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スウェーデン憲法読解(連載第7回)

2014-12-20 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

財産の保護及び公衆の立入権

第一五条

1 すべての人の財産は、緊急の一般の利益を満たすために必要とされる場合を除き、すべての人に、収用若しくは他の同様の引渡しにより公的機関又は個人に対してその財産を放棄することを強制すること又は公的機関が土地若しくは建築物の使用を制限することを受忍することを強制することができないことにより保障される。

2 収用又は他の同様の引渡しによりその財産を放棄することを強制される者は、損失に対して完全な補償を保障されなければならない。補償は、問題となる不動産の一部において土地を使用することが相当な範囲内で困難となるような方法又は不動産の当該部分の価値との関連で損害が著しくなるような方法で、公的機関により土地又は建築物の使用を制限される者に対しても保障されなければならない。当該補償は、法律に定める根拠に従い、決定されなければならない。

3 ただし、健康保護、環境保全又は安全を理由とする土地又は建築物の利用の制限に際しては、補償に対する権利についての法律の規定が適用される。

4 前記の規定にかかわらず、すべての人は、公衆の立入権に基づき、自然を享受する権利を有する。

 本条以下の三か条は、財産権をはじめとする経済的自由に関する規定である。筆頭の本条は財産権の保障に関する規定であるが、通常のブルジョワ憲法のように私有財産の保障を正面から宣言するのでなく、私有財産が公共の利益のために制限されることを前提に、補償の権利について定めている点に、社会民主主義的な憲法の特色が表れている。特に、第三項では健康保護や環境保全、安全を理由とする場合、完全な補償は行なわれないことが示唆されている。
 第四項は、自然を享受する権利を保障するため、森林などを含む私有地への公衆の立入りを認めるという形で私有財産に制限をかける先進的な規定である。

著作権

第一六条

著作家、芸術家及び写真家は、法律の規定に基づき、その作品に対する権利を有する

 文言どおり、著作権に関する規定である。著作権を財産権の一環として扱う資本主義的な立場を前提としている。

商取引の自由

第一七条

1 商取引を行う権利又は職業活動を遂行する権利についての制限は、重大な一般の利益を保護するためにのみ導入することができ、単にある人物又は企業を経済的に優遇するために導入されてはならない。

2 トナカイを飼育するサーミ族の権利については、法律により規定する。

 商取引その他の経済活動の自由を保障する規定である。特権商人・企業を保護するための競争制限的な規制を禁止し、自由競争を保障している。この点で、スウェーデン憲法は自由主義経済体制を擁護する立場に立っている。
 第二項は、トナカイ遊牧民である少数民族サーミ族の権利を保障するものだが、内容はあげて法律の規定に委ねられている点で、不安定な権利となっている。

教育及び研究

第一八条

1 一般的な学習義務を有するすべての子どもは、普通学校において無償の基礎的教育を受ける権利を有する。公的機関は、高等教育機関を設置する責任を負わなければならない。

2 研究の自由は、法律に定める規定に従い、保護される。

 財産権の規定の直後に、教育・研究に関する規定が来る理由は必ずしも明確でないが、無償教育を受ける権利は教育費の負担からの免除という点で消極的な財産権に関わることや、研究の自由は研究者の職業遂行の自由に関わることから、この位置に置かれたものかと思われる。ただ、教育を受ける権利は広い意味では社会権に属する規定であるので、財産権に直後させることに憲法体系的な疑問は残る。
 第一項第二文で、大学を中心とする高等教育機関の設置を国や自治体など公的機関の責任として明言するのは、先進的な規定である。


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