ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

民衆は目覚めたか

2015-09-19 | 時評

集団的安保法案をめぐる大衆デモのうねりが内外で注目を集めた。福島原発事故後の反原発デモの頃から、こうした大衆行動の再生が見え始めており、今回の反安保デモも唐突に生じたわけではない。

とはいえ、55年前、安倍首相の母方祖父・岸首相を退陣に追い込んだ1960年日米安保条約改定当時のデモに比べれば、政治的な成果はほとんどなかった。今回のデモを契機に安倍首相が退陣する可能性はない。

デモのうねりを「革命」になぞらえた知識人もいるが、それは真の革命については何も知らないと言っているのと同じである。近年のデモ行動の世界的な傾向性として、現政権の退陣を要求する「反政権デモ」の形態をとることが多いが、現政権が退陣すれば満足して終息してしまうのは真の革命ではなく、一過性の抗議行動にすぎない。

反安保法デモを来年以降予定される国会選挙での「落選運動」につなげようという「戦略」もあるようであるが、しかしこれも「反安倍政権デモ」の延長であり、革命ではない。野党が断片化した現状では、落選運動自体の効果も限定的にとどまるだろう。

多数党支配を本旨とする議会制自体が今回のような超憲法的立法をも許すのであるから、革命というなら、反政権ではなく、反議会制を掲げなければならない。もちろん、その先にあるのは議会制を超える民主的な政治体制の構築であるが、それは議会制と地下通路でつながっている資本主義の廃止とも結合していなくてはならない。

60年安保闘争が終息して以降の日本国民は、続いて始まった資本主義的経済成長の果実である「所得倍増」という麻酔薬で政治的に眠らされてきた。同じように安倍政権も「成長戦略」の麻酔を追加すれば、政治的に目覚めかけた国民を再び眠らせることができるとたかをくくっているようだ。

現状はまだ半覚醒状態にとどまるので、再び麻酔が効いてくる可能性は高い。政権も麻薬の追加注射を急ぐだろう。しかし「成長戦略」が失敗すれば、完全覚醒もあり得なくない。そういう微妙な転換点に来ている。


【追記】
安倍政権は「所得倍増」の代わりに、「GDP増大」を打ち出した。そして新たに持ち出されたキャッチフレーズ「一億総活躍社会」とは、国民総生産拡大のための新たな勤労総動員である。安保法とほぼ同時成立の改悪派遣法が、その梃子の役割を果たすだろう。国民総体の非正規労働狩り出しで、所得倍増どころか、所得半減となりかねない麻薬である。

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近未来日本2050年(連載第21回)

2015-09-19 | 〆近未来日本2050年

五 「緊縮と成長」政策(続き)

減税政策
 ファシスト政権が選挙で圧勝し、かつその後も幅広い支持を維持している最大要因が、減税政策である。その内容は多岐にわたるが、大衆的に最も支持されたのは消費減税である。
 消費税はファシスト政権樹立前には15パーセントにまで引き上げられていたところ、ファシスト政権はこれを一気に7パーセントまで引き下げたのである。そのうえで、「欲しがります、勝つために」のキャッチフレーズで大衆の競争的労働意欲と消費欲を刺激する策に出て、消費の増大を実現させた。
 もう一つの奇策と言うべき大胆な策は、所得、相続、法人の三税で導入された逆累進課税である。逆累進課税とは高額所得者/有資産者や高収益企業ほど税率を軽減する制度であり、まさしく累進課税の逆を行くものである。これは露骨な富裕層・大企業優遇策にほかならないが、稼得や収益を増大させるために自助努力した者は課税上優遇するという競争主義的なコンセプトに基づく税制であり、先の脱社会保障とも通底する政策と位置づけられる。
 なお政府は相続税について、私有財産に対する行き過ぎた制約になっているとして、将来的な廃止または例外的な富裕税化を検討し、財政経済改革本部の諮問会議に諮って審議しているところである。
 さらに外資誘致やベンチャー企業育成のため、全国の経済的な拠点都市域に「法人免税特区」を設定し、特区に本社・本店機能を置く企業の法人税を免除する制度も創設した。この制度はいわゆる「タックスヘイブン」として国際的な批判を浴びているが、政府は内政干渉としてこれを一蹴している。
 こうした大胆な減税政策により、国の税収は半分近くまで落ち込む状態となったが、それを脱社会保障政策と医療・福祉の領域にまで資本化・民営化を全面拡大する新自由主義政策の徹底によって補填しようとしているのである。

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