「せっかくですけど」
そう言って機会をドブに投げ捨てる。
好意は素直に受け取らない。物心ついた頃から、ずっと曲がった信念に支配されてきた。また次がある、まだ大丈夫。どんなチャンスも余裕でドブに捨て続けた。慣れてしまえば、後先を考えて思い悩んだりするよりよほど楽だ。気づいた時には、自分自身ドブの中を歩いていた。これが今まで僕がしてきたことか……。
足取りは重く、抜け出す術は見当たらない。もしもあの時、あいつのくれた助言を軽く拾っていれば、僕の周りはもっと多くの声で賑わっていたのかもしれない。今はただそこら中にくすぶっている未練の切れ端を拾い上げて、小さな歌にしてみるのがやっとだった。それでは聴いてください。
『ミスタッチ・ブルース』
粉末のスープを捨てて冷やし麺
サービスのわさびを捨てて本わさび
情熱はレシート風に飛んでいく
延々とケトルの下の入門書
開封後一口食べて期限切れ
100億の読みを切り捨て第一感
どフリーでふかすシュートは雲の上
恋文を捨ててプライド・キープ・ナウ
ゆで汁を捨ててパスタはまだ硬い
冷房に震えて被る冬布団
結末を一行残し半世紀
1グラム余して捨てるプロテイン
ミスタッチばかりで凹む90分
期限切れクーポンだけを持っている
ランニング帰りに一丁みそラーメン
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