「朝日」21日付、「インタビュー」欄で、新藤宗幸千葉大学名誉教授が語っています。「政治と科学」はいま改めて問われている大きなテーマではないでしょうか。新藤宗幸名誉教授の発言の一部を紹介させていただきたいと思います。
「— 今回のコロナ禍での政府の対応をどうみていますか?
「(新藤さん)かつて経験したことのない危機的状況に際して、政治が専門家集団の知恵をどう活用しようとしたかという点で、政権の本質が見えた気がします」
「 — というと?」
「(新藤さん)専門家会議を立ち上げて未知のウイルスに対する科学的な助言を求めたのは常道ですが、委員の顔ぶれを見ると、政権が科学的助言を本当に求めていたのか疑問です。座長を務めた脇田隆宇氏は国立感染症研究所の所長ですし、副座長を務め、その後にできた分科会の会長になった尾身茂氏も元厚生官僚です。私には政権と親和性の高い専門家を集めて助言機関の体裁を整えたように見えます」
「 — 公衆衛生や感染症の第1人者ではないですか?」
「(新藤さん)もちろん、会議に参加することを問題視するつもりはありません。ただ未知のウイルスへの対応は複雑で、専門家の間でも百家争鳴的議論が起きている。こうした多様な意見を採り入れる態勢とは思えません。3密を避ける要請や新しい生活様式といった提言はありましたが、政府の対応を批判的に検討した形跡は少なくとも表立ってはありませんでした」
「政府の進める『GO TOトラベル』事業に対して、分科会が慎重な意見を言ったそうですが、それならば科学的な論拠を示してもっと積極的に発信すべきです。いま政権が重視しているのは明らかに経済対策でしょう。経済と感染症対策との調和をいかに図るかということになりますが、経済を停滞させずに対策を進めるというのは本来、無理筋な話。政権に親和性の高い専門家を集めているから、政治の本質に関わるような問題提起がしにくいのです」
「 — 根深い問題ですね」
「(新藤さん)コロナに話を戻せば、厚生労働者には医師や看護師などの資格をもった医系技術官僚たちがいます。厚労省は2017年に医務技監という次官級ポストを設け、国際的視野から感染症などの対策を統括するとしました。しかし、政権の政策は医療、年金、福祉などの新自由主義改革をいかに進めるかにあり、医系技官たちは背後に押しやられてきたといえます」
「 — いま懸念しているのはどんな問題ですか」
「(新藤さん)地域の保健所で人員や設備が足りないといった悲鳴が上がっています。これは1994年に従来の保健所法を廃止して地域保健法を導入し、保健所の機能を縮小してきたことが背景にあります。コロナ禍が政策にどう影響するかまだ見えませんが、医療や福祉の軽視が進む可能性が高いのではないでしょうか」
「 — やはり政治の問題ですね」
「(新藤さん)一言でいえば、政治に蔓延する新自由主義のためです。世の中の民の話は市場に任せておけばいい、というのが今の政治の神髄です。病気になるのも自己責任、そうならないように毎日体を鍛えなさい、突き詰めるとそういう話です。多様な意見に耳を傾け、市民の生活にきちんと目を向ける、そこから政策立案できる政治の仕組みを作り上げるしかないと思います」
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