“氷姿雪魄”に背のびする……しろねこの日記

仕事の傍ら漢検1級に臨むうち、言葉の向こう側に見える様々な世界に思いを馳せるようになった日々を、徒然なるままに綴る日記。

初めて上手に書けた字は…?

2016-09-19 11:05:50 | 日記
たまに、他教科の先生と漢字について雑談をすることがあります。先日は隣の数学のK先生が、

自分は「集」が一番好きな漢字です

と言いました。数学の先生だから、「集合」を説明するのによく書くから好きなのかな? などという考えが脳裏を過るそばから、理由を聞いてみると、

初めて上手く、バランスよく書けた字って、「集」なんです

とのこと。言われてみると、「集」は確かに左右非対称で、上か下が大きくなりやすいうえに、右上がりか左上がりにもなりやすい字のひとつ。

そこで母に、「初めて上手く書けた字って何だったか覚えてる?」と聞いてみたところ、母は衣類を畳みながらこともなげに、「『む』。あのくるっとするところがね…。あ、あと『ま』。…漢字? 漢字は『遠』! しんにょうとか…先生にも褒められたもん」
と、ポンポン答えるではありませんか。

でも、こういうふうに、人は覚えているものなんですね、初めて上手く書けた漢字のことを。
みなさん、ご記憶にあるものなのでしょうか。

しろねこは、とにかく義務教育のうちは、いい加減な字を書いているのを見かけられると母親に逐一字の形や大きさを注意され続け、それぞれの直すポイントを気をつけるようになったこと自体は記憶にあるのですが(はねとか突き出るとか)、常用漢字表を何も眺めないうちから、K先生や母のように「この字だ!」とぶっつけで言えるほど、“初めて上手く書けた”字の新鮮な記憶がありません。
また、それが具体的にどんな漢字だったかの記憶はないですが、形をとるのが苦手な字を上手く書けた瞬間に限って、隣の字が間違っていたり上手く書けていなかったりして消しゴムをかけているうちに、上手く書けた字の端まで消してしまい、結局一から書き直したらたいして上手くもなくなった、という要領の悪いことも度々ありました。しろねこは、消しゴムを入念にかけないと筆圧が強いほうだったのです。

ただ思い巡らしてみると、K先生の言う「集」みたいに書きにくい字は、しろねこの場合、自分の氏名が最も当てはまりそうです。というのも、左右対称の漢字が実はひとつもないのです。一文字だけ左右対称に近いのがありますけれども、それは成り立ちの姿は左右対称なのですが、文字になってみると完全な左右対称ではなくなっているのです。
ひとつひとつの形が取りにくい上に、トータルで書いたときのバランスも、子どものころは難しくて、特に毛筆による書写のときなどは悩んだものでした。高校で先生に古典のノートを褒めてもらうためにきれいな筆跡を心がけたり、書道部にいたとき練習したりしたのである程度問題なく書けるようにはなりましたが、今でも気を抜くとあちこちに線が流れてしまうので、心して書いています。助かったのは、氏名の画数は、それほど多くなかったということかもしれません。

幸い、自分の名前が上手く書けなくてもしろねこは字を書くことが嫌いにはなりませんでした。なんでかは正確には分かりませんが、絵でも字でも、きれいだと感じるものを写して残したり、表現して見てもらったりすることは好きだったから、なんじゃないかなと思います。
先日、演技と衣装が素敵でしろねこが応援していた、フィギュアスケートの鈴木明子さんのご講演を拝聴する機会があったのですが、そのお話の中でも、やはり同様のことが含まれていました。人間、ひとつの欲求があれば、いくら苦手なものでも、そこを避けているうちはその欲求が叶えられないんだと分かったら、やるしかないと挑み続けて、いつか克服するものだ、ということ。もちろん、オリンピック選手が求める世界と一個人の文字を書くお話では次元は大違いですが、でも、理屈の筋道は根っこのところでは同じなのではないかと思います。

そんな、“できるようになる喜び”の記憶というものについて、暫し思いを馳せてみた次第でした。

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4 コメント

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うまく「書けない」字 (凜太郎)
2016-09-19 12:04:38
しろねこ さま

こんにちは。ご無沙汰しております。
私は自他ともに認める悪筆で、そもそも「うまく書ける字」というものがほぼ思い当たらない(汗)のですが、記事を拝見して、一般には左右対称の字の方が上手に書きやすいものなのかと、ちょっと意外に感じました。と言うのは、私のフルネームは漢字四文字で、うち三文字がまあ左右対称に近い(厳密にはもちろん違います)字なのですが、私自身がいつまでたっても上手に書けないと一番思っているものがこの「自分の名前」なのです。そのため、左右対称の字はかえって上手にかきにくいものだと思っていました。特に苗字に関しては私だけでなく、妻も娘も「書きにくい」と言います。思えば妻は私と一緒になったがためにその「書きにくい」苗字になった訳ですし、大学生の娘にいたっては、今の苗字が書きにくいからと結婚して苗字が変わるのを今から楽しみ(?)にしている始末・・・

仕事がら、人が書いた履歴書などをしばしば目にするのですが、字の上手な人が本当にうらやましいです。


記事の主旨から外れたコメントになってしまいましたね。失礼しました。 m(_ _)m

28-2 は受検のご予定でしたね。お互いに頑張りましょう。
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美文字 (ひでまろ)
2016-09-19 18:16:32
「横濱漢字の会」のひでまろです。「美しい楷書体」には憧れますね。私の字はクセがなく、綺麗な字ですね、と言われることが多いのですが、書写をきちんとやったことがないので、苦手な字はかなりありますね。実はつい最近まで「飛」をいい加減な書き順で書いていました。うまく書けないので一念発起して正しい書き順を習得したところ、見違えるようなバランスの取れた美しい?字が書けるようになりました。「書き順、侮れず」を痛感したわけです。
漢字はともかく、私にとっては「ひらがな」が課題です。美しいひらがなを書くのは漢字より難しいのではないでしょうか。

漢検1級の受検を続けながら、美文字も追求したいと思う今日この頃です。
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種類の異なる難しさ (しろねこ)
2016-09-19 20:39:13
凜太郎さま

コメント有難うございます。
仰ること、とてもよく分かります。どなたからかは必ずや左右対称の字について突っ込みがあるであろう、と予想しておりました。この記事を書きながら、全ての文字が左右対称の、嘗ての生徒の氏名を思い浮かべていたほどです。

左右対称かつ画数が少ない文字の代表としては「山」や「中」、「田」などいくつかありますが、中でも難しいのは「一」「二」「三」「六」「八」「十」といった漢数字が一番なのではないかという気がします。しろねこの場合、「一」〜「三」は分かっていても子どもの頃はなかなかゆったりきれいに配分して書けない、書けば書くほど不安になる文字でしたし、高校の書道部でちょっとした賞状を先生から頼まれたりするようになってから、漸く「六」や「八」を必死に練習したりしました。

でも、左右対称の字の難しさは、あくまで如何に中心線を保って書けるかであって、枠に対する配分は、比較的分かりやすいと思います。例えば「村」みたいに、「寸」の一画目は木偏のどの辺の高さから入ればよいのか、木偏の一画目の長さよりどのくらい長くすればよいのか、なんて悩みは、左右対称の字を書くときには無いわけなので。
また、しろねこの場合、中学生の三年間学校行事の立て看板やらポスターやら表紙やらを先生にさんざん書(描)かされて、毎回明朝体とゴシック体のレタリングを嫌と言うほど熟したお陰か(?)、そういう高さ合わせや画の長短、余白バランスの理屈だけは頭に叩き込まれたようです。あとは運筆のトレーニングで、段々いつ書いても大体同じように書けるように、筆跡が安定してきました。

確かに、左右対称の字はシンプルで整った美しさである分、ごまかしは利かないので、運筆がふらふらしたりどこで止めてよいか分からなかったり、余白のバランスを目分量で測れないという方だと、却って難しいと感じるかもしれませんね。ゆったりしていながら均等な余白の割合を見定め、全体的に僅か右上がりを心がけるだけでも、ちょっと素敵に書けるようになるのではないでしょうか。

28-2、私の場合は間に合うか甚だ不安ですが、勉強は続けたい気持ちです。今後とも、宜しくお願い申し上げます。
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“漢字の正しい書き順” (しろねこ)
2016-09-19 20:40:42
ひでまろ様

その節はまことにお世話になりました。この度はコメント有難うございます。

そういえば、まだひでまろ様の肉筆を拝見したことがありませんでした。クセがないということは、きっとはねやはらいが極端でなく、読みやすいのですね。

漢字の書き順は、書道界では流派のせいで論争がおこることもあるようですが、一般的に義務教育で習う書き順は、確かに知ると知らないとでは、字形のバランスがかなり違ってきますよね。「右」や「有」などは、筆跡を一瞥すればどちらで書いたかすぐに見抜けてしまう代表格で、私もよく試験に出題したりしています。

「飛」については、確か『部首ときあかし辞典』の中で円満字さんが、「北欧のデザイン家具を思わせる左右非対称の形」というようなことを書かれていて、なるほどそういう見方もあるのかと思わず北欧デザイン家具の画像を検索しまくって「飛」のイメージと重ねようとした思い出があります。私が小学生でこの字を習ったときの記憶もあり、先生が黒板で筆順を教えてくださって、一発で覚えました。やはりそのくらい特徴のある字だということですよね。

〉正しい書き順を習得したところ、見違えるようなバランスの取れた美しい?字が書けるようになりました。

そうなりますと、四画目で真っ直ぐ突き抜けるのが、凄く気持ちよく、二・三画目と八・九画目の点々を書くのが、何とも楽しくなられたのではないでしょうか?! (私はそうなのですが……。)

敬愛する「漢字の正しい書き順」のサイトで、1級配当漢字を全てチェックしたいと思いながら、未だ果たせていない私です。旧字体を勉強するのと同じくらい価値のある勉強だと思いながら、目先の記憶補強に囚われてなかなか実行に移せません。

〉美しいひらがなを書くのは漢字より難しいのではないでしょうか。

確かに、かなは私も偶然しか上手くいかないことが多いです。とりわけ「の」は、偶々上手く書けると、(いつもこうだといいのにな)と心中で溜め息をついてしまう代表です。

では、今後とも、宜しくお願い申し上げます。
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