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「ロジャヴァ民主制」を守れ

2019-10-10 | 時評

9日からトルコが侵攻を開始したシリア北東部―ロジャヴァ―は、シリア内戦中に、過激勢力「イスラム国」を駆逐したクルド人勢力が占領し、シリア領にとどまりつつ事実上の独立状態に近い自治を行なっている地域である。この自治域は現時点で、シリア北東部全域に拡大している。

統治主体はクルド人武装勢力でありながら、この地域の統治は軍政ではなく、直接民主主義・両性平等・民族的/宗教的寛容・持続可能性という先進的な理念に基づく実験的な民主制によって行なわれている。

統治の基本単位は政府ではなく、地域(カントン)のコミュニティであり、議席の40パーセントを女性に割り当てる一種の民衆会議をもって行なわれる。この会議は、中央の最高委員会から干渉を受けず、行政管理・経済管理の全権を任され、最高委員会は主として外交に専従する。

経済は市場経済要素を認めるが、労働者協同組合制度や集団農業の試みも取り込んだ混合経済体制によっている。司法に関しても、処罰より和解に重点を置く修復的司法を取り入れた先進的な制度を試行している。

片やトルコは、エルドアン長期政権の下、全体主義ファシズムの様相を呈するような状態にある。国内少数民族クルド人への迫害はエルドアン政権以前からの“伝統”だが、近年はトルコ民族主義も台頭し、地中海の大国だった旧オスマン帝国への郷愁も見られる。

今回の侵攻作戦で、トルコはシリアのクルド人勢力をテロリストと決め付けたうえ、国境地帯を「テロリストの回廊」と命名し、シリア人勢力を駆逐し、トルコ国内のシリア難民を帰還させる「安全地帯」を設定するために侵攻したと主張するが、テロ対策や難民帰還にかこつけた領土拡張への底意も感じられる。

そもそも「安全地帯」を他国領土内に勝手に設けるなど、国際法上もあり得ない侵略であり、シリア難民の「帰還」という理由付けも、人道上の対応というより、安全地帯という名の「征服地」に追放・隔離するという手の込んだ手法と言える。

もっとも、トルコがシリアのクルド人勢力をテロリスト呼ばわりするのは、ロジャヴァ民主制の制度設計の理念が、トルコのクルド人政治犯(終身受刑者)で、かつてはトルコ内のクルド人政党で武装活動を展開したオジャラン氏の影響を受けているためかもしれない。そうしたつながりから、ロジャヴァのクルド人勢力をテロ組織とみなすのだろうが、それは偏った見方である。

ロジャヴァのクルド人勢力はむしろ暴虐なイスラム・ファシスト勢力のイスラム国と戦い、その拠点ラッカを奪回した功績がある。イスラム国掃討に当たり同盟関係にあったアメリカが国境地帯から軍を撤退させたことで、トルコに侵攻のゴーサインを出す形となったのだ。アメリカン・ファシズムの傾向を強めるトランプ政権との間で何らかの外交的密約があった可能性も否定できない。*実際のところ、トルコは昨年の段階で、アメリカの言質を取り、シリア北部の一部地域を先行的に侵攻・占領しており、その延長線上に今般侵攻作戦がある。

結果、トルコ・ファシズムがシリア領に侵攻し、ロジャヴァ民主制を攻撃している。新たなクルド人難民も、数十万に及ぶ可能性が指摘される。ところが、日頃は反ファシズムと民主主義の擁護を標榜する欧州や国連の批判も腰が引けている。

欧米メディアも国際法上は明らかな侵攻作戦を侵略(invasion)と呼ばず、「侵入」(incursion)・「進出」(advance)などとぼかしている。従来から、欧米ご推奨の議会制とは異なるロジャヴァ民主制に理解も関心を持たずほとんど報道してこなかったため、クルド人勢力=テロリストというトルコのプロパガンダと一部共振してしまう状況にあるように見える。

とはいえ、軍事的には兵力60万のトルコが圧倒的優位にあり、少なくとも国境近接域の征服は時間の問題となろう。国連も機能しないなら、民間での国際連帯により、議会制に代わる新たな民主主義への架け橋となるかもしれないロジャヴァの民主的実験を守らなければならない。

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