たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
 



2006年11月6日

よく眠った。午前4時すぎには目が覚める。朝から人びとが詰め掛けてくる。わたしに何かして欲しい、お金を融通してくれと。今朝は、わたしはバイクの修理のためにアサップに行くというのを聞きつけて、Aがやってきた。バイクのスターターの調子がよくない。ブレーキの内側の部分が曲がってしまった。それが今度は変な具合に、ペダルの上に被っていて、足を乗せることができない。おまけにランプがつかない。どうやらブレーキはBが石にぶつけて壊したらしい。エンジンから変な音がするのは、Cが純油を使わずに混合油を使ったかららしい。バイクはわたしだけのものではなくなっている、すでに共有化されている。プナンは自分のために使い、修理するのは所有者であるわたしである。ノマド的な共同性に貫かれていると頭ではわかっても、心ではどうしても納得できない。しかし、いったいどういう倫理観なのだろう?どういう他者観なのだろう?

ビッグマンがやって来た。森林伐採の賠償金で手に入れた車が修理されているのを取りに行くのに金が不足している。人びとに木材の不法切り出し作業をさせてから、明日にでもビントゥルに行くという。修理代金は貯まって、行くことは行けるが、食べたり飲んだり泊まったりする金がないという。二日前に200リンギットでも300(6000円から9000円)でもいいから融通してくれというのを断ったのではっきりとは言わないが、言外に援助を求めている。考えてみれば、ここに来てから、そうした要求と援助の繰り返しだったように思える。昨夜Bが、12月のクリスマスのため200から300を使いたいので、食べ物や飲みものを買うために援助してくれないかという。わたしがビントゥルに行くときに着いて行って、買い物をするそうだ。彼だけの要求にとどまるのだろうか。他の人たちとの関係はどうなるのだろうか?いましがた、Dが缶詰と麺の無心にやってきた。昨日彼には、50リンギット渡したばかりではないか。要求はどんどんとエスカレートする。

ふたたび、アサップ行きについて。Eの養子Fがマラリアに罹った可能性があるので、アサップのクリニックに行きたい。できれば、ビントゥルに行きたい。金がないので助けて欲しいという。わたしは、クニャー人のクベンの車をチャーターして、Eに50リンギット渡した。出発したのは午後1時すぎ。2時半にアサップに到着。E夫婦は、息子をクリニックに連れて行き、マラリアだということが分かった。薬を処方してもらったようだ。近代医療は人びとをひきつける強い力を持っている。Eは、金がなくとも、わたしを動かして、子を医者に見せなければならないと感じた。そうすることが救命への道だと考えた。E夫婦は、帰り道、安心した様子だった。クリニックは無料だった。50リンギットは、アサップでのショッピングに用立てられた。5時半にアサップを出発。雨が降り出した。荷台には、修理の済んだバイク、EとGが乗った。7時に帰着。

Gには、タバコを買い与えた。(実験的に)考えてみたいのは、プナンの「信頼」に基づく人間関係についてである。Hは、「信頼」に応えなかった。わたしは、Hが、町から菓子類を仕入れて売って儲けたいという言葉を信じて、100リンギットをHに貸し与えた。彼は、それを150にした。しかし、Hは、100さえもわたしには返金しなかった。そのことは仕方ないと思う。わたしが知りたいのは、そうした行為の意味についてである。そういったことをすると、わたしに対する「信頼」は失われると、わたしたち日本人はふつうは考える。しかし、プナンは、そう考えないのかもしれないということが、わたしの頭をよぎった。「信頼」が絆を強めたり、人間関係を築くのに用いられるのではないのかもしれない。プナンは、状況次第で、「信頼」を反故にすることがある。お金を借りるときも、土地使用に対する森林伐採企業からの賠償金を担保にするが、状況によって、賠償金が出なかったり、出ても診療に使ったりして、あるいは飲み代に使ってしまったりして、状況によっては、返金できない場合がある(多い)。A300、C300、I200、J200、K20・・そのほか、数え切れない多くの人たちからの借金、そのほとんどが戻って来ない。戻ってきたら、わたしは不意に、マレー語で謝意を述べてしまう。言い訳や日延べも一切ない。人間関係というのは、「信頼」を培うことで、次の親交へと進むとわたしたちは考えるが、プナンはそうではないように思える。逆に言えば、プナンたちは、そういった「信頼」は所与のものであり、改めて築いてゆくようなものではないと考えているのではないだろうか。わたしたちの考えに照らせば、状況性に翻弄されて、最初の思惑が実現しないということだけなのかもしれないが。それで、Gが、わたしのバイクの管理を含めて、どのような行動をとるのか、じっくりと観察してみたいと思っている。

*4年前、プナン人たちとともに暮らした。滞在日記を読み返している。滞在し始めてから半年が過ぎたころの、4年前の今日の日記。そのころ、金、共同性、信頼などをめぐって、プナンとの神経戦をおこなっていたようだ。滞在記をそのまま本にするという手はどうなのだろうか?やっぱりだめだろうな、まとまりに欠けるし、学術的価値もないし。



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コメント
 
 
 
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2010-11-06 00:53:42
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