このコーナーは、来年出版される予定の資格本の原稿の一部ををアップしていきます。出版予定の資格本は、年代別(ex20歳代・・)に有用な資格とその活用方法を解説していくものです。第11回は、50歳代資格「唎酒師」です。
区分:民間資格(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会の主催)
対象者:飲食店従事者、日本酒愛好家など
■ 唎酒師(ききざけし)とは
主催団体によれば、飲み手の好みや要望を察知し、日本酒とその楽しみ方を提供するプロフェッショナル」とされている。つまり趣味の資格ではなく、お店に「利き酒師のいる店」などの看板を掲げられるプロの資格である。従って受験料等はそれなりに高価だ。
■ 唎酒師の楽しみ
筆者は、別にお酒のプロではない、もっとも若い頃は、プロ顔負けになるくらいに毎晩飲んだが。そして、筆者の場合、この資格は資格を取る過程が楽しかった。取ってしまった後は、別に何ということはない。名刺に刷り込んであるため、時折聞かれて、うんちくをしゃべる位だ。あまり参考にならなくてすいません、その代り、受験準備から、試験の内容などを詳しく書きます。
■ 利唎酒師目指して
▼ 教材到着
申し込んでおいた「唎酒師」の学習教材が届いた。テキストが3冊、それに利き酒のセット、さらにDVDが4枚。テキストとDVDは通信教育等では定番だが、写真の瓶に注目。8個の瓶があり、これに葷酒とか、腐った臭いの酒とか名前がついている。これがテイスティングの教材で、この通信教育の特徴である。
これがあるため申し込んだ資格、私の申し込んだコースは、通信教育の後、試験を受けて合格すると資格がもらえるという、比較的安価なコースだ。5月くらいにはテキストを終えて、テイスティングに入りたい。
この通信教育は、期限が1年間、試験は毎月あるから心配はない。6月頃にでも受験するか。さてこれからじっくり日本酒の世界に浸る・・・
▼ 山廃って?
唎酒師の学習が本格化してきた。今日は日本酒の製造方法の話。日本酒の製造方法は、何と19ものステップがある。そして少なくとも約3か月間かかる。秋に新米ができるから、作るのは真冬だ。その中でもポイントになるのは、麹造り、酒母(しゅぼ)造り、またはもと造り(もとは、酒へんに元)ともいう。そして醪(もろみ)造り。
このうち酒母造りは、乳酸をどのように得るかによって2つの作り方に分かれる。キモト系酒母と速醸系酒母。速醸系は、液体状の乳酸を加えて素早くタンク内を酸性に変える。明治時代に国立醸造研究所で開発された手法だ。
もうひとつのキモト系酒母は、作業工程の違いで、キモト、ヤマハイモトに分かれる。キモトは明治以前に造られてきた伝統的な方法で、コメの糖化を早めるために、コメをすりつぶしていた。ところがこの作業、ヤマというが、重労働で、何とかこの作業を止められないか、醸造試験所で実験をした結果、ヤマを止めても成分の違いはない、ということになり、ヤマを廃止するようになった。
現在の日本酒は、速醸系が90%、ヤマを廃止したキモト(略して、ヤマハイ)が9%、昔ながらのキモトは1%の比率だそうだ。
う~ム、それでヤマハイ(山廃)というのか、速醸系に比べて稀少価値があるため、差別化で使われているようだ。ようやく意味が分かってきた。ちょっとはウンチクを語れるようになってきた!
▼ 純米大吟醸って?
今日も唎酒師学習の話。まず純米酒と本醸造、普通酒の違い。日本酒には通常は、醸造アルコールを添加している。香味の調整や防腐効果そしてコストの軽減が目的である。醸造アルコールとは、焼酎と同じ製法で作られたもので、台湾やブラジル等で安く作れる。これが規定量内のものを本醸造、規定外は普通酒、全く入っていないものは、純米酒となる。当然純米のほうが高価になるはず。
もう一つの分類。原料の玄米には、外側にビタミンやタンパク、脂質が多く含まれており、これが雑味の多い味わいになるため、玄米を精米する。これを精米歩合といって、分母が玄米の重量、分子は精米されたコメの重量でパーセントで表す。
この精米の作業、現在は竪型精米機で行うが、少しずつコメの表面を削り、40%も削るのにも48時間もかかる。この竪型精米機がない昔は、10%程度しか削ることができなかったそうだ。
そして、この精米歩合が60%以下を吟醸酒、50%以下を大吟醸酒という。竪型精米機のない昔、昭和以前は、吟醸酒は作れなかったそうだ。
最後に、純米系なら繋げて、純米大吟醸酒、純米吟醸酒となる。ようやく純米大吟醸にたどり着いた。今日もちょっとしたウンチクでした。
▼ 難しい利き酒の練習
唎酒師の学習も佳境に入ってきた。いよいよ利き酒の練習をする。この資格の利き酒は、日本酒の銘柄を当てるのではない。薫酒(くんしゅ)、爽酒(そうしゅ)、醇酒(じゅんしゅ)、熟酒(じゅくしゅ)の4種類を分けるのである。利き酒で驚いたのは、酒は飲まないことだ。利き酒をした後は、別の器に吐き出す。
外観、香りを嗅ぎ分け、口に含むことで分けるのである。この4分類ができれば、その酒に合ったTPOが提案でき、またおいしく飲むための温度、酒に合う料理、逆に料理に合う酒の提案ができるというものだ。
でも今まで、酒に関する提案、そんな提案など、人生一度も受けたことがないが。考えればその通りだ。酒はうまく飲みたいものね。
写真は、利き酒をやっているものだが、なかなか難しい、香りは最初は分かるのだが、二度目に嗅ぐとわからない。鼻がばかになるのだろうか。そして香りは、強さ、複雑性、香りの具体例を記入する。味わいは、アタック、複雑性、甘辛度、具体的な味わい、テクスチャー、アフターフレーバー、余韻を分けて記入する。味わいを日本語で表現するのは難しい。
最後にVTRで正解を解説してくれるのだが、まださっぱりわからない。まだまだ練習が必要だ。
▼ いよいよ試験
東京王子の試験会場へ。FOBアカデミーというお酒の学校のようなところだ。受験者はざっと見て20名くらい。私は一番前の席だ。1次試験は、40分間。テキスト「もてなしの基」から。選択式が大半で、記述式もちょっと。だいたい80点というところ。出だしは順調だ。
昼食を取り、2次試験。こちらは、テキスト「日本酒の基」から、選択式で84問、残りは記述式で8問、120分だ。こちらも80点前後取れた。通信教育資料についている「学習のポイント」で、試験に出題されやすいところが書かれている。これに従って重点的に学習、そして過去問題を買って学習したため、これで十分得点できた。
休憩の後、3次試験。この試験独特のテイスティング。ワイングラスが4個置かれ、A,Bはその酒が何種かを当てる。C、Dは正常酒と劣化酒を当てるようだ。テイスティング以外に、試験酒の生かすシーンや飲用温度、酒器、なども問題になっている。
さて試験開始。Bのワイングラスは黄味かかっている。テイスティングすると独特の私の嫌いな味だ。これは「熟酒」(じゅくしゅ)、古酒の香りがする。もう一つのAのグラスが難しい。香りがほとんどない。テイスティングも特徴がない。薫酒(くんしゅ)ならフルーツの香り、醇酒(じゅんしゅ)ならコメの香りがするんだが。ということで残りの爽酒(そうしゅ)を選択。甘辛度でわかりそうなものだがこれがなかなか難しい。日本酒には、甘口辛口があるが、実はそのどちらの成分も含んでいる。最初辛くても次第に甘くなっていく。このため甘辛度の判定が難しい。甘い辛いは主観的なものだそうだ。
酒の選択だけではなく、外観では健全度、色調、粘性、香りでは強さ、複雑性、香りの具体例、主体となる香り、味わいでは、アタック、甘辛度、テクスチャー、含み香、余韻などを記入していく。酒の種類を間違えたら、その問題はすべてバツのようだ。結構厳しい。テイスティングは、ふつう、口に含んで吐き出すのであるが、特段指示もなかったので、ワイングラス2杯とも飲み込んでしまった。試験中に顔が赤くなる。
劣化の判定は、その匂いで簡単にわかる。さすがに劣化した酒は飲まなかった。そして劣化しない対策を書いていく。これもバッチリ。2種類の酒の選択があっていれば80点くらい。2種類とも間違えていれば40点くらいだ。熟種は間違いないだろうから、60点以上はある。
休憩後、最後の4次試験。こちらはすべて記述式で40分。季節を設定して酒の提案をする。私は、春の歓送迎会のお客様を想定して、薫酒を提案。そしてその理由などを書く。後は、とっくりの洗浄の問題、飲用温度を下げると何が変化するか、お燗の方法について、片口などの面積の広い酒器の影響、日本酒のサービスの順番などであった。こちらも80点近くはあるんじゃなかろうか。というわけで終日の試験、長い長い一日が終わった。試験結果は2週間ほどで送られて来る。合格率はかなり高いというが、たぶん大丈夫だろう。楽しみにして待とう。
▼ 合格はしたものの
唎酒師試験の結果通知が届いた。合格である。しかし、問題はこの後である。ふつう試験に合格したら合格証が発行されるものだが、この試験は発行されない。合格証は、費用を払ってからというのである。その費用が諸々で6万円近い。しようがないので1年だけ会費を払い、合格通知を戴く。筆者の有効期間は、1年限りのものとなった。でも資格取得まで結構楽しんだから、それでもいいか。