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共産論(連載第55回)

2019-07-08 | 〆共産論[増訂版]

第9章 非武装革命のプロセス

(4)移行期の工程を進める

◇移行期工程の準備
 革命移行委員会(移行委)の最大任務は、共産主義社会の開幕に向けた移行期の工程を進めることにある。移行期には革命に伴いがちな政治・経済的混乱も予想される。この時期をいかに短縮できるかが革命の成否を左右する。
 目安としては3乃至5年以内に移行期を完了させることが望ましい。それを可能とするためにも移行期については民衆会議内部で事前に討議し、入念な準備と計画を練っておく必要がある。以下、この移行期工程の中でも特に重要なものを項目的に列挙していく。
 ただし、経済移行計画の部分は、移行期でも最重要かつ最難関となるため、次回稿で特に取り出して論ずることにする。

◇初期憲章(憲法)の起草
 前章でも指摘したように、移行委は早期の立憲体制の確立を目指さねばならないのだが、大規模な革命にあって急激な立憲体制の確立は困難であるから、過程を分けて考える必要がある。
 それとともに、ここで「憲法」と言った場合、我々が現在知っている憲法とは異なることに注意を要する。現在、我々が知っている憲法とは、国家の構制を定めた国家基本法という性格を持つ。これに対して、共産主義社会では再三述べてきたように国家は廃止されるのであるから、憲法も「国家」基本法ではあり得ない。
 その代わり、憲法は民衆による社会の運営方法を定めたルールとなり、それは「民衆会議憲章」という形式(例えば「日本民衆会議憲章」)で示される(以下、単に「憲章」という)。
 この憲章の制定にも二つの過程がある。第一は最初期共産主義社会―言わば「生まれたばかりの共産主義社会」―に対応するものとしての「初期憲章」であり、第二はこの最初期共産主義を経過した後の成熟期共産主義社会に対応するものとしての「完成憲章」である。
 民衆会議は革命後直ちに第一の初期憲章の起草作業に取り組むため、「憲章起草委員会」を設置する。この委員会は、民衆会議の本部でもある世界民衆会議とも連携しながら、先行して制定済みの世界民衆会議憲章を法源としつつ、適切な憲章案の策定を目指して移行期のプロセスいっぱいをかけ幅広く討議する。(※)

※民衆会議体制では、地方自治体も領域圏憲章の範囲内で独自の憲章を制定することができるから、各層地方自治体でも、同時的に憲章起草作業が進められる。

◇共和制の樹立
 憲法問題と関連して、それ自身憲法問題でもある政体の選択も重要課題となる。共産主義的政体とは本質上共和制であり、なおかつ、民衆会議体制は大統領その他の執政官に施政を委任するのではなく、民衆自身が民衆会議を通じて統治する「民衆共和政体」への移行を要する。
 このような民衆共和政体は、君主制やそれに準じた世襲的統治形態とは両立し得ない。これは、日本の象徴天皇制を含めて政治的権能を喪失し象徴化された君主制(象徴君主制)の存廃に関わる問題である。
 結論から言って、共産主義革命後は象徴君主制も廃止を免れない。ただし、「廃止」の意味内容については慎重に分析される必要がある。
 すなわち、ここで言う「廃止」の対象となるのはさしあたり政治制度としての君主制であって、ファミリーとしての王室(以下、天皇制における「皇室」を含めてこの語を用いる)を廃止するかどうかとは区別することができるのである。
 もちろん最も徹底した共和制にあっては王室そのものも廃止することが要求されるであろう。歴史的に見ると、民衆蜂起型の革命によって君主制が打倒されたときには王室もろとも解体され、君主処刑という事態に発展することもあった(フランス革命やロシア革命)。
 しかし、それらは専制君主制に対する民衆の憎悪を背景とする出来事であって、すでに政治的権能を喪失して久しい象徴君主制は通常民衆的憎悪の標的とならない。象徴君主制における王室解体、ましてや君主処刑はかえって民衆の同情を買い、尊王勢力の反革命蜂起を誘発しかねないであろう。
 そこで、象徴君主制の廃止にあっては王室もろとも廃止する徹底政策よりも、君主制は廃止するが王室は存続させるという形を捨て実を取る不徹底な方策をあえて採るほうが賢明である。
 ただし、王室の存続といっても、それはいかなる特権も伴わない形で王室メンバーとしての形式的称号の存続を認めるというにとどまる。従って、宮内省(庁)のような家政機関は廃止されるほか、王室メンバーの実質的な一般公民化が促進されることになる。

◇革命防衛  
 移行期とは様々な形で反革命策動が展開される時期でもあるから、移行委の任務として革命体制を防衛すること自体も移行期における重要な政策となる。この革命防衛については内政面と外交面とを区別することができる。

(a)内政面
 内政面での革命防衛策は、歴史上しばしば人権侵害の象徴として革命に対する恐怖のイメージを醸し出すもととなってきた。特に革命防衛を直接の目的とする政治警察の創設は人権侵害の温床を作出するので避けるべきである。
 そこで、政治警察に依存する革命防衛ではなく、革命の意義を積極的に社会に啓発し、人々を革命事業に包摂していくような志向性を持った草の根の革命防衛組織として、「革命防衛連絡会」(革防連)を立ち上げる。
 これすなわち、反革命活動への関与が疑われる団体や個人に対する情報収集・動静監視といった消極的な革命防衛にとどまらず、より積極的に地域で革命諸政策に関する情報提供と民衆会議との関係構築に当たり、さらには広く公衆に向けた世論啓発も行なう総合的な革命防衛組織である。  
 そうした目的のために、革防連は、地域で革命諸政策に関する情報提供や関係構築を担当する要員(メディエーター)、インターネットその他の情報手段を活用して公衆向けの革命的世論啓発に当たる要員(パブリシスト)、反革命活動に関する情報収集・動静監視に当たる要員(エージェント)の三種の要員を擁する。(※)  
 こうした包摂的な民間革命防衛組織を通じた革命防衛は、従来の歴史上の革命の定番ともなっていた集団パージのような強権策を回避する効果も持つ。後述するように、移行期にはまだ旧政府機構は残存しているから、一般公務員は当面温存しなければならず、明白に反革命サボタージュに出るような公務員を個別的に罷免すれば足りるのである。  
 ただし、軍部の政治的影響力が強い諸国では、軍の反革命クーデターに一定の警戒を要する。そのためにも軍を統制する平和問題担当革命移行委員の下で実務に当たる委員代理には革命に理解ある退役軍人を充てるとともに、中堅幹部層以下の革命体制への統合に努める必要がある。

※革防連の要員は革命防衛に対する特別に強固な信念を要するため、公募ではなく、適任者の勧誘によって採用される。

(b)外交面
 歴史的に見ると、多くの革命においてその波及を恐れる諸外国からの干渉がなされ、戦争に発展することが少なくない。そこで、外交面での革命防衛策を講じることも不可欠である。
 その際に重要なことは、民衆会議のトランスナショナルな組織化である。共産主義革命は最終的には全世界に波及する連続革命(ドミノ革命)の中で初めて反革命外国勢力の干渉を打破し、完遂されるものである。このドミノ革命については次章で改めて触れるが、それは単なる“革命の輸出”にとどまらない、全世界的な革命のうねりである。
 こうした意味で、外交面における革命防衛の要諦は、技巧的な外交術とも異なる民衆会議のトランスナショナルな連帯それ自体、すなわち世界民衆会議の存在なのであり、そのためにも革命は一国主義ではなく、初めから世界共同体の創設を目指して推進される必要があるのである。

◇経済移行計画
 資本主義経済あるいはその他の市場経済体制から共産主義計画経済への移行は、冒頭でも指摘したとおり、移行期で最重要かつ最難関のイベントとなるため、それ自体が周到な「計画」によって導かれなければならない。この件については、冒頭予告どおり、稿を改める。

◇移行期行政
 
共産主義社会では国家は廃止されるが、移行期には中央・地方ともまだ旧政府・自治体機構は存続する。
 この間、中央では革命移行委員が各行政分野を所管するが、主要省庁は当面の行政事務を継続しつつ、政策シンクタンク化へ向けた組織転換の準備作業を開始する。
 これに対して、地方行政に関しては、移行委の特別政令により、まず全自治体の残存首長・議員を一斉解職する。そのうえで、都道府県のような旧広域自治体は都道府県暫定民衆会議の管理下に移し、民衆会議から「臨時行政委員」(知事相当)及び「臨時行政委員代理」(副知事相当)を派遣して通常業務を継続しつつ、共産主義的な地方圏への統合に向けた作業を開始する。
 一方、市町村については市町村暫定民衆会議が直ちに市町村行政を掌握し、当面は民衆会議議長が市町村長職を継承しつつ、共産主義的な市町村の創設や中間自治体としての地域圏の区割り作業及び地域圏への権限移譲などの作業を遂行する。

◇軍廃計画の推進
 移行期行政で注意を要するのは、軍(軍に準ずる武装機関を含む)の扱いである。共産主義社会では最終的に常備軍は廃止されるが、それは世界法(条約)に基づいて初めてなし得ることであるから、それまでの間は軍を革命体制に統合しつつ、軍を保持していく。とはいえ、移行期には将来の常備軍廃止を視野に、軍縮ならぬ軍廃計画を進めていく必要がある。
 その進め方や規模は、反革命諸国からの武力干渉及び軍内部からの反革命クーデターという内外情勢を考慮しつつ、戦略的に決定される。そのためにも、軍廃を所管する平和問題担当移行委員の舵取りは極めて重要である。
 ちなみに、軍が蓄積している軍事的技能は、大規模災害等における高度な救難活動に応用可能なものも多いので、領域圏全域または広域圏をカバーする高度救難隊に一部再編することは有益である。

◇移行期司法
 移行期工程では、第4章でも論じたような警察、裁判所制度によらない新たな司法制度の創出も始まる。
 しかし、司法は秩序維持に関わり、革命防衛にとっても要の領域であるから、混乱を避けるため細心の注意を払った経過措置と応急措置を取りながら進めていかなければならない。従って、新司法制度は初期憲章の施行に合わせて時間的な余裕を持って施行されるべきである。

◇代議員免許試験の実施  
 移行期の各圏域民衆会議はまだ暫定的なものであり、代議員免許を有する代議員により構成される正式の民衆会議は初期憲章の公布・施行後すみやかに招集される。そのためにも、移行期の早い段階で代議員免許試験を制定し、初期憲章案の完成までに最初の免許試験を実施しておかなければならない。

◇制憲民衆会議の招集  
 初期憲章案が完成した段階で、制憲民衆会議を設置・招集する。制憲民衆会議は正式の民衆会議と同様に、統一的な代議員免許試験に合格した免許取得者の中から抽選される。制憲民衆会議の招集をもって、従前の民衆会議総会は解散する。

◇初期憲章の可決及び施行  
 以上の移行期工程が完了に近づいた段階で、仕上げとして初期憲章の制定手続きに入る。その方法は種々想定できるが、次のような方法が最も周到かつ効率的と考えられる。
 すなわち、先の憲章起草委員会が策定した憲章案を制憲民衆会議にかけ、多数決により可決した後、さらに市町村、地域圏、地方圏の各レベルごとの三分の二以上の民衆会議で多数決により可決する。
 なお、初期憲章はその名のとおり初期的なものであり、暫定性が強いことから、この段階では民衆による直接投票は不要としてよい。かくして、初期憲章の公布・施行をもって、移行期工程が完了する。


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