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「女」の世界歴史(連載第55回)

2016-09-26 | 〆「女」の世界歴史

第五章 女性参政権から同性婚まで

(5)反女権と女性反動

 2000年代以降の女権の急速な伸張は、それに対する反動も引き起こしている。そうした反女権の急先鋒はイスラーム圏にある。とりわけ近年、中東・アフリカ地域を中心に猛威を振るっているイスラーム過激勢力である。
 先例としては、アフガニスタンで1996年から2001年にかけて政権を握ったターリバーンがある。ターリバーン政権は特異なコーラン解釈に基づき、体系的な女性抑圧政策を断行した。ターリバーン政権下の女性たちは肌を全面的に覆う民族衣装を強制された上、事実上禁足状態に置かれ、勉学や勤労の機会も奪われたのである。
 ターリバーンが9・11事件後、多国籍軍による攻撃を受け、崩壊した後も、隣国に出現したパキスタン・ターリバーン運動なる組織が2012年、女子の教育を受ける権利を訴えていた少女ブロガーのマララ・ユスフザイ(14年度ノーベル平和賞受賞者)を銃撃する暗殺未遂事件を起こしている。
 女性抑圧は2014年以降、イラクとシリアの一部を事実上占領統治するイスラーム国にも見られるが、その支配地域ではより粗野な形で、組織的レイプや女性の強制結婚、性奴隷化が公然と行なわれていることが報告されている。また西アフリカのナイジェリアで西洋式教育の排除を最大理念に掲げるボコ・ハラムを名乗る集団は、女子教育を敵視し、2014年には女子校に乱入、数百人の生徒を拉致拘束する事件を起こした。
 こうした反女性テロと呼ぶべき女性に対する人道犯罪は、各地のイスラーム過激勢力にとってその男権主義的な主義主張を表明する一個の戦略として意図的に遂行されているものと見られる。

 このような反女権の動きとは別途、女性自身の保守反動化という現象も見られる。女性の保守化現象を現代史の中で先駆的に示しているのは、欧州初の女性首相となった英国のマーガレット・サッチャーである。まさに保守党党首として左派の労働党から政権を奪還した彼女は、「鉄の女」とも称される時に強権的とすら言える指導力で10年以上にわたり英国を保守回帰させ、その後、米国や日本にも影響が及ぶ「新保守主義」潮流の代表者となった。
 近年の欧州では、女性の保守化がさらに進み、フランスの極右政党国民戦線党首のマリーヌ・ルペンやデンマークにおける同種政党国民党の創設者にして国会議長ピア・クラスゴー、ノルウェーの右派政党進歩党党首シーヴ・イェンセンなどの右翼的な女性政治家が続々と出現している。
 ちなみに、英国では2016年のEU離脱国民投票の後、史上二人目となる女性首相としてテリーザ・メイが就任したが、彼女も保守党員であり、前職の内務大臣時代には移民制限策や強硬な治安対策で鳴らし、「氷の女王」の異名も取る人物である。
 女権の伸張が限定的な日本でも、女性大臣・都道府県知事の増加現象が見られるが、その大半は保守系政治家であり、かつ女性の立場からフェミニズムに反対し、ジェンダー差別の撤廃に消極的な者すら見受けられる。
 このような女性の反動化現象は、実のところ、女権の弱さないしは抑圧と表裏一体のものである。現状では、多くの諸国で女性が選挙政治を通じて立身出世するには、男性有力政治家の側近者となって後押しを得る以外の方法は困難である。
 そのようなパトロニッジ関係を利用して権力を得た女性は、男性陣の中の「紅一点」的な存在者としてその地位を保証されていることから、競争相手の女性同輩の増加には警戒的とならざるを得ない。そのためにフェミニズムに反対し、むしろ男性優位社会の存続をすら望むのである。
 さらに言えば、女性の社会的解放が進展しない諸国においては、女性全般がジェンダー平等の実現に無関心ないしは消極的であり、その点に関しては男性と共犯関係に立っている。すなわち、女性自身が自立よりも男性の庇護を望んでいるのである。
 世界の女性たちがさらに覚醒し、従来以上に洗練された手法をもって男性をも巻き込んだ反男権主義闘争を展開し、女権を続伸させていくならば、より解放された形で女性が世界歴史の自立的な主役として登場する時代が切り拓かれるであろう。


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