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続・持続可能的計画経済論(連載第5回)

2019-10-18 | 〆続・持続可能的計画経済論

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第1章 環境と経済の関係性

(4)環境計画経済モデル  
 古典派環境経済学理論の限界を超克するためには、古典派環境経済学が前提する市場経済への固執を離れて、計画経済へと転換しなければならないが、計画経済といっても、三つの計画経済モデルを区別する必要がある。すなわち、均衡計画経済・開発計画経済・環境計画経済である。  
 初めの均衡計画経済モデルは、資本主義経済(広くは市場経済)がもたらす景気循環の不安定さと、物資分配の不平等さ、結果として生じる富の偏在という構造的な歪みを正すことを目指して、社会全体の需給計画に沿って経済活動を展開するモデルであり、計画経済の最も基本的な形態でもある。  
 このようなモデルはすべての計画経済モデルの基層にあるものであるが、その上に生産力の増大という目的を付加したモデルが、開発計画経済モデルである。これは、資本主義に対抗する形で、精緻な経済開発計画に基づき、生産力の増大を企図するもので、旧ソ連が一貫して追求していたモデルでもある。  
 開発計画経済モデルが生産力の増大を目指す点では、資本主義市場経済モデルと同様の方向性を持ち、言わばそのライバルとなるモデルであったが、周知のとおり、旧ソ連及び追随した同盟諸国では100年間持続することなく、挫折した。  
 このモデルは、いつしかその基層にある均衡計画経済モデルを忘れ、資本主義体制との競争的な経済開発にとりつかれた結果、資本主義に勝るとも劣らぬ環境破壊をもたらした末に、生産力の増大という究極目標においても、敗北したのである。  
 今、生態学的な持続可能性を保障するための計画経済モデルとして新たに構築されるべきものは、そのような持続可能性を喪失した開発計画経済モデルではなく、環境計画経済モデルである。ここで、用語の分節を行なうと、環境計画経済とは「環境‐計画経済」であって、「環境計画‐経済」ではない。  
 この区別は言葉遊びのように見えて、大きな実質的相違を示している。この件については次節で改めて述べるが、形式的な分節としては、「環境‐計画経済」とは、環境という要素と結合し、環境保護を究極的な目的とする計画経済モデルの謂いであって、環境保護の計画を外部的に伴った経済ではないということである。  
 後者の「環境計画‐経済」であれば、例えば国際連合にはまさに「国際連合環境計画(United Nations Environment Programme)」という国際機関が存在するごとく、環境保護のためのプログラムを外部的に取り込んだ経済体制全般を指すから、環境保護プログラムを伴う市場経済というものもあり得ることになる。  
 実際、種々の環境対策を取り込んできている現行の市場経済体制は、そうした「環境計画‐経済」を指向しているとも言えるのであるが、それでは生態学的持続可能性を真に保障することはできないのである。  
 そこで、「環境‐計画経済」モデルの出番となるわけだが、これは基層に冒頭で見た均衡計画経済モデルを置きながらも、旧ソ連におけるような開発計画経済モデルとは袂を分かち、経済開発よりも環境保全に目的を定めたモデルとなる。  
 さらに仔細に見れば、個々の環境保全策を経済計画の中に反映させる「環境保全的計画経済」にとどまることなく、生態学的な観点に立って環境規準を全体的に適用するのが当連載のタイトルでもある「生態学上持続可能的計画経済(略して「持続可能的計画経済」)」ということになる。 

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