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スウェーデン憲法読解(連載第11回)

2015-01-17 | 〆スウェーデン憲法読解

第三章 議会(続き)

選挙区

第五条

議会の選挙のために国は、選挙区に分割される

 本章第一条にあったように、スウェーデン選挙制度は政党ベースの比例代表制を基本とするが、選挙区制も併用する。

選挙区間の議席配分

第六条

1 議会の議席のうち、三一〇は、固定選挙区議席であり、三九は、調整議席である。

2 固定選挙区議席は、各々の選挙区における投票権者の人数及び全国における投票権者の人数の比率に基づき、配分される。配分は、四年ごとに決定される。

 議席は通常の固定選挙区議席と、各政党の得票数に応じた議席配分となるように事後的に調整される調整議席とから成る。固定選挙区の議席配分は四年ごと定期的に見直し、定数不均衡を防止している。

政党間の議席配分

第七条

1 議席は、政党の間で配分される。

2 全国において四パーセント以上の票を獲得した政党のみが議席配分に参加することができる。ただし、それより少ない得票率であっても、ある選挙区において、一二パーセント以上の票を獲得した政党は、固定選挙区議席の配分に参加することができる。

 比例代表制を基本とするスウェーデンでは、議席は一発投票で決まるのではなく、政党間で配分されるものである。
 泡沫政党の乱立排除のため、原則4パーセント以上の得票率が要求されるが、一つの選挙区で顕著な得票をした政党には議席配分を認めるというように、小政党への配慮が行き届いている。

第八条

1 固定選挙区議席は、すべての選挙区につき、当該選挙区における選挙結果に基づき、政党間に比例的に配分される。

2 調整議席は、四パーセント未満の票しか得られなかった政党に配分された固定選挙区議席を例外として、議会における議席の配分が、その配分に参加する政党の全国の得票数に対して比例するように、政党間で配分される。ある政党が固定選挙区議席の配分の際に、当該政党のための議会の比例代表より多くの議席を獲得した場合は、調整議席の配分に際し、当該政党及び当該政党により獲得された固定選挙区議席は除外される。調整議席が政党の間で配分された後、当該議席は選挙区に還元される。

3 政党間の議席配分の際には、最初の序数を一・四に調整した奇数法が適用される。

 本条では比例代表制の具体的な内容が定められている。具体的な選挙方法をあげて法律に一任している日本国憲法とは大きく異なり、憲法上明示することで、恣意的な選挙制度「改革」がなされないように配慮されている。
 第二項第二文で、獲得議席数の多い大政党は議席配分であえて不利な扱いをすることで、巨大与党化を防止しようとするのも、多党制を徹底するためである。第三項で、日本などで採用される大政党に有利なドント式(得票数を1・2・3の整数で単純に割っていく)でなく、いわゆる修正サン・ラグ式を採用するのも、小政党に有利な配慮である。 

第九条

ある政党が獲得した各々の議席につき、一人の議員及びその議員の代理議員が選出される

 代理議員制度が存在するため、このような結果となる。

選挙期

第一〇条

1 各々の選挙は、新たに選挙された議会が集会したときから、その次の選挙で選出された議会が集会する時まで効力を有する。

2 新たに選挙された議会は、選挙日から一五日以内に集会するが、ただし、選挙結果が公表されてから四日目より早く集会することはない。

 選挙日と選挙日の間でなく、新旧最初の集会の間の期間を選挙期とする審議重視の規定である。

特別選挙

第一一条

1 政府は、通常選挙の間に特別の議会の選挙を決定することができる。特別選挙は、当該決定から三か月以内に実施しなければならない。

2 新たに選挙された議会の最初の集会から三か月を経過していない場合は、政府は、議会の選挙後に特別選挙に関する決定をしてはならない。政府は、政府の構成員が総辞職した後、新たな政府が発足するまでの間、その任務が中断している場もまた、特別選挙に関する決定をしてはならない。

3 一定の場合における特別選挙については、第六章第五条において定める。

 日本の衆議院解散に相当する規定である。特別選挙の理由については第三項が指示する第六章第五条の場合(新総理大臣が決まらない場合)を除き、特に制限はないが、第二項で新たな選挙期が開始してから三か月間と、内閣総辞職から新内閣成立までの間は特別選挙を実施できないという期間的制限がある。

選挙審査委員会

第一二条

1 議会の選挙については、議会により選出された選挙審査委員会に異議を申し立てることができる。当該委員会の決定については、異議を申し立てることはできない。

2 議員に選挙された者は、選挙について異議申し立てがなされた場合であっても、その職務を遂行する。選挙に変更があった場合には、変更が公表されてから速やかに、新しい議員がその議席を獲得する。同様のことが代理議員にも適用される。

3 選挙審査委員会は、正規の裁判官である者又は正規の裁判官であった者で、議会に所属していない者を委員長とし、その他六名の委員で構成される。当該委員は、各々の通常選挙後、その選挙が有効とされ次第、選出され、新たな当該委員会の選挙が実施されるまで任期を有する。委員長は、別に選挙される。

 選挙をめぐる争訟を通常裁判所ではなく、議会が選出する常設機関である選挙審査委員会に委ねる規定である。議会の自律権を徹底し、選挙争訟では司法の介入も排除する趣旨である。

付加的規定

第一三条

第一条第三項及び第三条から第一二条までに規定する事項及び議員の代理議員の選任に関する付加的規定は、議会法又はその他の法律で定める。

 選挙に関する細目的な規定を法律に委任する趣旨である。しかし自由、秘密及び直接選挙という選挙制度の根本原則と比例代表制、さらに定数349、議員歳費請求権については法律の委任を許さない憲法事項とされている。


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