後のスターリン主義国家

2013-02-16 | 時評

今年は旧ソ連の独裁者スターリン没後60周年である。かつてはいわゆる社会主義圏でスターリン流の体制を採る国家―スターリン主義国家―が多く見られたが、スターリン没後は旧ソ連も含め、次第に衰滅していった。そうした中で、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)はスターリン主義国家の最後の生き残りである。 

スターリン主義の特徴は、単純な社会主義ではなく、徹底した個人崇拝と軍事優先の諜報国家体制にある。朝鮮はこの特徴を完全に備えている。その意味では、朝鮮は決してよく言われるような特異な国家ではない。歴史的にも、朝鮮はスターリン存命中の1948年、スターリン政権を後ろ盾に建国され、冷戦下旧ソ連の極東における衛星国家としてスタートとしている。

ミサイル開発や核実験、さらには拉致のような諜報工作も、スターリン主義的な軍事諜報国家ならではの国家活動としてとらえることができる。その行動は一見無謀に見えながら、実はかなり高度な政治的打算に基づいており、決して“狂信”の表れではない。

朝鮮がスターリン主義とも異なるのは、スターリンもあえて試みようとはしなかった“世襲”により世代を超えて体制を継承し得ている点である。実際、スターリンのスターリン体制は総帥の死により30年ほどで終わったが、朝鮮のスターリン体制は建国者の首領金日成没後も持続し、21世紀まで半世紀以上もしたたかに生き延びてきたゆえんである。

こうした侮ることのできない最後のスターリン主義国家に対して、国際社会は危険を煽る「敵視・敵対」でも、媚を売る「宥和・包容」でもなく、熱を冷ます「理解・対話」で向き合うことが有益である。

ここで「理解」とは、朝鮮の体制を表層的にとらえるのではなく、建国史を踏まえつつ、如上のように「最後のスターリン主義国家」として正確に把握することである。

そのうえで「対話」のチャンネルを維持することであるが、「対話」といっても、単に核開発の放棄を説得するだけでは埒が明かないだろう。対話の前提となる政治経済的条件を整備する必要がある。

その場合、経済的条件が優先されるべきである。なぜなら、朝鮮が核開発などの軍事優先政策をひた走るのは、一般通念に反し、対米防衛よりも、当面する未曾有の経済危機をカバーして国威を発揚し、内部からの体制崩壊を防止することに主眼があると考えられるからである。

具体的には、朝鮮がまがりなりにも採用してきた計画経済の立て直しを支援することである。朝鮮が当面する経済危機は、これまた一般通念に反し、市場経済化に踏み込まないからではなく、むしろ中途半端ななし崩しの半市場経済化により元来脆弱な計画経済がいっそう機能不全に陥っていることが主因だからである。

特に食糧配給制の機能停止が食料不足の原因でもあるので、この点の建て直しが急がれる。それと関連して、半市場経済化の中で利権をむさぼる党官僚や公務員・軍人の腐敗防止を図る法的技術支援も必要である。

一方、政治的には、一部大国だけに核兵器保有の特権を認める「核不拡散」ではなく、全国家に例外なく核兵器の保有を許さない「核不保持」の国際法的枠組みを構築することである。「核不拡散」という名の核の特権クラブ化は、朝鮮やイランを含む野心的な途上国の核開発意欲をかえって刺激する逆効果を招いていることは明らかだからである。

こうした条件整備のもと対話に臨めば、日本や南の韓国を含む周辺諸国にとっても重大な影響の及ぶ体制崩壊なしに最後のスターリン主義国家を毒抜きして、さしあたり平穏な中堅国家へ誘導することは決して不可能ではないだろう。


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