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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

霊のお使い

2021-07-08 10:42:00 | 短い話、短い歌
「おやめ!」

 争いはやめなよ。罵り合うって大人げない。もっと言えば人間的じゃない。だったら共存するなんてできないの。もう出てお行き! 月にでも火星にでもお行きなさい。できないって? 罵る時だけ威勢がよくて、謝るときには元気がないじゃないか。

「お取りよ!」

 今2つ取るなら普段1つ取るよりもお得ときたもんなんだよ。だったら取らなきゃ損だろうがい。あんた何を暢気におとぼけてんだい。凹んでる暇があったらお取りったらお取り! だけどお下がり! お取りの方は他にもたくさんおいでなすってんだよ。おわかりかいこの世間知らずのお坊ちゃんが。お下がりったらお下がり!

 もうよくわからないや。この人ずっと怒ってるのかな。何の落ち度があったと言うか。
 頼りになる持ち物を探していたけど、それが何であったのか思い出せない。大事なのはそれ自身よりもそれに携わった人の魂、あるいはそれに刻まれた言葉の方かもしれない。
 詩の終わりを伝えるのに、ある人はベルを鳴らした。またある人は3日置いた。僕はどうしたらよかっただろう。完とつけてみたものの、どうせすぐに始まって、それは世界を欺くも同然だった。そうか、その手があったんだ。だけど、知った瞬間、もう手を放れていった。

「お高くおとまりだよ」

 時空の隙間に挟まったペンを救出するには猫の助けも必要だけど、日当50万そこらでも動きやしない。腐るほどぼったくらせてやってるのに、これじゃ全く埒が明かないや。こうなったら特等席にでも招いて極上のゲームを見せながらミルクでも振る舞いましょうか。ああ、だけど自分だけの力じゃね。

「お困りかい?」

 アイデアが尽きたらおやすみよ。少し休んで英気を養うようにするといい。おおよそのことはそれで上手くいくんだから。お前さんおやすみよ。おっかない夢なんか見るんじゃないよ。やさしいものに包まれてお調子者になりなさい。おっ始めるのはそれからのこと。ゆっくりとお大事に。そうそう、今度はお薬手帳も持っておいでね。

(おしまい)




お取り寄せグルメに紛れ旅をするひんやり君は夏の幽霊


第14話(緩やかな相棒)

2021-07-05 19:43:00 | 短い話、短い歌
 海外の連ドラをずっと見ていた。
 14話目に入っても、登場人物が覚えられない。筋書きが全く入ってこない。本当に14回も見ているのだろうか。ほとんどの時間は眠っていたのかもしれない。(眠る気でない時ほど僕はよく眠ってしまう)

「まだみてるか?」
 話の切れ目で時々疑ってくる。
「はい」
 適当に指で返す。
「日々は続く」
 と主人公が豪語する。

 誰この人?



日々淡く分断されて千年もつきあいながら他人の二人

桂ちゃん/消しゴム

2021-07-03 21:21:00 | 短い話、短い歌
「桂ちゃん、すぐに助けに行くよ」
「みんな、僕に構わず中央を目指して!」

「桂ちゃん、どうしてそんなこと言うの?」
「自分の役目くらいわかってるさ」
「桂ちゃん」

「敵将は桂先の銀を選ばなかった。壁銀にして引っ込んだとこで僕の運命とこのゲームのモードが決まったんだ。僕が消えるまで、僅かだけれど確実に存在する時間に、みんなはできることをすべきだよ」

「どうにもならないの?」
「最初からわかってたんだ」
「桂ちゃん、何が?」

「僕ね、本当はただの消しゴムなの。だから……」

「いいえ、桂ちゃんは桂ちゃんだよ」
「ありがとう! さあ、早く、向こうの歩が伸びてくる」

「桂ちゃん、忘れないよ!」
「僕も……」

「さあ、みんな行くぞ!」

(私たちもすぐに行くからね)



殺し屋のタグが弾けて泣いていたみんなが主人公はうそなの


フライング・シャツ

2021-07-01 03:33:00 | 短い話、短い歌
 落ちることによって存在を知らせるように滑り落ちる。その度にシャツを椅子にかけ直した。何度も何度も。見ている間はシャツは大人しくそこにいる。けれども、目を離してしまうといつの間にか落ちている。ここにいたくないのか、それとも誰かに着てほしいのか。

 もう好きにしな。

 突き放した瞬間、シャツは大地を離れて行った。あっという間に手の届かない距離まで達すると、自分の小ささに改めて気づいた。

「待ってくれ!」

 ポケットに部屋の鍵があるのを忘れていた。引き留めたのはそれだけのためだ。声はもう届かないかもしれない。早まってしまった自分を責めながら、離れていく様を見送っていた。

 ビルの十階ほどにあったシャツが風を呑んで膨らんだ。そのすぐ側を鴉が横切った。漂いながら少しだけ停滞したシャツから、ゆっくりと光が落ちてくる。

 ありがとう、さようなら
 主のもとへかえりな




流行に周回遅れよれて愛着へと変わる君の夏服


きっと私じゃない

2021-06-29 10:55:00 | 短い話、短い歌
過度な期待は重たい
過大な評価は息苦しい

「せっかくですが……」

「十大だったら考え直していただけますか」

「いいえ、それでもやっぱり」

(日本五大ロッカーにあなたの名を)

 それは寝耳に水の話だった。他にもっと相応しい方がいくらでもいらっしゃる。私などまだ駆け出したばかり。少し目立ったくらいで勘違いすると酷い目にあう。いったい誰が私で納得するだろうか。私は次回作で壊れるかもしれない。壊れなければ開かれない風景もあるとするなら、輝かしい冠は足枷にもなる。今だけの名声が一生の財産に変わるとしても、私にはむしろ自由の方が必要だ。名もなきロッカーの魂を持ち、私はずっと燃えていたい。

「断ったんだって?」

「当然です」

「あなたにこの国は狭すぎるようね」

「そんなんじゃないですよ」

「いいえ、きっとその方がいいわ」


注目のホットチャートを抜け出して君が炙った五目チャーハン


マッチング・エラー

2021-06-28 21:19:00 | 短い話、短い歌
 あなたは頑なにちがうと言う。IDもパスワードも合っているのだ。一字一句誤っていない。わざわざ真っ赤になりながら「ちがいます」と告げてくる。まちがっているのは、あなたの方だ!
 今日は歌の約束があるのに。ずっと門前払いされ続けている、これは何かの罰なのだろうか。きっと扉の向こうでは待ちくたびれて……。

「あの人今日は来ないな」
(確か約束してたけどな)

 何かあるのかな。きっと色々あるのだろう。
 人には色々あるものなんだから……。


指先で僕を認めて引き入れた歌の世界は人影疎ら


今日の口

2021-06-27 10:38:00 | 短い話、短い歌
 昨日はチャーハンを買いに行った。一昨日チャーハンが食べたかったことを覚えていたからだ。
 今夜はコンソメスープが飲みたくなった。こういう時は家にポタージュスープしかないのだ。味噌汁の類は鬼のようにあるのに、コンソメスープは1つもない。突然、恋しくなるから困るね。


予告なく湧き出してくる恋しさが君の不在を知って広がる


国道レース

2021-06-24 08:19:00 | 短い話、短い歌
 思うままに野原を駆け回っていた頃は、怖いものなんてなかった。いつでも自然を友とし、風を味方につけていたのだ。結ばれる手はあっても、自分に牙を剥くようなものは存在しなかった。恵まれた環境に気づくこともなく、時がすぎた。初めて都会に出てわかったことは、友を見つけることの難しさだった。気づいた時には、激しい競争の渦に巻き込まれていた。

「お兄さん後ろ」
 馬上の僕を見上げながら店の人が言った。
「えっ?」

「矢が刺さってますよ」

 またか。さっきから何者かに追われているような気がしたのだ。しかし、分厚いリュックが我が身を守ってくれた。

「ありがとうございます」

 番号を伝えてたこ焼きを受け取った。熱い内に届けることが、現在の僕の仕事だ。危険が多くても今は前に進む以外にない。僕らは人馬一体となって国道に躍り出た。




突き刺さる背中の痛み保証なき馬主となって我が道を行く


捨てる男 ~ミスタッチ・ブルース

2021-06-24 03:29:00 | 短い話、短い歌
「せっかくですけど」
 そう言って機会をドブに投げ捨てる。

 好意は素直に受け取らない。物心ついた頃から、ずっと曲がった信念に支配されてきた。また次がある、まだ大丈夫。どんなチャンスも余裕でドブに捨て続けた。慣れてしまえば、後先を考えて思い悩んだりするよりよほど楽だ。気づいた時には、自分自身ドブの中を歩いていた。これが今まで僕がしてきたことか……。
 足取りは重く、抜け出す術は見当たらない。もしもあの時、あいつのくれた助言を軽く拾っていれば、僕の周りはもっと多くの声で賑わっていたのかもしれない。今はただそこら中にくすぶっている未練の切れ端を拾い上げて、小さな歌にしてみるのがやっとだった。それでは聴いてください。



『ミスタッチ・ブルース』 


粉末のスープを捨てて冷やし麺


サービスのわさびを捨てて本わさび


情熱はレシート風に飛んでいく


延々とケトルの下の入門書


開封後一口食べて期限切れ


100億の読みを切り捨て第一感


どフリーでふかすシュートは雲の上


恋文を捨ててプライド・キープ・ナウ


ゆで汁を捨ててパスタはまだ硬い


冷房に震えて被る冬布団


結末を一行残し半世紀


1グラム余して捨てるプロテイン


ミスタッチばかりで凹む90分


期限切れクーポンだけを持っている


ランニング帰りに一丁みそラーメン


ねんねん妨害

2021-06-23 06:50:00 | 短い話、短い歌
「お前たち人間は、
時間という観念の中で万年を過ごす。
自らが生み出した観念の中で雁字搦めになって、身勝手な取り決めと煩悩の間で、金品を食らう。手にもつかめぬものに、大仰な観念を取って付け、豆を食らいローソクを立て、やれ向こうに行け、やれおめでとう、やれやれお茶をくれなどと、我が物顔の振る舞いが止まらない。お前たち人間の未来それは、むにゃむにゃ……」

「ああ猫さま、どうかその先をお教えください」
「わしもう寝んねん」
「寝ないでください! もっと教えてください」

「時間という観念の中の革新的テクノロジー。観念に煩悩を着信のイデオロギーが秋の味覚が大喝采。実際に観念に雁字搦めの工事中、ここは通れません。通り抜けできませんって、誰に言うとんねん。時間という観念に溺れては万年を過ごす。これ、そこの兎、大人しゅうせい。魔性の観念に疲れてはつかず離れず、上ロースのライセンスを取得の天狗めが。もうええかな、寝んねん、寝んねん」

「猫さま! もう少しお聞かせください」

「小賢しい人間の狢たちが。時間という観念を持ち出しては茶番劇の万年を過ごす。情念は十年に溶けず、かたや焼きそばは十人でも待たす。これいともどかし。秋は十五夜ふかしお芋の恋しさは千年枕の金平糖。採点は満点か冬の星座が天然水、得てして魚肉を食らえば、やれ収穫だ、やれ年の瀬だ、やれ大変だ。時間という観念を背負ったアンカーが草履を履いて師走の運動会。指をくわえて静観する一大事を笑い飛ばして、いかにも時間とは観念のきなこ餅とはどやねん。むにゃむにゃ」

「ああ猫さま! お教えください! 人間の運命は」
「寝んねん。わしもう寝んねん」
「おやすみ前のひと時だけでも、どうかお恵みください」

「お前たち人間は、時間という観念を練り上げて、待ちわびて忍び、落ち延びて寝ころんだ。観念という水脈の中に思索を広げては、情念を大根に煩悩を竹輪にして煮込みの友と呼んだ。忍びが投げる手裏剣が柿色に染まる時、自ら仕込んだ観念の愚かさを知るものであるが、小さな風は気晴らしにもなるし、歌として冬を包むこともできたのだ。人間という地面師が月を根こそぎ持ち去ろうとしても、美しい花は観念の中に埋没していることを選ぶのかもしれない。だから、もういいかい。時間という観念の中で万年を過ごす。むふゅー」

「ああ、猫さま! 私たちはどうなりましょうか」
「寝てんねん。もう無理やねん」

「その先の未来は?」
「寝んねん。もうええやん。お前もねえや」
「猫さまー!」




その節は墾田永年看板屋
終電はけてここで寝んねん
(折句「そこかしこ」短歌)


カイトヘ飛ばせ

2021-06-22 10:59:00 | 短い話、短い歌
 おじいさんは山に芝刈りに、おばあさん川に洗濯に……。そんなのおかしいと言って君は出て行った。私は布団の中に潜り込む。方法は違うけれど、お互いにとっての旅だった。たくさん眠るほどに遠くへ行った人に会うことができる。そこには忘れかけた何かが残っていて、失われた自分を取り戻すことができる。

(何も置かないでください)
 貼り紙の効力は半月ばかり続いた。
 新しい作業スペースの誕生。しかし、いつまで経っても何も始まらなかった。仕方なく地べたで泣いている手荷物は多くあった。閉店が決まると次々と処分品が集まってきてスペースを占領した。いつの間にか、あの貼り紙も姿を消していた。そして、もうすぐ私たちも……。

「もしも明日オリンピックが開かれるとしたら、何の問題もなく開かれるものとお考えですか?」

「外出そのものは悪くないと聞いております。まずは若者と酒類の販売に重点を置きながら、広く専門家の意見も聞いて様々な観点から総合的に判断した上で、できる限り早急に人流の抑制に努めて参りたい……」

 消してくれ!
 メルヘンの奥に足を踏み入れていた君が、今はいちばん近くにいた。倉に眠っていた絵画を売りに出すと、それなりの額になったようだ。君はその中に実験的に1つの自作を交ぜてみたのだが、それは50円の値がついた。君はいったい何に怒っていたのか。まだ途中だった多くの作品を一度に捨ててしまったのだ。

 君が絵を持って行ってしまったので、私の詩は頭を失ってしまいました。今は文字だけ。それは孤独になったという意味です。

「着飾っていなければ見つけられない」

 私はそれを信じているわけではない。
 だけど、失った何かは大事にしていたものだった。




愛してた脈に流れる詩を切って
夜行列車のカイトヘ飛ばせ

(折句「あみじゃが」短歌)

スタッフを探せ

2021-06-20 11:10:00 | 短い話、短い歌
 身近なスタッフを見つけて話しかける。好印象を与えることが最初のステップだ。スタッフというものは、だいたいそれらしい格好をしている。正しく観察すれば、見つけることは難しくない。

「あっ、スタッフさんですか?」
「何か?」
 よいスタッフというのは反応がスマートだ。今日は幸先がよい。

「ご苦労様です。ちょっとお話書いたんで、よかったらみなさんにも紹介していただけますか」

「ほー、お話ですか。それは猫の写真とかはあったりします?」
「いいえ、文字だけです」
「そうですか。それでは今度機会がありましたら……」

「ありがとうございます!」

 気に入ってっもらえるかはわからない。とにかく今は一人でも多くのスタッフに当たることだ。スタッフを見つけては積極的に声をかけ続ける。それだけが私の小説作法だ。現在のところ他に手段は全くない。

「すみません、スタッフさんですか?」
「どうされました?」
「ご苦労様です。新しい小話ができたんで、もしよかったらみなさんにも紹介していただけるとうれしいのですが」

「小話ですか。それは猫の写真とかも出てきますか?」
「いいえ、文字だけです」
「そうですか、わかりました。機会がありましたら是非とも……」

「ありがとうございます!」

 猫を探しているスタッフが多いことはわかっている。私だって猫は好きだが、私の家に猫はいない。妄想の中で猫と戯れることはできるが、それを表現するのは文字でしかない。どこまで伝わるだろうか不安は多い。

「あっ、スタッフさんですよね」

「いかにもそうですが」
 中には少し横柄な感じのスタッフもいるが、選んでなどいられない。

「ご苦労様です。あのポメラのエッセイがあるんですけど、よかったらみなさんに紹介とかしていただけます?」
「何? わんちゃんですか」
「いいえ、その、キングジムのpomeraなんですけど……」

「えーっ、文字しか出てこないの」
「はい。文字だけです」
「ふーん。(文字ばっかりかいや)まあ一応お預かりしときますね。それじゃあ、仕事がありますんで……」

「ありがとうございます!」

 ああ、これは望み薄だな。悲観している暇があったら次のスタッフを探す方が、まだ発展的だろう。過去ばかりを振り返るよりも、小説というのは先へ進むべきではないか。私にとっての未来、それはスタッフを探すこと。

「すみません。スタッフさんですか?」
「いいえ違いますけど……」

「すみません。間違えました」

ま・ぎ・ら・わ・し・ーーーーーー

 違いますけど……
 何? 怒ってるの?
 何か言いたげな感じ

違いますけどーーーーーー

 どこがスタッフなの
 もっと人を見る目を養った方がいいんじゃないですか
 とか言って追っかけてきそうだ。
 一刻も立ち止まってはいられない。
 躓きは成功を向いたスタートラインだ。

「あのー、スタッフさんですか?」

「はい?」

 はい?
 こいつも偽物か……。




凛として立ち凛として商品に触れるあなたはフェイク・スタッフ


お目覚めシュート

2021-06-19 10:39:00 | 短い話、短い歌
「あなた熱すぎて疎ましいの。私たちはクールな歌会だから」

 クラスタに属するのは得意じゃない。
 独りで落ち着いてコーヒーを飲もうじゃないか。
 誰にも邪魔されない時間。それこそが僕の望むもの。

「当店のどんなアイスティーも、お客様の熱を下げることができません。お引き取りを」

 そんな……。
 僕の望みは温かなコーヒーだった。
 まだ行くところはある。
 世界で一番心地よく迷子になれる素敵な場所が。

ピピッ! ピーーーーーーーーーーッ!

 店員が僕の額を光で撃ち抜いた。
「申し訳ございません。
 当書店のいかなるホラー小説をもってしても、
 お客様の熱をお下げできません。
 さようなら」

 すべての希望を失って街をさまよい歩いた。
 たどり着いた病院の先で、僕は倒れた。
 もう、これで終わりだ。
 目を閉じれば再びかえってくることはできないだろう。

 遠退いていく意識の向こうに、ホンダ・カーブの影を見た。
 どうして、ここにいるの?
 僕はスタジアムの袖に伏せながら、白熱の試合を眺めていた。
 ホンダ・カーブの強烈なシュート!
 目覚めた瞬間、背中に羽が生えている。
 僕、鳥に生まれ変わったんだ!


一閃のシュートに打たれ生まれ出た人生はゴールへ向いた旅


思い出の魔女

2021-06-18 21:24:00 | 短い話、短い歌
「安全安心という言葉、これは「あん」と「あん」を取ってつなげると「ぜんしん」という言葉が見えてくる。これは無意識の内に刷り込ませる意図があったのでしょうか。また、ここまで徹底して韻を踏むというのは、音楽業界を意識してのことか。2つの熟語を執拗にくっつけることの意義はどこにあるのか。明確に端的にお答えいただきたい」

「今から50年前、あれはまだわしが子供の頃じゃった。テレビでオリンピックの放送をやっておった。あの頃のテレビと言えば随分と重たかったもんじゃ。後ろの方が出っ張って運ぶとなると大層難儀なことじゃった。外国人選手たちとの球際の激しい競り合いはとても印象に残っておる。ご飯を食べながらかじりつくようにテレビを見ておった。おかずは確か梅干しと芋くらいじゃったかのう。世界基準の素晴らしい技術を見る内に、わしはすっかり虜になったもんじゃ。ああ、サッカーがしたい。でも、ボールはない。なくてもしたい。思いは募るばかりでの。その時じゃった。どこからともなく魔女が現れたかと思うと梅干しの種にサッとパウダーを振りかけたんじゃ。するとそれはサッカーボールに変わったのじゃ。それから兄と二人で時の経つのも忘れて遊んだ。兄はとてもボールの扱いが上手で、わしは一度も勝てなかった。十年後、兄は単身オランダへ渡りプロのサッカー選手になった。そのような夢と感動を今の子供たちにも伝えてあげたい。スポーツはどんなドラマよりも素晴らしいもんじゃ。いずれにしろ、組織委員会と調整した上で総合的に判断されるものと考えています」

「ねえねえ、ばあちゃん、魔女っているの?」

「ええ、魔女はいるわ」

「どうすれば会えるの?」

「お利口にしてたらきっと会えますよ」




無回転ボールに乗って飛んで行く魔女は令和のファンタジスタ


ファンタジー・チケット

2021-06-16 08:15:00 | 短い話、短い歌
 人の列は数えるほどで順調に流れてすぐに自分の番がきた。

「異世界行き1枚」
「すみません、もう一度」
「異世界……」

「そんなものはない。後ろを見なよ」
 急に声のトーンが変わった。

「えっ?」
 駅員に言われるまま振り向いた。

「食われちまうよ」

 僕の背後には無数のゾンビたちが列を成していた。さっきまではいなかったはずだ。僕が先頭に立ってからしばらくの間に、状況が作られたに違いない。

「本当にないんですか」

 背中に圧を受けながら食い下がった。彼は間違いなく人を見ていた。異世界行きの切符はあるのだ。

「お客さん理由はあるの?」

 駅員が口を開くと中から鋭く光る2本の牙が出てきた。
 ああ……。それ以上声が出なかった。尖った銀色の先を見つめている内、僕は身動きができなくなった。誰かが僕の肩の右に触れ、続いて左に触れた。




うたかたの読者になってさまよえばカクヨムは異世界の趣